雛鳥の恋「──だから、三和。俺は、お前のことが、」
「か〜い、ストップ。」
少し、気恥ずかしくて俯きがちになっていたのに言葉を遮られたせいで思わず顔を上げて三和の顔を見る。
なにか、至らない点でもあったのだろうか。
三和が言葉を遮ることは今までにも何度かあった。これは三和が周りとの関係を考えてのことであったり、俺に三和自身の意見を聞いて欲しい時の行動なのだと思っている。
それでも、俺が感情や本音を漏らす時はただ静かに聞いていてくれたと思う。
なにか、言ってはいけないことを言ってしまったのだろうか。
何度か見ている、慣れた言動のはずなのに予想外のタイミングで出されたせいで不安が募る。
当の本人である三和は気持ちは嬉しいんだけどさ、と頭をかいている。
「⋯櫂、お前の話をまとめるとその気持ちってさ、ヒナの刷り込みみたいなもんだと俺は思う。」
「ヒナの、刷り込み⋯?」
「そうそう。ま、あれは孵化した雛鳥が最初に見た動くもんを親だと思い込むってやつだけど。」
「⋯それくらいは知っている。」
「だろうな。でも、櫂の話聞いてると櫂のその気持ちってずっと俺が櫂の世話焼いてたせいで俺が居ないとお前はダメなんだ、って思い込んでるっていうか、依存しちまってるように聞こえるんだ。」
「⋯そんな、ことは、」
「そんなことない、ってか?でもさっき言った言葉を思い返してみろよ、櫂。お前、俺がいたからアイチ達と出会えた、とか俺が教えたから行動に移せたとかアドバイスをあげられた、とか言ってただろ?あとは、俺がいるだけで安心出来る、とかさ。」
「⋯言った、な。」
「それがなんというか、お前の行動の全部が俺が居たから、俺のおかげ、みたいな感じでさ。頼られてると思うと嬉しいんだけど俺の事、信頼しているを通り越して依存しちゃってる気がする。それに、櫂のその感情って家族とか、身内に向けるような感情だと思うんだ。」
「⋯⋯。」
「櫂のその気持ちは、俺に依存気味ってだけで百歩譲っても友情の範疇だと思う。」
確かに、自分の発言を思い返すと好きな人への告白、というより三和がいてくれたことで自分が何をできたのか、を報告しているだけのような気がしてくる。
ならば、三和が居なくなったらと思うと胸が苦しくなるような気持ちも、三和がいるだけでホッとするのも、三和に依存しているから感じているだけなのだろうか。
今まで三和と一緒に居ることで覚えた感情を、悩んで考え抜いて出した自身の結論を、他でもない三和に否定されてしまった。
この気持ちが、恋愛的な感情では無いのだと、三和は言う。
なら、この気持ちは一体何なのだろう。
どうしていいかわからず、途方に暮れて三和を見つめる。
「櫂って顔に出るというか動きに出てるというか⋯とにかくわかりやすいよな〜。今のお前、どうしていいかわからない、助けて欲しい、って感じの顔してる。」
「⋯⋯みわ、」
「とにかく、俺が伝えられるのはこれだけ。櫂のその感情は多分、お前が思ってるものとは違う。それに、その言葉を伝える相手だって、俺よりももっといい人がいると思う。」
そして、もう一度よく自分の気持ちを考えてみるべきだ、などと言いながら三和は、俺に背を向ける。
「ごめんな、櫂。俺、用事あるから今日は先に帰るわ。櫂も気をつけて帰れよ〜。じゃあ、また明日!」
「っ⋯みわ、」
振り向きもせず手を振りながら歩き出した三和に、引き止める言葉も明日を約束する言葉も出なければ駆け寄ることも出来なかった。
ただ、呆然として見送ることしかできなかった。
この次の日から気まずくて三和くんと距離が空いて喧嘩でもした?ってクラスメイトに慰められる櫂くんがみたい。いつも一緒なのにここ最近は一緒に来ないよね、って心配してくれるミサキさんと一緒に相談に乗ってくれるけど両片思い三和櫂の当て馬にされるアイチとか妄想したけどここで力尽きました()