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    fuyukichi

    @fuyu_ha361

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    fuyukichi

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    100日後に付き合ういちじろ4日目


    「あれ、じろちゃん?」

     三人で回転寿司に来ていた。
    一郎の好きなアニメのコラボがあって、じゃあ今日の夜は久しぶりに回転寿司に行こうと日曜夜、三人でネット予約をした。席に案内され、レーンに近い三郎がタブレットで三人分の注文を打ち込んでいき、向かいに座っている二郎が三人分の煎茶を煎れて、一郎が割り箸とおしぼりを配る。一気に注文を入れて、三郎がトイレに行くと席を立った時、入れ違いで入店してきた客に声をかけられた。

    「え、うわ!偶然だな!」
    「二郎のお兄さん、ちはす!」
    「おー、いつも二郎が世話になってるな」
    「いや本当に」
    「おいコラ」

     相手は、二郎の同級生だった。三人ゾロゾロと二郎のテーブルで足を止める。どうやら遊んでいたようだ。手にはゲームセンターのプライズ品を入れたビニール袋。収穫はあったらしい。

    「カラオケとゲーセン行ってさあ。じろちゃんも来れたらよかったのに」
    「あー、まあ、また今度誘ってくれよ」
    「あ、もしかして誘ってくれてたのか?悪い、昼間、仕事手伝ってもらってたんだ」
    「いや!俺らなんて遊び呆けてるだけなんで気にしないでください!」

     三人は「明日、1時間目から体育だからジャージ持ってこいよ」「え、そうだっけ」なんて、そんな会話を幾つか交わして、自分達の席へ進んで行った。

    「二郎、悪かったな。友達の誘い断ってくれてたのか」
    「へ、いや全然いいよ。兄貴との約束の方が先だったし」

     ふと『二郎のお兄さん』という言葉が一郎の頭の中でリプレイされる。自惚れでなければきっと二郎も三郎も『山田一郎の弟』と呼ばれることが多いだろう。それを友人が『二郎を主軸にして、そこからその兄』という言い回しで自分のことを呼んだことが、当然なのだが、一郎はどこか嬉しかった。良い友達を持ったな、なんて思う。

    「あ、すっげぇ一気に来た」
    「味噌汁、こぼすなよ」
    「オーケイ」

     そうこうしていると注文した品が到着する音楽が鳴って、お目当ての皿が次々と流れてくる。二郎が取って、兄へバケツリレーの要領で渡していく。テーブルに小皿が大量に並ぶ中、一郎はポツリと話しかけた。

    「……二郎ってさ」
    「うん?」
    「みんなに、じろちゃん、って呼ばれてんの?」
    「いや!みんなじゃないよ。仲良い奴だけ」

     一郎はなんとなく、短い今の会話で二郎が普段、学校で友人達とどんな付き合いをしているのか再確認できた気がした。人当たりがよく、交友関係が広く、それでいて決して浅い付き合いをしているわけではない。無理なくそのスタイルを貫いているところが二郎の良いところだと思う。

    「じろちゃん、醤油取って」
    「おおーい、すぐイジるな?」
    「イジっちゃねえよ。犬みたいで可愛いなと思ってさ」
    「くそー」

     不満そうにしつつも醤油を取って渡すじろちゃん。そういえば、と今度は弟から疑問を口にする。

    「兄貴ってダチから何て呼ばれてる?あだ名とか」
    「えー?俺はそのまま一郎が多いな」
    「まあ、確かに略しにくいかァ」
    「三郎は、さぶちゃん、でいけるけど」
    「まあアイツのことさぶちゃんって呼ぶ奴、俺等以外であんまいないけどね。つか友達いねえか」
    「コラ」

     醤油とわさびをさらに出しつつ、どんどん届く皿をキャッチしていく。

     普段、家族や依頼人や他ディビジョンのライバル達と接する二郎しか見る機会がないが、たまにこうして気のおける友人と接している弟を見ると一郎は嬉しくもあり、どこか寂しくもあった。自分の知らない世界で、弟が成長していく。楽しそうに過ごしている。時には家族には言えない悩みを聞いてもらったりしているのだろうか。どれも良いことなのに、自分が知らない弟の顔があると思うとどこか知りたいと思ってしまう自分がいる。ここまでくると過保護と言われても笑えないな。自嘲しながら兄は届いたアオサの味噌汁をぐいっと飲んだ。

    「あ、来てる」
    「おう、さぶちゃん。おかえり」
    「さぶちゃんのタマゴ来てるぞ」
    「え、なに、二人して」

     戻ってきた三郎。一郎が一度、立ち上がり、三郎をレーン側に通してやってまた隣に座る。

     最初に三人で回転寿司に来た時、三郎がレーン側に座りたいと珍しく一郎へねだったのだ。「色々置いてあるから危ないし、皿が届いたら取らなくちゃいけないぞ。大丈夫か?」と言いつつも、お願いされた兄はどこか嬉しそうで、二郎はその光景を眺めながら嬉しそうに「俺が三郎の前の席で皿取るのとか手伝うよ」と名乗り出て、それから回転寿司のボックス席に座る時はずっとこの配席だ。

     近くからさっきの二郎の友人達の笑い声が聞こえる。……二郎は、兄や弟とばかり連んで、休みの日まで一緒に過ごして、それで街中で友人と出会して、恥ずかしいとかないのかしら。
     親と一緒に歩いてるところを見られると恥ずかしがって距離をあける、なんてお得意さんが愚痴っていたっけ。まあ、俺は親ではないけれど。それに依頼のせいで昼は二郎を取ってしまったようだし。一郎は急に尻の据わりが悪い心地になり、二郎に尋ねた。

    「二郎、もしダチと喋ったりしたかったら、そっちでメシ食ってきても良いぞ?」

     すると二郎はキョトンと固まり、目を瞬かせ、そして次の瞬間には自分の席を守るように目の前のテーブルにべたりと両手でしがみついた。

    「え、やだよ!行かないよ?」
    「いや、金なら出してやるし、遠慮せず行ってきていいぞ?」
    「いや、行かないって!」

     え?という顔をしている三郎へ、一郎が「二郎の同級生が来てんだよ」と説明してやると、つまらなそうな顔でフーン、と言った後、二郎へ顔を向けた。

    「行ってきたら?オトモダチのテーブル」
    「だから行かねえって!なんだよ二人して!」

     “俺は今日、三人で食べたいの”
    必死にそう言って、目の前のタコ寿司を口に突っ込む二郎。ふん、と鼻を鳴らして更にタッチパネルで追加注文をはじめた。
     そんな姿を見て、他の二人は満足そうに笑って、目の前の寿司を食べはじめたのだった。


    2024.10.27
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