100日後にくっつくいちじろ75日目
二郎と三郎はリビングでドラマを眺めていた。別に真剣に見ていたというわけでもなく、互いにスマホゲームをしつつ漫画を読みつつの『ながら見』であった。
そのドラマで、主人公が両親に婚約者を紹介する一幕があった。それを眺めながら二郎が三郎に話しかける。
「なあ、お前さあ、兄貴がどんな彼女連れて来たら納得する?」
「はあ?」
三郎は至極、面倒くさそうな顔を二郎に向けた。そして盛大な溜息。
「……賢くて、可愛くて、小さくて、お淑やかで、賢い人」
「賢い2回言ったぞ」
「分からないか?お前の逆みたいな人ってことが言いたいんだ」
「んだと!」
喧嘩売ってんのか、と近くにあったハチ用のぬいぐるみを三郎に投げる二郎。三郎が投げ返すとそれは二郎の頭にポコンと当たった。
「何だよ、二郎って答えてほしいのか?」
「は、はあ!?なんでそうなんだよ!」
「後押ししてほしいのか、お前は」
「言ってねえわ!」
「そうとしか聞こえないけど」
三郎は呆れたようにそう言うと、コタツの上に乗っていた蜜柑を二郎にひとつ押し付けて「剥け」と命令して寝転んだ。王様か?二郎はあまりの弟の傍若無人っぷりに絶句しながらも、暇なので大人しく剥き始めた。
「白い筋まで取れよ、でもあんまベタベタ触るな」
「無茶言うな!」
テレビの中では、両親が結婚に反対している。
どうやら主人公はいいところのお坊ちゃんらしいが、ヒロインは高卒で社会人になったので、それで反対されているということらしい。
「ほらよ」
綺麗に剥いた蜜柑を三郎に差し出す。剥いていたら自分も食べたくなったので、もうひとつ蜜柑を手に取った二郎。三郎はコタツの中に手を突っ込み、中で丸くなっているハチを撫でると、むくりと体を起こした。
「もっと綺麗に取れよな」
「文句言うなら回収すんぞ」
二郎の剥いた蜜柑に文句を言いつつ三郎はそれを食べ始めた。
「甘い」
「お前よく当たり蜜柑引くな」
「日頃の行いがいいからな」
自分の分は大雑把に皮を剥いて、二郎はそれをパクパク食べる。「少し味ボケてるわ」と微妙な顔をしながら全部食べきった。
「この親は何で結婚に反対してんの」
三郎はあまりドラマの話を聞いていなかったのか、二郎に尋ねた。
「なんか学歴がどうとか、つり合わないみたいな」
「はー、ふうん」
「興味がねえなら聞くな」
蜜柑を食べ終えると三郎はまたゴロンと転がった。そしてポツリと呟く。
「……大事に思ってくれる人」
え、と二郎が聞き返した。
「一兄のこと、何より大事にしてくれる人」
それなら認めてやる。
三郎はそう言って、昼寝の体勢で目を閉じたのだった。
2025.1.6