シミュレータで長晋が一ヶ月自給自足生活「高杉さん反省してください」
聖杯を無断で拝借しようとしてうっかり森に見つかった高杉の首には現在、『反省中』の札が掛けられている。
「反省? 確かに森君の行動パターンを見誤ったのは痛かった」
ちょっと微特異点で高杉重工の更なる発展を目論んでいた高杉だったが、おい何やっていると声をかけられ、即座に宝具を喰らうところだったが運良く他のサーヴァントが藤丸を呼び出し、どうにか座に還るような事態にはならなかった。
「殿様、やっぱこいつ殺していいか」
「ダメ! 森君も反省してね」
高杉を止めたところまでは良かったが宝具を打つのはよろしくないと森の首にも『反省中』の札がかかっている。
「分かった、反省してやろうじゃないか。謹慎、独居房、」
どれも経験済みだといっそすがすがしい態度を取る高杉に藤丸は、べべんと垂れ幕を突きつける。
「シミュレータで長晋が一ヶ月自給自足生活? なんだい、長晋って、そもそも自給自足って云っても」
サーヴァントは食事も睡眠も不要だ。
魔力にしてもマスターとパスさえ繋がっていれば最低限の魔力は供給されるので問題はない。
「魔力は供給しますがその間は、睡眠はもちろん食事の獲って貰います」
「待て君、今、獲ってと云わなかったか」
「ほーん、まぁせいぜい頑張れよ、社長」
「森君もね、反省と高杉さんの監視役として同行して貰います」
「場所は? 戦場の状態わかんねぇじゃ、対策しようがない」
殺しちまえば良いだろうといつも溌剌と洗浄を駆け回っているが、さすがは城もち大名だ。「いやそこまで過激な場所ではないから、海と山どっちが好き」
「海か山……」
どうやら過去の洗浄を思い出しているようだが、行くのは戦場ではない。
海であれば洞穴は用意しているし、山もうまく二人が協力すれば山小屋くらいは一日で建てられる優しいミッションだ。
あくまで二人が反省するために用意したのだ。
ちなみに長晋とついているのはこの垂れ幕を用意してきたときに、その類いが好きなサーヴァントが部屋を訪れたかだ。
「いやだから、ん……」
「お取り込みのところ悪いけど、海は生憎品薄でね」
技術顧問であるダ・ビンチが画像を通して藤丸に話しかける。
「んじゃ山で良いわ、」
「おい僕にも選ぶ権利はあるだろう」
「ない、黙ってついてこい」
「そういうことですので、早速行ってらっしゃい、」
グッドラックという顔で藤丸は二人を送り出した。
**
「右を見ても左を見ても山! 川のせせらぎが聞こえるが、おい、遠くにも山が見えるぞ」
紅葉や桜の木があるあたり日本だと分かるが、二人以外に人はいないので時代も場所も分からない。
「山々うるせぇ……おッマスターから連絡が入ったぞ」
「うん通信には問題ないね、これから二人には一ヶ月そこで生活して貰うけど、流石に何もないのは可愛そうだと、皆がいくつか用意してくれたから、小屋ができ次第送るね」
「小屋ね、どうやって、作るんだ」
「野営か……おっなんか柱っぽいのが落ちてるから集めれば良いじゃないのか」
どちらも戦を経験しているが時代が違いすぎる、ここは古の戦を知っている森に任せようと高杉は云われたとおり素材を集めた。
「てってれん、ログハウス~」
「なんだそりゃ」
「未来のロボットの真似、」
出来上がったのは丸太を組んだログハウス。
分かったことだがどうやらサーヴァントとしての肉体数値ではなく、生前の肉体機能しか使えないようで、流石の森も丸太を一本ずつしか運べなかった。
今なら高杉も森に勝てるのではないかと思ったが、細木を抱えようとすれば足下がフラつくのでやはり頭脳戦で勝つしかないと諦めた。
「出来上がったようだね、そうして協力し合ってね、じゃあそっちに送るね」
着地した荷物で一瞬地面が揺れる。
「えーと卑弥呼さんからは米、茶々様からは南蛮菓子、あとは塩と醤油と茶……」
「醤油、それは助かる、気が利くやつもいるな、誰だい用意したのは」
「知らねぇ方が良い」
「あとは秀吉様から風呂桶」
「おっあの合戦で使ったやつか、殿下らしい」
黒漆を塗った風呂桶に森は見覚えがあるようだ。
「豊太閤が……いつ使ったやつだ」
「殿様の時代だと小牧長久手の戦い、」
「またすごいの送ってきたな!」
「まぁ使えりゃいいだろう……」
「うん……ごめんね、あとは万が一に備えてレトルトカレーと、ノブからも貰ったけど送っていい?」
「大殿からだろ送ってイイに決まってる」
ポスッと送られてきたのは、可愛らしくラッピングされた包み。
森は包みを開くとそっと高杉に渡した。
森家可愛いの信長ならきっと二人のためになるモノを送るはずだと、藤丸は期待していた。ある意味では役に立ちそうだが、キャンプに行くのではない、反省しに行くのだと言っても聞く耳を持たなかった。
「使わないぞ! もっと布団とか何かあっただろう」
中身はコンドームとローションだった。
「そこ? ああ布団でしたら、仲良し千ポイントで交換できます」
「なんだよそれ、」
「ログハウスを作ったときのように二人で協力することに加算されるポイントです、ちなみに今は百ポイントなので、茶碗を受け取ることが出来ます」
「ノリノリだな、ちなみに最終ポイントは」
「一万ポイントですね、あっ交換アイテムの一覧とクエスト、ミッションは送ってあるので後で確認してください」
「ところでよ殿様、ここって」
「気づいた、そうだよね。森君の故郷。時代も同じようにしたけど完全に同じではない、」「うちの城がねぇから驚いたが、そういうことか」
「気づいたなら出せるけどどうする」
「地点で欲しいな、」
分かったと藤丸が操作すると、かの城が復元された。
「君の家というか城の周り、ズルい、君にしか良いことないじゃないか」
「てめぇは反省しにきてるんだろ、おし仲良しポイントとやらささっと集めるぞ」
「どいつもこいつもノリノリだ……」
*
「うっしゃ、今何匹仕留めた。大きいのは百点な」
「十匹、えっと基準は」
「まどろっこしいから、雄か雌にするか」
「鮎の雌雄なんて分からないぞ、」
仲良しポイントミッション、二人で鮎釣りとあるが釣り道具がない。
高杉も武士の嗜みで釣りはしたことがあるので、適当な枝を見つけようとしたがそれより先に森が川に岩を投げては、鮎を生け捕りにする原始的なやり方で鮎釣りを始めていた。勢いよく岩を投げるせいで、服はずぶ濡れだがもうすぐ仲良しポイントで消えないたき火が、貰えるのでその点は心配しなくてもよい。
ちなみに服は濡れこそするが、衛生管理の煩い婦長がいるので汚れずにいる。
「串刺しにする串は見つかったか」
「ああ、」
「順番に刺しとけ、あと米と汁物も欲しいな」
藤丸が言っていたとおり確かに腹が減る。
最低限のパスで躯が保たれていても生活するためには、補給しなければならない。
「なんつーか反省というからもっと刺激があると思っていたが、」
「キャンプだよね……」
火を熾しもせず、ほどよく焼けた鮎を頬張りながら二人、のほほんとした気分に浸る。
「仲良しポイント二百ポイント達成、クエストのレベルが上がります」
「腹ごなしも済んだし、オッこれなんて一気に千ポイント貰えるから今日中に布団で寝られる」
「いいね、で、どんなクエストだ」
「襲い来る猪と熊を倒す、面白ぇそこは変わんねぇのな」
「えっ熊いたの」
「いた、今もいるらしいぞ」
「うぁ……ところで、丸腰で戦うとか正気か!」
「この場合に限り武器の使用を認めますだとよ、熊は百点、猪は十点、小物が出たらそれくらいはてめぇに手柄譲ってやる」
よしゃっとニコニコ顔の森を止められる奴は誰もいない・
「皆殺しだ、」
先ほどまで平和なキャンプをしていたはずなのに、いきなり血まみれになっている。
宝具こそ打てないが、愛槍を手にした森は挑んでくる熊の心臓を貫いたり、猪の脳天を突いたりしている。
森が大物を仕留めるのに夢中な森にかわって、小物を爆薬で散らすのは高杉の役目だ。
この火薬残しとけないかなと考えて懐にしまっても、すっと消えていくのが分かる。
「クエストクリア、布団が受け取れます」
「何度でもクエストは出来るんだろ、もう一回」
「森君これあくまで高杉さんと仲良くするイベントだからね、」
「マスターケチケチするなよ、千ポイント貰えるならこのクエストクリアしていけば、一万ポイントなんてすぐそこだろ」
「次のミッションに行ってください、あとお風呂入ってくださいね」
どうやらこのミッションでは臨場感を出そうと血まみれになる仕組みのようで確かに森は全身血まみれである。
まさか初日からは秀吉が用意した風呂桶を使うとは思わなかった。
「湯加減はどう」
「丁度いい、しかしなんだよこれ」
「川からいちいち水を運ぶのは大変だろう。うまいこと竹を利用して自動的に水を溜める装置を作ってみた」
「まぁ侘びているからいいが……」
「それは認める」
漆黒の風呂桶は金ぴかの茶室を作った秀吉とは思えないほど、シンプルなデザインだ。
「違ぇよ、この竹だ、」
鹿威しみたいだというがその通りそれをイメージして作ったのだから当然だと高杉が、もっと褒めろと顔に出す。
「その顔、殺してやりてぇがクエスト終わった途端消えちまったから、帰ったら覚えておけ」
「帰ったら、そのときには僕も宝具が打てるのを忘れてない?」
様子を見ていたマスターだったが、喧嘩するほど仲が良いというやつじゃと森家可愛い信長が森の様子を見に来ていたので止めに入った。
**
そんなこんなで仲良しポイントを溜めていた二人に最大のハプニングが訪れた。
最終ミッションであるトラブルを二人で解決するというクエストに挑戦したところ、今までの便利グッズもログハウスも綺麗に消えてしまった。
残された期間は後二日、幸いマスターの魔力供給と急ぎ森が川沿いに野営の準備をしたので、問題はないが、ここにきていきなり野宿は辛いモノがある。
夜になれば月明かりだけでは心許ない。
どうにか火をおこして灯りと暖を確保した。
「鮎のつみれ汁、ほかほかおにぎり、朴葉なんとか、森君の用意したお茶」
「うるせぇ、食いもんあるだけマシだろう、兵糧が尽きたわけじゃねぇ」
「カステラが食べたい、いやおせんべいも美味しいがふわふわしたのが食べたい」
なぜか木の実を集めて交換すると落花生の入ったせんべいと交換できるので甘味にも困らないが、パリパリした食感よりも今は口の中で蕩けるカステラが食べたい。
「木の実でせんべいと交換できるなら、卵と小麦があれば出来そうだけどな」
「本当?」
「本当も何も大殿が明智に討たれた後、ソコを治めたのが俺だから。元々は大殿のおばのと嫁に行った場所だけど」
聖杯の知識で自分のゆかりの地で出来た特産物の知識を得た森が語る。
「ちょっと小麦と卵を探して……」
「卵はまぁ見つかるが、米で代用できればな。まぁ茶々様がいつも食べているやつとちっと違うらしいが」
「ほーん」
ちなみにマスターがモデルにしたという企画番組では鶏は飼っていたようだ。
「なんだよそれ俺の真似かよ」
「そのカステラは帰ったら食べることにする、折角なら美味しいお茶と一緒に食べてみたい」
「そうか、しかし……やることもなくなると退屈だな」
寝そべり、朝が来るのを待つしかない。
ポイントで書物や筆を手に入れたがそれも皆消えてしまった。
「この僕がいて退屈とは? ……」
「っ……いきなり、寄りかかってくるな危ねぇだろう」
「森君……ずっと気になっていたのだがその印籠の中には何が入っている」
大事そうに持ち歩いている森の印籠の中身が知りたいと高杉は目を輝かせる。
「……中身見たのか」
「君が中身を確認しているときにね、どうせ一度は体験してるんだ、最後だって楽しまないと損だろ」
特別クエストで媚薬を飲まなければ行けない部屋を開いてしまった二人は、信長が用意した大人の道具に世話になったし、万が一のレトルトカレーも美味しく頂いた。
「ヤケに乗り気だな、何企んでいる」
「何も思いのほか君と過ごすこの日々が愛おしくなっただけだ」
高杉は、印籠の中身を取り出すと口で舐って見せた。
*
「青い空 カンカン照りだ 熱中症」
「何その句」
ボイラー室でぐだっている信長がいきなり変な句を詠いだした
「なんでもないぞ、おぬしらが大ハッスルしたとか、そのせいでちょこっとシミュレータのデーターで奇妙な怪談伝説が出来たとか」
山でサバイバルが出来ると一部のサーヴァントが定期的に開いてくれと云われて、様々な仕掛けを作ったが、なぜか村に下りると山からすすり泣く声が聞こえるだの、目の輝く熊をみたなどの話を喋るので二人の関係を勘づいているモノは、妙な気持ちになってしまう。
「ほーんそうなのか」
「……勝蔵帰ってきたか、マスターへの報告は済んだか」
「幾ら大殿でもこいつを弄っていいのは俺だけだ」
「ひゅ~、いやすまんすまん、こいつで手を打て」
信長が手渡したのは食堂のリクエストチケットだ。
「おつやのことは儂も色々とな、ああ、茶々にも食べさせてやれ」
「そうする、」
食堂へ向かいチケットを渡すと、準備もいるから明日のおやつでもいいかと云われ二人は頷いた。
「ねぇ森君、今度はさ僕の地元で、どうかな」
「反省してねぇだろ」
「したさ十分、今度は誰にも邪魔されずにね」
ふふっと笑う高杉に森はコクリと頷いた。