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物心付いてこの方、幽霊と言う存在を目にした事は無い。
勿論、自分の目に映らないからと言ってそれが絶対に存在しないものだなんて主張をしたい訳では無いのだけど、まあ所謂『霊感』の類は俺には存在しなかった事だけは確かなのだろう。
オカルトだとかに傾倒する事も心霊ホラーに心惹かれる事も無く成長してきた俺にとっては『霊感』が無くても困る事は全く無かった。
正直、創作物の中の霊感があるキャラクターの苦労とかを見てるに無い方が幸せそうだな……だなんて思ってしまう。
テレビの向こう側の世界を知り、ペルソナと言う力を駆使してシャドウたちと戦う日々を過ごす様になっても、相変わらず俺の目に幽霊の類は目に映らない。
もしも事件の被害者の幽霊が何処かを彷徨っているのなら、彼女たちから事件について何か聞き出せるのかもしれなくても。残念ながらそうする事は出来なくて。ペルソナ能力は『霊感』の類とは全く別物なのだろう。
そんな風に思っていたのだけれど。
満月がとても綺麗な夜だった。
事件の謎は深まる一方であったけど、テレビに落とされた被害者を救う事には成功して。あの世界で戦った事による疲れはあったけれど、何となく寝付けなくて。本を読んだりして眠気の訪れを待っていた。
そしてふと窓の外を見ると、何時も見ているそれよりもずっと大きく見える次が見事に満ちていて。何となく、綺麗だなぁ……なんて気持ちでそれを眺めていると。部屋に飾ってある時計が零時を示した時に、ふと一瞬空気が揺らいだ様な気がして。その違和感に促される様に部屋を見回すと。
直ぐ後ろに、何時の間にか何者かが佇んでいた。
直前にはそんな気配など微塵も感じなかった存在の突然の出現に、思わず言葉を失って。錆び付いた機械が軋むかの様な動きで、その存在を観察する。
年頃は……多分俺と同じか少し下か? 身長的にはかなり差がある。
ここらの学校の制服では無いお洒落なブレザーを纏っている。
深く青みがかって見える髪は前髪が長めで右目を半ば隠していて。
髪色と良く似た色の左目は、何処か夢現であるかの様にぼんやりとしていた。
そして、何よりも。
その姿は、何処か半透明であるかの様に気配が薄くて。
足元まで確り存在してはいるものの、その足元は床から浮いている。
「……幽霊?」
それらしきモノを目の前にして口から零れ出る疑問はそれなのかと思ってしまうが、まあ何とも間抜けな問い掛けをしてしまう。
すると、その言葉で意識がこちらに向いたのか、夢現で何処か遠くを見ていたその瞳に生気が宿り、俺を確りと見詰め返す。
「…………?
えーっと、多分そんな感じ……かな」
彼自身自分の現状を余り理解していないのか、少し首を傾げる様な仕草と共に、そう答えるのであった。
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