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    fuyukichi

    @fuyu_ha361

    腐った絵を描き貯めとく

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    fuyukichi

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    100日後にくっつくいちじろ40日目

    「悪い……完全にボケてた」
    「そんな、気にしないでください。いつも忙しい中で朝ごはんまで作ってくれてるんですから」
    「でもフツー間違えるか……?夜の7時と朝の7時……」
    「そういうときもありますよ……」

     時刻は午後7時過ぎ。一郎は台所で膝をついて項垂れ、三郎はそんな兄の肩に手を置いて慰めの言葉をかけていた。そう、夕食用に予約炊飯をしていたはずの炊飯器を開けると、ふっくら炊き立ての米……と思いきや、水に浸かっている炊飯前の米だったのだ。予約時間のAMとPMを間違えた。

    「折角カレー作ったのに……どうすっかな」
    「大丈夫です、今から早炊きモードで炊きましょう」
    「でも腹減っただろ……?」
    「僕は大丈夫ですが、一兄こそさっきまでお腹が空いて倒れそうって言ってましたが大丈夫ですか?」
    「おう、俺のせいだし仕方ね……あっ」
    「?」
    「そうだ」
    「どうしたんですか?」
    「これ、使うか?」

     一郎は思い出した。冷蔵庫に張ってあった半券の存在を。立ち上がり、冷蔵庫へ向かい合うと、二郎が友人にハワイのお土産として貰った『ALOHA』と書いてあるマグネットを外した。そこに挟んでいた半券。それを手に取って三郎へ見せた。

    「あー……!でも折角カレー作ってくれたのに」
    「カレーは明日に回そう。そうすれば明日が楽だしな」
    「それは、そうですが……」
    「嫌か?俺と外食」
    「いやなワケないです!着替えてきます!」
    「おう、俺も」

     そうと決まれば出掛ける準備だ。二人はバタバタと外出の支度をはじめた。月曜日か外食だがそれもたまにはいいだろう。



    「いらっしゃいませー!」

     カラン、ドアについたベルが軽い音を立てて鳴って、元気のいい店員が振り返った。髪をポニーテールにしてサンバイザーをつけた女性店員は、履いているローラースケートで軽快に入口へ駆けつける。

    「お二人様……って、山田君のお兄さんと弟さん!?」
    「はは、こんばんは。入れますか?二人」
    「もちろん!どうぞ」

     急遽、二人が訪れた先は二郎のバイト先のダイナー風ファストフード店であった。
    以前に萬屋のお得意様を通し斡旋された店。そのオープン記念としてスタッフに配られた2人までのご優待券。二郎が「そのうち二人で来てよ」と渡してくれたものがあったのだ。
     当の二郎はこの店で絶賛バイト中。二郎が仕事をしている中、申し訳ないが二人はお客としてここを訪れたというワケだ。
     店員は女性も男性も等しく90年代風のアメリカンポップな制服を身に纏い、ローラースケートで店内を駆け回っている。これも一種のコンセプトカフェか。
     案内されたボックス席に腰を下ろし、メニューを眺めていると奥から一直線に二人のテーブルに向かってくる男がひとり。

    「おーい、兄貴!三郎!」
    「お、来たな」
    「うわ、うるさ……」

     ぶんぶんと手を振ってあっという間にテーブルまで辿り着いた二郎。流石、体を使うことに関しての覚えは早いらしく、履いたことがなかったローラースケートを見事に履きこなしている。シャッ、と停止して笑顔で期間限定メニューを二人へ差し出した。

    「まさか今日来るなんて!どうしたの?カレーは?」
    「炊飯の時間間違えて米炊けなかったんだ……」
    「え、珍しいね」
    「お前がバイトから帰ってくる頃には炊けてるから安心しろよ」
    「そ、それはサンキューだけど」

     二郎は黄緑のサンバイザーを頭につけて、水色のストライプ柄のシャツとハーフパンツを身に纏っていた。店のロゴが腕にワッペンで刺繍されていて、胸には『JIRO』のネームプレート。髪を後ろでひとつに結んでいる。正直、物凄く似合っていた。元気でハツラツとした感じもコンセプトに合っているし、雇用主が二郎を指名したのも頷ける。もしこれが落ち着いた洋風の純喫茶だとかそういうコンセプトなら三郎の方が適任だろうが、この店には二郎。なんなら二郎に働かせることを前提に設計されたまである。一郎は完全に弟バカな思考に陥っていた。

    「……なあ二郎。この店って写真いいのか?」
    「あ、全然いいよ。うちのハンバーガーすげえデカイからみんな写真撮ってSNSに載せてる」
    「いや、メシの写真じゃなく」
    「あ、店内ね。いいよ。可愛いっしょ」
    「いや、店内でもなく」
    「?」
    「はあ……お前だよ、お前を撮っていいか聞いてるんだ一兄は」
    「あ、えー、俺?俺を撮りてぇの?」
    「おう」
    「えー、なんか照れるし、じゃあ三人で撮ろうぜ」

     おーい、と近くにいた他のスタッフに声をかけると「三人で写真撮ってもらっていいか?」と恥ずかし気ゼロで頼んだ二郎。そうじゃない、三郎も一郎も思ったが、でもまァ三人で撮ってもらえるならそれはそれでいいか。一郎は胸を躍らせた。カシャ、カシャと何枚か撮ってもらった。

    「んで、何食う?」
    「おすすめは何かあるのか?」
    「やっぱクラシックハンバーガーが一番人気だな。看板メニューだし。それと今は期間限定でクリスマスっぽいメニューがあって、それは女子に人気で……」
    「二郎のおすすめは?」
    「んー、兄貴はこのダブルバンズバーガーのLセットがちょうどいいと思うんだけど、中に椎茸入ってるから抜いたほうがいいかも。代わりにチーズトッピング増やせるよ」
    「おー……じゃあそれにするかな」
    「ドリンクは?コーラ?」
    「おう」
    「オッケー、三郎は、チーズバーガーのMセットくらいだな。んでポテトにホワイトソースかけられるんだけど、お前これめっちゃ好きだと思う」
    「へえ、悪くないね。珍しいし。飲み物はアイスティーにする」
    「おう。あ、甘いの食う?今日、俺がデザートトッピング担当なんだけどすげえ美味そうだよ」
    「うっす、食べます」
    「何で敬語?」

     結局、二郎おススメのセットに、クリスマス限定のケーキとパフェを食後につけた。オーダーを取り、スマホで注文を飛ばすと二郎はニカッと笑って「少々お待ちを~」と手を振って他のテーブルへ向かって行った。その背中を眺めながら一郎は頬杖をつき、脱力した。

    「えー……通っちまいそうなんだけど、どうしようさぶちゃん、何か論理的に俺を止めて」
    「一兄、家に帰ればいつでもあのアホ面は見られるので無駄なお金とカロリーの過剰摂取は控えてください。そのお金で回したがっていたソシャゲのガチャ回せますよ」
    「うぐ……ッ!」
    「どうしても接客されたいなら、あの制服、洗濯で家に持って帰ってくるときに着せて配膳させればいいんですよ」
    「そ、それは何かコスプレさせてるみたいで罪悪感があるというか……」
    「はあ、よく分かりませんが」

     近くのテーブルに向かった二郎を二人で眺める。女性四人客で、二郎がテーブルに着くと「えっ!二郎君!?」「ギャーッ!まじでバイトしてたんだ!ヤバ!」「え!超似合ってるよ!」と賛辞を浴びせられて「お……おう……じゃねえや、うっす……」とサンバイザーをくいっと下げて目線を反らしていた。

    「あいつ、上手くやれてるみたいだな」
    「そうですか……?めちゃくちゃ照れてますけど」
    「それがまたウケてんだよきっと」
    「そういうものですかね」

     十数分後、料理の乗ったトレー片手に二郎が再び二人のテーブルへ向かってきた。
    「デカイっしょ?ヤバくない?」と自慢気に、一郎の前に料理を並べ、兄に笑いかける。その姿を三郎はスマホで動画撮影していた。一郎への提供を終えて、三郎の料理を並べようと顔を向けたところで動画撮影されていたことに気付き「うお、何で撮ってんだよ」と驚きつつ、ハンバーガーやらポテトやらを並べていく二郎。

    「ケチャップとマスタードは備え付けのそのポンプからかけ放題ね!」
    「おおー、すげえ。テンション上がるなコレ」
    「だよね。まあゆっくりしてってよ」

     じゃあまた、と去って行く二郎。三郎は撮影停止のボタンを押した。

    「さぶちゃん、その動画……」
    「僕は別に全くいらないですが、一兄が撮りたそうだったので。後で送りますね」
    「!おま……世界一気の利くいい子か……?」
    「へへ、はい。今頃気付きました?」
    「十万年前から分かってた~……!」

     俺の弟どっちも最高、と呟きながら一郎はポテトにたらふくケチャップをかけたのだった。

    2024.12.2
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