100日後にくっつくいちじろ19日目
「昨日、姉ちゃんが彼氏連れてきてさあー……」
昼休み。苦虫を嚙み潰したような顔で友人Aがランチの話題を提供した。
二郎をはじめ、一緒に昼ごはんを食べていた面々は早速その話題に食いつく。
「お前の姉ちゃんっていくつだっけ?」
「大学生。彼氏も同じ大学らしくて……」
「つか何でそんな嫌そうなん?お前そんなシスコンだったっけ?」
「いや、別に連れてくるのはいいんだけど、俺とか親の前で普通にイチャつくんだよ!どんな顔してればいいんだって話」
ははあ……と全員で同意の類になる相槌を打った。確かに、それは気まずいかもしれない。海外だったら普通なのかもしれないが、ここは日本だし、普通に身内が親家族の前でイチャつかれたら居たたまれない気持ちも分かる。
「実の姉貴の女っぽい部分とか見たくねえじゃん!?身内のそういうの見たくないっつうか……手とか繋いだりして、気まずいのなんのって!」
「あー、確かにそれはなあ……」
「だろう?」
二郎に姉はいないが、もしいたとして、同じ立場だったら顔を反らしてしまうかもしれないな、と思って苦笑いを零した。
「てかじろちゃんのとこは?一郎さんとか、三郎君とか連れてきたことある?」
「兄貴はまだしも、三郎はないだろ……まだ中坊だぞ」
「えー、でも今時の中学生なんてマセてるんだからありえなくないでしょ」
「彼女どころかダチもいねーもん、うちの弟」
「ダチと彼女は違うしなー、三郎君、絶対モテるだろうし」
「ええー、知らねえよ、家でそんな話しないし」
「確かに三郎君が告白された回数とか自慢してたら嫌だわ……」
そういえば三郎ってそういう話、家でとんとしないな。俺が知らないだけでモテまくっているのだろうか。ふむ、今度聞いてみよう。二郎は思った。
「じゃあ一郎さんは?」
「え?兄貴?」
「うん、あれだけイケメンなら毎週女の子とっかえひっかえで連れてきてもおかしくないっしょ」
「兄貴はそんなことしねえし……」
確かにモテるのは否定しないが。実際に告白現場に居合わせたことはないけれど、ラブレターを貰っていたり、連絡先を渡されているのは知っている。
「まあ俺も女だったら兄貴に告ってると思うしなー」
「でた!ブラコン!まあ分かるけど」
「んだよ、キャッカンテキに考えて兄貴よりいい男、この世にいねえだろ」
「兄ちゃ~んって呼んでた時からマインド変わったのかと思えばブラコンは変わんないよね。じろちゃん」
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「ただいまー……って、兄貴!今日は早かったんだ」
「おう、思ったより早く依頼が片付いてな。おかげで時間も出来たし、今日は餃子にしたぜ」
「まじ!?やったー」
「このあと包むから手伝ってくれっか?」
「もちろんだよ。着替えてくる」
二人で向かい合って餃子を包む。
手に皮を乗せてスプーンですくった具材を乗せて包んでいく。二郎は昼間の会話を思い出し、話題を振った。
「ねえ、兄貴って彼女できたら家に連れてきたりする?」
「はっ?」
二郎の突飛な質問に手元が狂った一郎、スプーンで皮を突き破ってしまった。
「何でそんなこと聞くんだ……?」
「いや、それが今日学校でさあ……」
昼休みの内容を、友人Aの実体験を踏まえて一郎に話す二郎。なるほどな、と苦笑いしながら一郎が体勢を立て直した。
「いやー……もしそういう相手ができて、お前らに紹介したとして、そこでイチャついたりはしねえよ」
「だよねー、兄貴は絶対そういうタイプじゃないと思った」
「三郎だってそういうことしないだろうし」
「あいつはしそうにないね」
くるくる、きゅっきゅ。
慣れた手つきで餃子を作り出していく。
「……そういうお前はどうなんだよ」
「へ?俺?」
「おう、恋人できたら連れてくんのか?」
「か、考えたこともなかった……」
急な質問に動揺し、少し多めに具材をすくってしまった。無理矢理詰め込みつつ考える。
「でも、本当に好きで大事なら兄貴と三郎には知ってほしいかも」
「はは……二郎らしいな」
「だってさ、好きで付き合うならきっと二人に紹介しても平気なくらい自慢の相手だろ?」
「そうだな、そんな日がいつかくるのかもな」
はは、と言葉をテーブルに落とすように俯いて笑いを溢す一郎。顔も分からない相手と隣同士、かしこまって挨拶をしに来る弟を想像したら上手く笑えなかったのだ。
「ダチに、兄貴は女の子とっかえひっかえ出来るくらいモテるだろうからどうなんだーって聞かれたよ」
「なんつー話してんだお前らは……」
「いやでもこれもダチに行ったんだけど、俺も女だったら兄貴に告ってるって!兄貴以上にいい男いないし!」
あっ。
また皮破いた。もったいねー!と騒ぐ二郎を他所にプルプルと小刻みに震えながら俯く兄。辛うじて出てきた声はごく弱々しいものだった。
「ンなこと外で言うな……ブラコンって言われんぞ」
もう言われているのだった。
2024.11.11