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    動物園に行くオカメ番長こと鳴上悠希

    ◆◆◆◆◆




     八十稲羽ではこいつのこんな姿を見る事は無かっただろうなぁ……と。
     決して短い付き合いでは無いのに初めて見るその姿に、思わずそんな事を思ってしまう。
     俺と悠希と完二の休みが重なったタイミングで、悠希たっての希望で八十稲羽からは遠く離れた動物園に行く事になって。
     恋人の居ない俺や完二はともかく、悠希は直斗と付き合ってるって言うのに折角の休みを野郎三人で過ごして良いのか? なんて思ってしまったりもしたけれど。まあそんな心配をする必要も無く直斗とは相変わらず仲が良い様だし、それにその日は直斗の方の用事が合わなかったらしい。
     かと言って、直斗の代わりに俺たちと……って訳じゃない様で。
     遊びに行く約束をする時の電話も、何時も通り冷静な声音ながらその実かなりテンションが上がっているのが俺には分かった。まあ相棒としての直感ってヤツだ。
     動物が好きってのは知ってたが、俺が思っていた以上の動物好きだった様だ。
     陽介もきっと楽しいと思う、と。何時になく押しが強い悠希のそれに、どんだけ楽しみにしているんだかと思わず苦笑してしまった。
     ちなみに完二を誘ったのは、可愛い動物には興味があるからだろうとの事だ。成る程。

    「念には念を入れて、一番効率よく回れるルートとスケジュールを予め作っておいた」

     そんな事を言いながら、几帳面な字で丁寧に書かれた順路案を渡してくる。
     前々から思っていたが、悠希は旅行だとか何処かに出掛ける時に物凄く下調べしてスケジュールを組んで来るタイプだ。基本的に几帳面で生真面目なのである。
     悠希が作成したそれは、動物たちの餌やりのタイムスケジュールや動物のショーの時間まで完璧に考慮されたそれは、何かの攻略本でも見て書いたのか?ってレベルのものだった。
     が、何やら気になる部分がある。

    「餌やりだとかショーを全部見れる様にスケジュール組んでるのは分かるけど、最後がペンギンの所で終わってるのは何でだ? 一通り見てるとは言え、時間的にはまだまだ他に回れるだろ?」

     悠希が作成したそれは一通りの動物を見て回れる様になっているが、その最後はペンギンのエリアで終わってる。その次が閉園時間で、その後にお土産物コーナーで使う時間が考慮されているから、そこで力尽きたと言う訳では無いと思うのだが……。その後は自由に見て回ろう、と言う事なのか?

    「……? ペンギンを見る時間が必要だろ?」

     コテンと首を傾げた悠希のそれに、俺もまた意味が分からず首を傾げてしまう。
     相棒として悠希の事は他の奴らよりもずっと理解しているとは思うが、それでも分からなくなる事は多い。
     まあ取り敢えず楽しむか、と。俺たちは動物園を回り始めた。



    「いや~、結構迫力あって楽しかったな!」

     猛禽類の飛行ショーを見終えて、やっぱり鷹とかは格好いいよな~と感想を述べ合う。
     同意する様に静かに頷いた悠希の目は、普段以上に喜びでキラキラしている様に見える。
     そして、取り敢えずの終点のペンギンエリアに辿り着いた。

     広いプールを中心に数十羽ものペンギンたちが思い思いに行動しているペンギンエリアでは、親子連れなどを主に多くの人々が足を止めてペンギンたちを見ていた。
     ペンギンってのはまあどの年代にも人気がある生き物だなぁ、と。そんな光景を見ると沁みじみと感じる。ジュネスでもペンギンの柄のものの売れ行きはかなり良いのだ。
     そして、ふと横を見ると。

    「…………!」

    何時も通りに静かな表情のまま、その目は今まで見た事が無い程にキラキラと輝いている。
     もしこれが漫画の世界なら、背景に花が飛んでるかもしれないレベルだ。
     悠希の視線は、目の前のペンギンたちにひたすらに注がれている。

    「お~い、悠?? そろそろ他の所に行くか?」

     その場に居るどの子供連れよりも長くその場に留まり、ペンギンたちに齧り付くかの様な距離でひたすらに熱い視線を送っている悠希にそう声を掛けるが、全く返事が無い。
     八十稲羽で事件を追っていた時かそれ以上に真剣な表情で悠希はペンギンたちを見ていた。
     ……もしかしなくても、悠希はペンギンが滅茶苦茶好きだったのだろうか。
     ちょっと異様なまでの集中力でペンギンを見詰めているその姿を見てなのか、周りの客は悠希を避ける様にしてペンギンたちを見ている。
     何度呼び掛けても全く返事が無いので、俺と完二はまた後で集合する事を伝えて悠希と別行動をする事になった。まあスマホもあるし、どうにかなるだろう。
     
     ……と、思ったのだけれども。

    「悠? 悠希さん??
     閉園のアナウンスが流れてますけど~? もしもし?」

     あれから数時間。もう閉園間近の放送が園内に流れ始めている中で。
     出口に居ない悠希の姿を探して、もしやと思いペンギンエリアに行くと、まあそこに居た訳で。
     まさかとは思ったが、どうやらあれからずっと微動だにせずにペンギンたちを観察していたらしい。
     一体何がこいつを此処まで駆り立てるんだ?

    「待ってくれ、もうちょっとしたらペンギンたちも帰るから、それまではもっと見ていたい。
     今、ミントちゃんがスモモくんと良い感じの雰囲気なんだ……!」

    「ミントちゃんとスモモくんって何の話!?」

     思わずそうツッコむと、悠希はペンギンエリアに立っている看板を指さす。
     どうやらここに居るペンギンたちの事の様だ。顔写真と名前が添えられているのだが、正直俺には全部同じ顔に見える。だが悠希は全部のペンギンの顔と名前を憶えた様だ。

    「いやいやいや、もう閉まるんだって!
     園の人に迷惑だろ!? お前、それで良いのか?」

     そこまで言うと悠希は、それはもう渋々と言った様子で、俺に腕を引かれてペンギンエリアを後にする。
     物凄く未練がましく何度もチラチラと振り返る始末だ。
     ペンギンが好きだとしても、中々狂気的なレベルでは無いだろうか。

    「ペンギン……」

     それはもう名残惜しそうなその声に、悠希と一緒に動物園に行くのはヤバイかもな……とひしひしと感じた。
     なお、その後動物園の前にあるお土産物屋で、悠希は完二と二人してお土産のぬいぐるみについて一時間近く議論した上に、ペンギンのぬいぐるみを買ったのであった。




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