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    ひなせ

    @late_sw95

    物書き。マイペースにpkmnメインに書いてます。 取扱:grao
    (今後書きたい:sgao、grao←sgr
    いつか書きたい:amlk)

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    ひなせ

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    マブ監02で展示した一部です。
    加筆修正して短編集を作ります〜

    私と彼のボーダーライン 「好きなんだけど。ユウのこと」
     
     夕暮れの校舎、橙に照らされる中庭に呼び出された私はその言葉に暫し立ち尽くしてしまう。真っ直ぐに見据えられた視線の先は、何処となく頬が赤く照らされていて。その言葉に嘘偽りなんてないと言うことが痛いほど伝わってくる。だけど。

    「ありがとう。私もエースのこと好きだよ。……デュースも勿論グリムも」

     あ、あとハーツラビュルの先輩たちも好きだよ、そう笑顔を返せば真面目だった表情が一転、途端に眉を顰め「はぁ⁉︎」と表情を崩して珍しく焦りを見せながら私の肩を掴む。

    「ちょ、嘘でしょ? それ笑えないって、オレと同じじゃないの? だっておまえ……」
    「同じだよー、友達として好きだよ」

     それだけを返して今出来る限りの満面の笑みを作ってエースにそれを告げる。それはきっと一過性か、友情と履き違えているか。それを伝わるよう声色に乗せて。

    「だから違うって! オレはそっちじゃなくて……」
    「なんで? 私達はずっと友達でしょ。それに、恋愛なんて良く分からないって言ってたじゃん」
    「……」
    「私も良く分かんないしさ! だからそういうのじゃないと思うよ」

     言い切り。笑顔を絶やさずに言ったものだから徐々にエースは言葉を無くして、じゃあと背を向ける。一人残された私に容赦なく風が吹き荒れる。
     ああやって誤魔化したけれど、私はエースに対して友情とは違う好きを抱えている。いつの間にか、一瞬足りとも視線を外せずにいた。一挙一動が気になって、どう思っているかどう思われているか気になり始めて。初めて出会ったあの日を思い返せば、こんなにも長い時間を共有する事になると思わなかったし最初は「嫌味な奴」だとそう思っていたくらいだ。それなのに、エースはどんどんと私の中に入り込んできては存在を大きくしていく。どんな時もずっと隣にいて、ピンチの時には必ず駆けつけてくれて。そんなの、どうしたって好きにならないわけがなかった。
     けれども、元の世界に戻りたいと願う私には過ぎた感情だから、こんなものあってはいけない。そう自分に言い聞かせていた。そんな矢先での出来事。

    「(……エースが私をそんな風に思うなんてあり得ないでしょ。それに私……いつかいなくなっちゃうかもしれないのに、そんなの言えるはずがない)」

     そんな素振りもなかったし、昔の話をしながら如何に恋愛に興味がないとも。だから余計に言えずにいた。それなのに……。
     どんな風にオンボロ寮に戻ってきたか記憶はないのだけど、気付けば談話室にいて三角座りをしながら酷く落ち込んでいる私。いや、気付かない振りをして受け流した私がそんな資格ないか、と自虐気味にため息を落とす。

    「んぁ? どうしたんだ子分〜? 元気ねえけど、腹でも痛いのかぁ?」
    「心配かけてごめんね、そんなんじゃないから大丈夫だよ」

     おずおずと様子を伺うようにグリムは私を気遣ってくれていた。申し訳ないなぁと思いながらも立ち直る事はなかなか難しい。

    「またエースかデュースに言われたのかぁ? それともおまえまでリドルに首をはねられた?」
    「ぶっぶー。両方ともハズレでーす、私がそんなわけないでしょー。なので今日のツナ缶はありませーん」

     ふなっっ⁉︎ とグリムの嘆きの声が聞こえてきて、思わずふふっと笑いが零れ落ちて、悲壮な顔があんまりにもおかしくて声を上げて笑ってしまう。すると騒ぎに気付いたゴーストたちも駆け付けて談話室は笑い声が絶えない賑やかな灯りに照らされる。
     いつの日にか、私がこの世界から居なくなってしまったら全部なかった事になってしまうだろう。この楽しい空間も温かな人々も、自分の気持ちも彼の視線も。だから、境界線を引いて一線をおかないと後で苦しくなるのは嫌だから。だからそれに気付かない振りをする。自分の気持ちに蓋をして、それが一番良いんだ。
     
     夕暮れ、橙に照らされる校舎と差し込む夕陽に中庭には影が二つ。一つは曖昧に笑う私に、もう一つは真剣な眼差しの彼。まるで今日の出来事をリプレイしているみたいだ。……エースのオレンジベージュの髪色が夕陽に照らされて余計にキラキラ輝きを魅せている。綺麗だなぁとぼんやり見つめる。
     
    「好きなんだけど。ユウのこと」

     やっぱりこの言葉。本当は嬉しくて涙が出そうで。でもそれを認めちゃいけなくて。二回も断らなきゃなんて辛すぎるけど、手のひらをグッと握りしめて、また同じに言葉を告げようと口を開く。

    「ありがとう、私もエースのこと好きだよ。……デュ……」
    「ほんとに⁉︎ やっぱオレら両思いじゃん!」
    「⁉︎」

     言葉を遮られ不意に抱き寄せられる、ぐっと強く身体中がエースの匂いでいっぱいになって思考が上手くまとまらない。

    「え⁉︎ あ、あのエース⁉︎」
    「ありがと、ユウのことすっげー好き。大事にするから」

     戸惑う私を置き去りに、何度も何度もその言葉を落としては強く抱きしめるエース。こんな流れ知らない!

    「えっと……だから、その」

     言葉が上手く出ない。早く違うって言わなきゃ、こんなの駄目だって。焦るばかりで腕の中で踠いてもどうにもならなくてなすがまま。エースの腕の力とか暖かさが身体全てに伝わってきてどこか嬉しくて、尚更辛くなる。本当は……こんなにも好きなのに。
     視界がぐにゃりと歪んだと思えばぴぴぴ、とどこから聞こえる電子音に私は意識を取り戻す。跳ねるように飛び起きて周りを見渡せばいつもの寝室。隣にはお腹を出して盛大な鼻ちょうちんを作りながらムニャムニャ夢の中なグリム。

    「……ゆ、夢か……」

     そこで漸くあれが夢だったことに気付き、脱力する。そしてうっすら瞳に涙が浮かんでいることに気付く。瞳をこすりながら盛大なため息を一つ夜の帳に零す。

    「……び、びっっくりした……。なにあれ……、夢の中のエース……積極的過ぎるでしょ……」
     

    「監督生〜、ノート写させてよ」
    「……」

     夢の中のエースを思い出し気恥ずかしさと共に現実でも告白されそうになったのも事実だし、これ以上近づいたらダメだとボーダーラインを引こう、今までみたいな距離感はやめにしよう。そう昨晩決意したばかりなのに。何事も無かったかのようにエースは私の周りを囲うようにいつもと同じ調子で話しかけてくる。気まずく思っているのは私だけみたいだ。

    「トレインの授業、居眠りしちゃったんだよね。だから追加で色々出されてさー」
     あー……さっきの魔法史か。確かに先生、エースを呼び出してたな。少し前の記憶を呼び起こす。
    「自業自得じゃん……。て言うか、私のよりジャックに借りなよ。分かりやすいし綺麗だよ」
    「えー。ヤダよ。ぜってー小言付きじゃん」
    「……まあそれは……。ならデュースは? マメに色々書いてあるみたいだし」

     え⁉︎僕か⁉︎ と少し離れた所にいるデュースの声が聞こえてくる。すると真正面から大きなため息と共にげんなりとした表情を浮かべるエース。

    「ないわー。億が一もないわー。監督生知らないの? あいつのノート、赤ペンで書き過ぎて要点がさっぱりなの」
    「え、そうなの?」
    「そうそう。寮長も似たようなこと言ってたし」
    「うるさい! 一々余計だぞエース‼︎」

     軽快に笑っているエースの元に来たデュースは怒りを露わにする。隣でグリムがケラケラと笑い声をあげている。

    「だってホントの事じゃん。だからさ、監督生頼むよ〜」
    「監督生、こんな奴に優しさなんて見せなくてもいいんだからな?」
    「うっせー! お前には言ってねぇだろ」
    「にゃはは! オマエらケンカか⁉︎ 面白いからもっとやっちまえ〜!」

     グリムが愉快そうに笑い、その姿を見た二人が余計にヒートアップしている。このままではエースとデュースのケンカが勃発してしまいそうだ、とそれを止めるため「はい」と言いながら渡すノート。指先が触れてしまいそうで少し手先が震えてくる。

    「ケ、ケンカになったら困るし……。しょうがないから一つ貸しだからね」

     いつも通りの話し方にしようと心がけたけど、何処かぎこちない。気付かれていなければ良いな、とエースに視線を向ける。

    「助かる〜! ありがとな! お礼はするからさっ」
     デュースとグリムは顔を見合わせて私に問いかける。
    「監督生いいのか? あいつが全面的に悪いのに」
    「いいの、いいの」
    「そーだゾ。全くぅ、子分は甘いんだゾ。そうだなぁ、オレさまデラックスメンチカツサンド~♪」
    「じゃあ僕は日替わりランチだな」
    「はぁ⁉ 監督生にはするけどなんでお前らにまでに奢んなきゃなんないワケ⁉」

     軽口を叩くグリムを抱きかかえ、お腹付近を擽るように指先を動かすエース。「やめろ!離せ……ニャハハハ!」と抗えず笑い出すグリムの姿があまりにもおかしくて、デュースと一緒になって笑う。やっぱりこうして、友達として過ごしている方が幸せなのかもしれない、エースとデュース、それにグリムと私。いつもの変わらない日常を大切にして、いつか帰る日が来ても思い出さえあればきっと平気だろうから。そう、彼らを見つめぼんやり思う。思考にどっぷりと浸かっていたから、エースの瞳がもの寂しげに浮かんでいることに気づくことはなかった。

    「好きなんだけど。ユウのこと」

     また橙に照らされる校舎。うっすら映る二つの影。私とエースのものだ。

    「(……また同じ夢? 何回見るんだろ私……)」

     きっとあの時、正直に伝えられなかったからかもしれない。悔いはある。けれどもわかっていても私の返事は一つしかない。

    「……ありがとう。私もエースのこと好きだよ。……デ」
    「やっぱり〜⁉︎ そんな気がしてたんだよね!」
    「⁉︎」

     またもや言葉を遮られ、今度は強く手のひらを握りしめられる。そして満面の笑みで優しく私を見つめる。あまりにも穏やかに、嬉しそうに笑うから。それ以上の言葉が出なくなる。

    「オレ、ユウが好きだよ。大事にするから」
    「ちょ、ちょっとエース……」

     言わなきゃ、夢くらいちゃんと言わないと。震える声でそれを告げようと勇気を出す。

    「……ダメ、だよ……、だって……」
    「なんでダメなわけ? ユウはオレのこと……好きじゃない?」
    「それは……っ」

     そんな訳がない。ずっとずっと、好きだった。でもそれを認めたら諦められなくなるから。

     「ごめんね」そう言わなきゃいけないのに、「好き」と伝えたくて堪らなくて。けれどもその二文字すら言えない私、何ひとつも言葉にならなくて頬に涙が溢れ落ちる。するとまた視界がぐにゃりと歪み、遠くの方から電子音が鳴り響く。
     はっ、と我を取り戻しまたしても寝室にいることに気付く。隣にはやっぱり鼻ちょうちんを作り気持ち良さげに眠るグリムがいる。あまりにも現実的帯びたその夢に、動悸が止まらない。

    「……はぁ。夢の中だけでも素直になれないとか……。バカみたい」

     夢の中でも流れた涙がほろりと頬を伝う。夜はまだ明けそうにない。

    「ふぁあ……。あ、監督生〜今日も頼むよ」

     今日は魔法薬学。実験であったのにも関わらず、エースは頭をカクカクさせて船を漕ぎクルーウェル先生からの雷が落ち、追加のレポートを出されていた。それはもう憐れんでしまうほどに。

    「もう、また? なんでそんなに居眠りばっかしてるの。最近おかしいよ」
    「なーんかぼーっとしちゃうんだよね。夜ちゃんと寝てるんだけど」

     困ったと言わんばかりに大袈裟にため息を吐いて抱えるレポートの量に辟易しているようだ。一体全体どうしたって言うんだろう。

    「だからさぁ、ちょこーっとだけ手伝ってよ。助けると思ってさ」
    「エースお前そろそろいい加減にしろよ。監督生を巻き込むな」

     エースの悲壮な表情にも目をくれずデュースは淡々と一蹴する。

    「お? 言ったな? いいのかデュース、お前が今度赤点取っても協力してやらねぇよ?」
    「ふざけるな! お前に助けてもらった覚えはないし第一、僕はいつもギリギリ回避している!」

     いや、どんぐりの背比べ……。そう思うけど私も似たようなものだし、余計なことは言わないように口を噤む。

    「でもその大量の課題、寮でやると……リドル先輩に怒られるんじゃ」
    「しかも原因が居眠りなら……首をはねられても仕方ないぞ」
    「だからほんとヤバいの! 昨日も「二度目はないよ」って脅されててさー! なぁ頼むよ、オレらの仲じゃん?」

     悲壮を悲壮を重ね、段々エースの表情が悲しげに写って見えてきて惚れた弱みなのか、思わず「いいよ」だなんて言ってしまっている私。

    「……! 流石監督生、マジでありがとな!」
    「全くエースに甘いんじゃないか?」
    「まあまあ。友達同士、助け合いは大事だしね」
    「監督生がそう言うなら……、仕方ない僕も手伝ってやる」

     一瞬貫く、ピリっと焼き付いた視線が向けられた気がして思わずエースの方を振り返る。そこには変わらず困ったようにハの字に眉を下げているエースの姿だけ。

    「お前ら……!やっぱ持つべきものは友達だな! 助かる〜」

     やっぱり変わったところはなくて。自分の思い過ごしかと納得させる。

    「(……気のせいか……。なんだか、エースの視線が痛かった気がしたんだけど……)」

     首を横に振り気を取り直して、先行く彼らに置いていかれないように小走りで追いかける。結局放課後は図書館に入り浸り、私とデュース、後から合流したグリムと手分けしてエースのレポートを手伝ったのは言うまでもない。

    「好きなんだけど。ユウのこと」

     またあの日の夢だ。何回この光景を映し出すのだろうか。変わらず橙に照らされる校舎。うっすら映る二つの影は私とエースのもの。

    「……ありがとう。だけど私は……」

     いつもと言葉を変える。もうはっきり言わないといつまでもこの夢は終わらないし、私自身も気持ちの整理がつかない気がするから。

    「私は……、何?」
    「私は……エースのこと、好きじゃない」

     途端に走り出す胸の痛み、例え夢の中でも嘘をついて自分の気持ちに蓋をするのはとてつもなく辛いもの。だけど、もう諦めないといけない。

    「……オレらが友達だから?」
    「え?」

     顔を上げると眉を顰め、苦しそうに私を見つめるエース。こんな表情、私は知らない。

    「ユウは……オレのこと、友達としてしか見えない?」
    「……っ、そう、だよ、……」

     ギリギリ吐き出した言葉、苦しく息が出来ない。けれども私以上に苦しい表情を浮かべているエースに更に苦しくなる。私のせいで、こんなにも苦しめているんだって。
    「ユウ、それは……」
    「……私いつか帰っちゃうかもしれないんだよ。それなのに、隣にいていいはずがない」

     絶対に言いたくなかった言葉、ポロポロと溢れてしまう、夢だからいいのかな。

    「……何それ。そんなこと考えてんの?」
    「当たり前じゃん。いつかいなくなる私が隣にいるなんてダメなんだよ、だからエースは私以外の人の方がきっと幸せになれると思……」

     言いかけて口を塞がれる。エースの大きな手のひらが口全体を覆い隠す。

    「はぁ⁉︎ ふざけんなよ! 勝手にオレの気持ち代弁してんじゃねぇよ! オレはユウ以外考えらんないっつーの!」
    「……! だから、それが辛いんだってば! もう私のこと……そんな風に思わないでよ……!」

     空気に耐えれなくなって、エースに背を向けて走り出す。するとまた遠くの方で電子音。同時にぐにゃりと歪む視界。どこか遠くの方で「そんな嘘、つくなよ」なんて聞こえてくる。
     ガバっと飛び起きる、今日は寝汗がすごく背中まで汗が滲んでいる。変わらず隣には高鼾をかいているグリムの姿。

    「……はぁ……。そうだよ、嘘だよ。ずっと好きだよ……」

     本音を吐露、それは雪の雫のように誰にも触れられずそっと落ちて消える。私も気持ちもきっといつかそうやって静かに消える。消さなきゃいけない。流した涙に気付かないフリをして、立ち上がり汗ですっかり冷えてしまった身体をシャワーで流そうと浴室に向かう。明日は休みで良かった、会わずにすみそうだから。そんなことを思いながらやっぱり溢れ落ちる涙。

    「監督生ー! いつまで寝てんのー?」

     軒先から聞こえてくる声に起こされ、ゆっくりと意識を覚醒させる。キョロキョロと部屋を見渡し時間を確認すると、……まだ朝方だ。
     ボサボサの髪のまま立ち上がり、パーカーだけを羽織って窓を開けて下を覗き込む。そこには目の隈がやけに黒くて半分眠そうなエースがいる。

    「え、エース。どうしたのこんな朝早く」

     あんな夢を見たばかりだから、何となく気まずくて顔を見れずにいる。会わずに済むって安心していたのに。

    「起きた〜? なーんか目が冴えて二度寝出来ないから会いに来ちゃった」

     今すぐにでも瞼が落ちそうなのに、そう言って笑うエースがどこか苦しそうに見える。まさか。

    「(私が……告白……流したから?)」

     居眠りが続いていたのも、私のせいで眠れなかったから? そんな考えがぐるぐると頭に巡る。

    「なぁ監督生ー、ちょっと降りてきてよ。話したいんだけど」
    「……ちょっと待ってて」

     眠っているグリムを起こさないように静かにドアを開閉して、なるべく音を立てないように階段を降りる。その最中に手櫛で簡単に髪を直してエースの元へと向かう。やっぱり大きな欠伸をしながら眠そうに目を擦るエース。

    「……寝不足なの……私のせいでしょ? 本当は眠いんじゃない? 談話室で少し眠っていいよ」
    「そういうわけじゃないから。こっち来てよ」

     私の申し出を一蹴して、手首を掴まれ歩き出す。大きな背中を見つめながら何も言えない私。歩く速度まで遅く感じてしまう。
     
    「オレ、やっぱり納得出来ないんだけど」

     オンボロ寮から少し離れた小さな広場で、振り向いたかと思えば唐突のこの言葉。

    「何の……話」
    「誤魔化すなよ。オレのこと好きなくせに」

     核心を突かれたそれに言葉が出なくて下を向く。

    「……勝手に決めないでよ。好き……じゃない」
    「もういいって、バレバレなんだよお前。……ねぇ、なんであんな嘘つくの?」

     今日見た夢のように、はっきりと強くでもどこか悲しげにエースは話す、私の真偽を問うように。

    「嘘って……何が」
    「ただの友達とか。好きじゃないとか。お前、何を思ってそういうことばっか言ってんの?」

     私を見据える視線が熱くて、目が逸らせずにいる。風がふわっと吹く。まるで二人の間のボーダーラインを破るかのように。

    「それは」
    「元の世界に帰るから、とか、オレの幸せとか色々ごちゃごちゃ考えてんじゃねぇよ」
    「……え? それ、夢の……」

     先程の夢の続きのような会話、どうしてそれをエースが知っているのだろうか。不可思議でそればかりが頭を巡る。

    「そんなんどーでもいいよ。お前が全部勝手に決めつけんなって」
    「……だって、私……」

     やっぱりボーダーラインを超えるのを躊躇する私に相反して軽々とそれを乗り越えるエース。手を思い切り引かれ気付けば夢の中同様、エースの腕の中。あの時と同じ暖かさと安心感が胸の奥を締め付ける。

    「お前がどこにいようがいなかろうが、オレの気持ちは変わんねえよ。ユウが好きだよ。オレの幸せはユウがいることだから」
    「……!」

     エースがそう、顔を真っ赤にさせながら話している。本当に、彼の心からの言葉なんだと知り自然と涙が溢れてくる。

    「……いいの?」
    「何が」
    「私、いつかいなくなるかもだよ。だってやっぱり帰りたいって思うから」
    「そん時はそん時だろ。仮にユウに会えなくなってもどうにかして会いに行くから、安心しろよ」

     そうやって力強く笑うから。エースなら本当にやってのけてしまいそうだから。ぐるぐると渦巻いていた不安がゆっくりと溶けていっていく。

    「……同じ気持ち、って言っても迷惑じゃない?」
    「何今更言ってんだよ。お前にはずーっと迷惑かけられっぱなしだよ」

     いつもの軽口、けれどどこか暖かくて。何だか擽ったくてここに来てようやく笑いが溢れてくる。

    「ふふ、それはお互い様だよね」
    「そうとも言える」

     ぎゅっと強く抱きしめられる感覚が心地よくて、愛おしい。思わず言葉が溢れる、ずっと伝えたかったそれ(気持ち)が。

    「エースが……好きだよ」
    「知ってる」

    「というか……なんで最近居眠りばっかしてたの? それに、なんで私の夢の中の会話、知ってたの?」

     オンボロ寮、談話室に戻り隣同士でソファに腰を掛ける。繋いだ手は指を絡められて外してくれそうにない。それに、変わらず大欠伸をして眠そうに瞼が落ちかけているエースに問いかける。

    「まさか……何か魔道具か、魔法……使った?」
    「んぁ? うーん……。内緒♡」
    「⁉︎」

     それだけを言うとエースは手を離しゴロンと横になる、私の膝を枕にして。一気に顔が赤くなる。

    「ちょ、ちょっと……!」
    「後で話すから〜……ちょっと寝かせて……」

     そのまま小さな寝息が聞こえ眠りに入った様子のエース。あどけない寝顔を見つめため息をひとつ。

    「……全く。仕方ないなぁ」

     時計の針の音と寝息を聞きながら、訪れた静寂の中で訪れた幸せを噛み締める。だから。彼が目覚めたらこう言うんだ。
     
    「おはよう。良い夢見れた?」と。
    end
     
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    ひなせ

    MOURNINGかなり前にグルアオでタイムトラベラー的なものを書こう!と見切り発車で書いて見たものの続きが全く思いつかないし諦めたプロローグ。割と楽しく書けて勿体無い気がしたので供養。
    「じゃあ、いってきます。……っていつまで不貞腐れてるんですか?そんなに拗ねなくても」
    「……拗ねて無いし、不貞腐れてもない。ただ腑に落ちないだけなんだけど」
     
     玄関先で荷物もばっちりで、リーグから支給されたスーツも決まってるし上手にメイクも出来たし髪も珍しく乱れていないわたし。そしてカタカタと腰のベルトにはモンスターボールが揺れるくらい元気いっぱいと全身で表してくれる頼もしい相棒たち。
    その反面、今日は遅出だからとゆるゆるな部屋着に寝起きのままに乱れた髪で大口をあけて欠伸をひとつ落とすあなた。昔ならばこのギャップにときめいたりこんな姿を見れるのは世界でわたしだけ!だなんて変な優越感なんて持ってみたりしてみたけれど、いまとなればそれが当たり前で日常で。それがなんだか嬉しかったりもしていた。ただ、今朝に関してはそんな風になれなくてただ、どう機嫌を直してもらうかばかり思案して、当の本人はあるがままに不機嫌そうに口を尖らせてわたしの身支度を厭そうに見つめていた。
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