100日後にくっつくいちじろ79日目
「ただいま……って兄貴!起きてて平気なの?」
放課後、二郎が即帰宅するとリビングで洗濯物を畳んでいる兄の姿があった。昨日の時点で微熱まで下がっていて、今朝は平熱に戻っていたけれど、まさかリビングで普通に起きてるとは思わなかった。
一郎は申し訳なさそうに笑って答える。
「おう、もうだいぶスッキリしたから体動かしたくてさ。連日、迷惑かけたな」
「ううん、良かった。けど病み上がりなんだし無理しないでね」
「ああ、ありがとう」
二郎も手を洗い、制服を着替え兄と一緒に洗濯物畳みに参加した。一郎の着替えやタオルが大量なのでいつもより多い。二郎がタオルの端を揃えていると、一郎が「あー」と何か言いづらそうなことでもあるかのように頬をかいた。
「なァ、二郎?」
「んー?」
「俺さ、熱出してる時、変なこと口走ってたよな?」
変なこと。二郎は考えた。そして一番に浮かんだのが昨晩の「もう俺で良くないか?」発言だ。
「なんか、口説かれた」
「ダァーッ、悪い、マジで。あんまり覚えてないんだがスゲェ調子乗ってた自覚はある」
「調子乗ってたの?なんで?」
「……お前があんまり献身的に看病してくれるから」
もちろん三郎もだけど。そう言いながら一郎はパジャマを畳む。
「……兄貴、珍しく甘えてくれたから俺も嬉しくて…チョーシ、乗ったのかも」
確かに二郎は学校で兄が熱を出して心配だとか、兄のために早退したとかを友達に話したら「知ってはいたけどマジで兄ちゃんのこと好きだよな。俺兄弟が熱出してもそんな付きっきりで看病とかしたことないわ」と言われた。まあそれは家庭環境もあるのだろうが。ウチは親がいないし、助け合う精神は他の兄弟より強い自覚はある。
普段もっと頼って欲しいと、兄貴が頼れるような男になりたいと思っている二郎にとって風邪の時だけでも頼ってもらえるのは嬉しいことであった。それに、甘えてくる兄はいつもより幼く見えて可愛かった。口には出さないけれど。
「お前なあ……」
「え、なに」
一郎は二郎の「甘えてくれたのが嬉しい」発言に動きを止め、がくりと項垂れた。何か変なこと言ったかと二郎が顔を上げる。
「そういうこと言ってると、期待する」
しかし「やめろ」とは言われず。二人は無言で妙に気持ちをソワソワさせながら洗濯物を畳んだ。
2025.1.10