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    fuyukichi

    @fuyu_ha361

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    100日後にくっつくいちじろ67日目

     一郎は困り果てていた。
    自分の気持ちがバレたあの夜から、二郎は明確に動揺し、自分のことを避けていたように思う。正確には『生理的に避けていた』というわけではなく、『二人きりになるとどういう話をしてどんな顔をしていればいいのかが分からなかったので逃げていた』が説明として正しいか。一郎の推理としては以上だ。そしてそんな挙動をする二郎のことをきちんと理解していたので、無理に距離を詰めてみたり、話し合いをする場を設けるようなことをしてこなかった。出来る限り『いつも通りの兄』としての振舞を意識していたところ、少しずつ、少しずつ二郎もいつものペースを取り戻しつつあると感じていた。まるで拾ってきた野良猫を家に慣れさせる期間のよう。

     しかし、冒頭で述べた通り、現在、一郎は困っていた。
    何故なら、深夜にリビングで二人、アニメを見ていたところ、隣で二郎が寝落ちた。よくそうなるので、そこまでは問題ないのだが、しかし今日はなんと、かくん、と二郎の体が傾き、隣にいた一郎の肩にもたれかかってきたのだ。すう、すう、と子供のように寝ている。

    「油断しすぎだろ……」

     おい、この前までの警戒態勢はどこにいったんだ、お前。
    いや、警戒していたわけではないだろうが、少なくともどうやって接すればいいのかと困惑して距離を取っていたじゃないか。内心でそうツッコミを入れるが、正直、嬉しい気持ちの方が大きい。一郎は完全にこの弟に振り回されている自覚があった。

    「また風邪ひくぞ」

     近くにあったブランケットをかけてやるが起きない。起きてほしいわけではないが。自分とも三郎とも異なる、垂れた目を伏せ、目元のほくろに影を落として背中を静かに上下させている。まろい頬に髪の毛がかかっていて、痒くないのかと指で優しく避けてやった。

    「ハハ、お前のせいで兄ちゃん最近ずっと思春期みてえだわ」

     苦笑いしつつも、悪くない。一郎はそう思っていた。
     高校時代は好きな子とドキドキするような青春を過ごしていないから、少し遅れてやってきた春のようで。ただ相手が同じ家にいるという特殊すぎる環境。相談できる相手もいない。見守ってくれているらしい、頼り甲斐のありすぎる末っ子はいるが、兄貴の身内に対する特殊すぎる恋愛相談をするなんてこと、一郎にはハードルが高すぎる。
     こんなに苦しいのも、頭を悩ませるのもきっと身内でなければ発生しない感情なのだろう。しかし、じゃあ二郎を好きにならなければよかったとはどうしても思えない。むしろ苦しくても、その相手が二郎ならば幸せであった。

     いっとう優しい表情で弟の頭を撫でて、もう少しだけ、と一郎はアニメの続きを再生した。


    2024.12.29

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