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男四人で連れ立って行く場所が動物園って言うのも、何とも色気が無い話である。だがまあ、同行者の三人共が全員目をキラキラさせているのを見てると悪い気はしない。
「ヨースケ! クマね、シロクマの所に行きたい!」
パンフレットを片手にはしゃいだ様にそう訴えて来るクマに、分かった分かったと頷いてやる。クマだけに、熊が気になるのだろう。……クマが「熊」なのかと言われるとちょっと迷うが。
「俺ぁ触れ合いコーナーに行きたいっスね。
ここはアンゴラウサギも触れるらしいっスよ」
正直完二が言うそれが一体どんなウサギなのかは俺には分からんが、可愛いものが好きな完二がこうも喜んでいるのだ。さぞかし可愛いウサギなのだろう。そして相棒はと言うと。
「……」
無言ではあるが、それはもう目をキラキラと輝かせてパンフレットを握りしめている。その頭の中ではどの順番で回るのかをシミュレートしているのだろうか。
パンフレット上の園内地図の上を、その視線は何度も往復している。
「叶夢は何か優先的に見たい動物っているのか?」
放っておくと何分でも地図とにらめっこしていそうな叶夢にそう声を掛けてやると。普段はあれ程冷静な叶夢は、ハッとした様に顔を上げて、少し気恥ずかし気に目を反らす。
「……マヌルネコ」
猫を愛していると言って憚らない叶夢らしいと言えばそうなのだろう。
ネコとついているからにはきっと可愛らしい猫なんだろうな。
叶夢たっての希望と言う事で、俺たちは早速そのマヌルネコとやらを見に行った。……が、展示されている場所に行っても何も見えない。
たまたま今日は体調不良とかで展示エリアには居ないのだろうか?
俺たちが首を傾げている中、叶夢だけはその目をキラキラさせている。
何故なのかと俺たちが不思議そうな顔をしていたからか、叶夢は何時になくやや早口で説明する。
「マヌルネコは隠れるのが上手で見付けるのが難しいんだ。
でもほら、そこの叢の陰の所にちょっとだけ灰色の毛が見えるだろ? あそこに隠れているんだな。
マヌルネコの被毛は長くて密度が高いから物凄くフワフワしている様に見えるんだ。可愛いな。
進化の系統としては古くから存在しているヤマネコでな……」
「分かった、分かったから!」
このままでは延々とネコについて話してそうな叶夢のそれを遮る。
ネコが関わると普段の冷静な態度が何処へやらだ。
と言うか、そこに居ると説明されて、言われた通りにその叢を見ても全く何処に居るのか分からない。
叶夢でさえも、その姿をハッキリとは見えていない様だ。
正直、展示エリアの叢を見てるだけに近い。
「お前……それで良いのか……?」
満面の笑みで頷いた叶夢のそれに、お前が楽しいならそれで良いよ……と苦笑いを浮かべるしか無かった。
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