もふもふはいいぞ!ある日、カードキャピタルの顔馴染みで動物園に行くことになった。
動物園に行くなんて久しぶりだった。
ライオンやゾウなどメジャーな動物たちを前にはしゃぐアイチやカムイをぼんやりと眺めながら歩いていた。
そんな時、ふと小さな小屋と柵、『ふれあい動物園にようこそ』と書かれた看板が目に入る。
気まぐれで近寄ってみればふれあい動物園という名の通り、小さな動物達と触れ合う事ができるという区画だった。
実際に触れるのはウサギ、ハムスターが主らしい。
(特に気になるものもないし、暇潰しにでも入ってみるか⋯)
そう思い、中に入る。中にはもう1つ柵がありその中に動物を放しているようだ。
触れ合える動物は時間帯で変わるらしく、今の時間だとハムスターのようだった。
小さな小屋はどうやら動物たちの住む場所であり時間帯で触れ合えない動物達も外から眺めることが出来るという親切設計のようだ。
また、放されたハムスター達をぐるりと囲む柵には放されている動物の種類や特徴、触れ合う際の注意点などが書かれていた。
どうやらお金を出せば餌やりも体験できるようだが、あいにく餌は売り切れていた。
注意点をしっかり読み、逃げ出さないようにと素早く入って扉を閉める。
お昼時というのもあってか中にはほとんど人はいなかった。
天気がいいからなのか日向ぼっこをしてうつらうつらとうたた寝しているものが多いようだ。
驚かさないように、とゆっくり日向ぼっこしているハムスターに近づく。
しかし、気配で気づいたのかハッと飛び起きて逃げられてしまう。
なんなら少し離れた奴らにまで逃げられていた。
それに少しだけ気を落とすが、めげずに他のハムスターを探す。
今度は俺が来る前にいた客に貰ったであろう餌に齧り付くハムスターに狙いを定める。
じりじりとゆっくり近寄ったがそのハムスターも俺に気づいて餌をポロリと落として逃げられた。
⋯結局、何度チャレンジしても逃げられてしまう。
どうにも、俺は動物に嫌われている、というのか怖がられている?ようだ。
レンと一緒に居た時もそうだった。あの時は野良猫だったがそいつは俺ではなくレンに懐いて結局俺には触らせてくれなかった。
さすがに心が折れてしまいそうだ。
(どうして俺は駄目なんだ⋯)
肩を落として嘆いていると、ある1匹が恐る恐るといった雰囲気で近づいてきた。
一瞬反応に困ったが、しゃがんで手を出してみる。
そいつは俺の行動に怯えて逃げたりせずそのまま近寄ってきた。
触れられる距離になって、恐る恐る手を伸ばして人差し指で撫でる。
⋯逃げられるのでは、と思ったがそのまま撫でさせてくれた。
そのままゆっくりと抱き上げると俺の手のひらに体を擦り付けてきた。
柄にもなく嬉しくて感動していると、
「浮気ね。」
と聞き覚えのある声が後ろからした。
思わず振り返るとそこにはニヤニヤとした笑みを浮かべている戸倉が居た。
「店長代理に言っちゃおっかな〜。」
続く声にピタリと身体が動かなくなる。
店長代理は今の俺にとって推し猫NO.1の猫である。最近は店長代理のお気に入りがアイチであり、そのアイチに構われに行ってること、そしてコタツ騒動のせいもあってか無視されることが増えてきていた。
これ以上嫌われるのは嫌だった。
撫でる手が止まったことで不思議そうに見上げるハムスターをぎこちなくそっと芝生に降ろす。
そこから先の記憶は曖昧だったが、慌てて戸倉に弁明しに行ったこと、姿が見えなくなるまで撫でさせてくれたハムスターがずっとこちらを見ていたような気がしたのは覚えている。
数日後、何処と無く近寄り難いと思いながら三和に引きずられてカードキャピタルに行った。
念の為、店長代理が気に入っている、と思っているおもちゃと戸倉から許可が降りた時用のチ○オチュールも持参している。
アイチ達中学生やカムイ達はまだ来ていないようだった。三和は、アシスタントを頼まれたようで着替えに行った。
椅子付きのファイトテーブルに着くと程なくして店長代理が寄ってくる。
きっと、持参したバッグから覗くおもちゃに惹かれてやってきたのだろう。
デッキを出す前にやってきたため店長代理を優先するかファイトを優先するか迷う。
テーブルと店長代理に視線をさ迷わせていると不意に店長代理が抱きかかえられた。
「店長、こいつこの前あたしらが行った動物園のハムスターに浮気してたんだよ。」
「みゃ〜?」
「なっ⋯!?戸倉、お前⋯!」
「あんな嬉しそうに抱き抱えて撫でてるの見たら⋯ねぇ?アンタの日頃の行動からしたら浮気に見えてこない?」
不思議そうに戸倉を見上げる店長代理に楽しげに笑いかけながら戸倉は言う。
「おやつあげたり店の中で遊んだりすることにOK出してるのに他の子にうつつを抜かされるのはちょっと、ねぇ⋯。」
「そっちだって同じだろう!?店長代理だって最近はずっとアイチに構いきりで撫でさせてくれないし遊んでもくれないじゃないか!」
ムッとして反論する。
そうだ、最近店長代理は俺になかなか近づいて来ない。アイチが来たらすぐ歓迎して撫でさせてやっている。俺は撫でるどころか触らせてすら貰えないのに。
おやつだって最近は店長代理に直接あげれずに戸倉に全部渡している。
それなのに俺だけ浮気だ何だと責められるのは理不尽じゃないか、とふつふつと怒りが込み上げてきた。
「えぇ〜?でもやっぱり他の子とイチャイチャしてるのを見るのは飼い主として見過ごせないかな〜。」
「⋯っ!別にいいだろう!?俺の事なんてどうでもいい癖に!俺の気持ちなんてどうせわからないだろう!?ようやく、俺を選んでくれるやつと会えたのに、お前があんな事言うから、俺は⋯、俺は⋯!」
バンっと机を思い切り叩き、思わず感情をぶちまけてしまう。音につられて周囲の視線がこちらに向けられるが知ったことでは無い。
「えっ、ちょ⋯櫂?ご、ごめんって⋯。」
「うるさい!もう知らないからな!店長代理もアイチとイチャイチャしてればいいんだ!!」
込み上げてくる怒りを抑えようとするが上手くいかない。はぁはぁと肩で息をする。
もういっその事全てに目を背けて帰ってしまえ、と冷静に考える自分がいた。
バッグを手に持ち数分程前に傍らに置いた鞄に手をかける。
「か、櫂?そのさっきのはからかってただけで⋯。」
「知らん。俺はもう帰る。」
本気で怒らせてしまったことに気づき戸倉が慌てふためくが気にせず立ち上がろうとした。
立ち上がろうとしたのだが、櫂よりも早く、店長代理が戸倉の腕から抜け出し膝の上に座ってきた。
「⋯邪魔だ。退け。」
「みゃ〜♪」
自分でも驚くほど冷え冷えとした声が出た。
けれど、店長代理は何処吹く風と知らん顔して退く気配はない。
ならば、と無理矢理退かそうと店長代理の脇の下に手を入れ抱き上げるとぺろりと頬を舐められた。
初めてされる行為に思わず固まってしまう。
「⋯!?」
「あ〜うん、その⋯櫂。アンタが店長に嫌われてるて怒ってることに気づいてそんな事ない、って愛情表現した、んじゃないかな?」
「⋯?そう、なのか?」
「猫が舐めるのってだいたい愛情表現だって聞くし。それに嫌ってる人には滅多にしないらしいから。」
思わぬ行動で勢いを削がれてしまった。何となく、そのまま抱き直し胸元で抱える。
抵抗らしい抵抗はなく、そのままぺろぺろと頬だけでなく手の甲なども舐められる。
「まぁ、その⋯からかい過ぎた。ごめん。お詫びと言っちゃあなんだけど今日1日店長が嫌がるかアンタが帰るまで店長独り占めしていいよ。」
「⋯俺こそ、大声を出してすまなかった。⋯ありがとう?」
少し大人げなかったか、と居たたまれなくて俯く。
すると、店長代理が撫でろと言わんばかりに手に頭を擦り付けてきた。
ぎこちなく店長代理を撫でれば、ゴロゴロと喉を鳴らして答えてくれた。