Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    fuyukichi

    @fuyu_ha361

    腐った絵を描き貯めとく

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 108

    fuyukichi

    ☆quiet follow

    100日後にくっつくいちじろ83日目


    「朝から日本史かー……最悪だわ。既に眠いのに、暖房効いた教室で日本史とかぜってえ眠い」
    「…………」
    「……二時間目が体育なのはいいんだけどよォ、持久走ってテンション下がるよな。走るの嫌いじゃねえけど折角走るならサッカーとかバスケしてぇじゃん」
    「…………」
    「……三時間目は英語か。うわ、隣のクラスの奴にテキスト貸しっぱなしだわ」
    「…………」
    「今日の弁当なにかなー、早く昼休みになればいいのに」
    「…………」


     二郎は変な汗をかいていた。真冬だが。
    何故なら、一緒に登校している三郎が自宅を出てから一言も口をきかないからである。
    怒らせるようなことはしていないはず。今朝だって家を出る前まではいつも通りだったし……いや、いつも通りとは違うか。昨晩からどこか暗い雰囲気だ。ただ、二人きりになって「何かあったのか」と聞こうとすると、雰囲気で分かるのか逃げていく。言いたくないのだろう。そう思ってあえて触れずにいたのだが、口をきかなくなった。間がもたない。このままでは全ての時間割を説明することになる。

    「さ、三郎クン……?」

     あと数メートル歩いた郵便局の角で、二郎と三郎は方向が別になる。このままだんまりを決め込んでいる弟と別れて良いものか。ちらりと横目で三郎を見ると、グレーのマフラーに口元を埋めて難しい顔。寒さから鼻のてっぺんを赤くしている。
     二郎はバリバリと頭をかいた。そして「あー……」と声を出す。

    「なんかあったなら、言ってみろよ」

     シンプルな問いかけ。どうせコイツのことだから「お前に相談することなんてない」的な返しが来ると思った。しかし、郵便局の数歩手前で三郎はその足をピタリと止めた。えっ、と二郎も止まる。顔を覗き込むと三郎は、小さな声で言った。

    「行きたくない」

     二郎は三秒考えた。

    「学校に?」

     こくりと三郎が頷く。相変わらず難しそうな顔をして、眉間にいっぱい皺を寄せ、二郎とは視線を合わせず下を向いている。

     二郎は更に考えた。五秒考えて、そしてリュックごと三郎の背中を強めにバシンと叩く。

    「んじゃ、サボるか」



    「この肉まん、美味くね?」
    「……ピザまんが良かった」
    「奢りなんだから文句言うんじゃねえ」

     二郎と三郎は制服のズボンをジャージに履き替え、それを駅前のコインロッカーに通学鞄と共に突っ込んだ。幸いアウターを着ているので上は隠せている。ジャージで家から出てきたような格好になり「どうして」と尋ねる三郎に「制服で歩いてると“学校は?”とか聞かれるだろ」と答える二郎。弁当だけはビニールに入れて持ち歩く。
     三郎は担任へ「体調不良で休みます」と電話をかけ、二郎は友人に『腹痛いから休むって先生に言っといて』とメッセージを送った。それから電車に乗り、イケブクロを離れ、近くの駅にある大きな商業施設で肉まんを食べながら温まっている最中だ。

    「お前、なんだかサボり慣れてるんじゃないのか」
    「はあ?んなサボってねえよ。ダチが慣れてっから色々聞かされてるだけ」

     学費を出してもらっているのだ。二郎はできる限り遅刻も休みもしないように心掛けている。それは三郎も同じである。

    「……何があったか聞かないの」
    「聞いてほしいなら聞くけど」
    「ほしくない」
    「じゃあいいわ別に」

     そう言って残りの肉まんを全て口に入れる二郎。三郎も遅れて全て食べきる。

    「明日からはちゃんと行く」
    「おー、まァ、好きにしろよ」
    「適当だな……」
    「だって行きたくないって言ってる奴を無理矢理行かせてもなァ……あっ、俺が代わりに行ってやろうか?」
    「それで前に体育祭に出て一兄にこっぴどく怒られたの忘れたのか」
    「あ、それもそうか」

     くあ、と欠伸をして二郎はゴミをまとめて立ち上がる。

    「うっし、じゃあ行くか」
    「どこに」
    「ゲーセン。このビルに入ってるやつ」

     平日で空いてるしな。そう言って二郎は三郎の腕を掴んで歩き出した。

     その後も二人は商業施設内でゲームをしたり、買い食いをしたり、映画まで見て満喫した。昼は共有スペースで兄の弁当をしっかり食べて、おやつの時間にクレープまで食べた。そしてそろそろ学校の終わる時間。今、イケブクロに帰ると同級生の下校時刻と被るなと話して、少し時間をずらした夕刻、帰路についたのだった



    「二郎、三郎、そこに座れ」

     帰宅すると、エプロンをつけた兄が開口一番、笑顔で床を指さした。
    ア、ばれてる。顔を青くしつつ黙って床に正座する弟二人。

    「どういうことか説明してみろ」

     主語なく兄が問いかける。もちろんここですっとぼけた瞬間、脳天に拳を落とされるのは分かり切っているので、二郎が口を開く。

    「ちょっと、学校行くのが億劫で……三郎連れ出してサボりました。ごめんなさい」

     三郎は「は?」と弾かれたように顔を上げて二郎を見る。しかし二郎は黙って瞼を伏せたままだ。

    「違うんです一兄、僕が……その、悪くて」

     そんな弟達のやり取りを黙って見ていた一郎。

    「三郎の中学から電話があった。普通、欠席連絡は保護者がするのに本人から電話連絡があったってな。ちょっと考えればすぐバレるって分かるだろ」
    「はい……」
    「二郎、お前のダチとさっき会って、腹大丈夫かって聞かれた。心配してたダチにちゃんと謝れ」
    「う、はい……」
    「サボりたい日があるのも分かる。だがお前らは今、ブクロの顔として代表張ってンだろ。そんな奴がダセェ嘘ついて日中ほっつき歩いていいのか?学生のお前らが一番大事なのは学校だろ。そういうことをするならバトルにも出さねえし、萬屋の手伝いも任せない。甘えんじゃねえ」

     ごめんなさい、と同時に謝罪が二人の口から出る。一郎は数秒後、はあ、と溜息をついて自分も座るとボリボリ頭をかいた。

    「なあ、心配したんだぜ」

     そう言った一郎に、二郎も三郎も胸が詰まる心地がした。

    「もしサボりてえ時があったら、俺にも相談してくれ」
    「し、心配、かけたくなくて……」

     震える声で三郎が答える。

    「分かってる。けど黙ってられるほうが辛いぜ、俺は」
    「ごめ、ごめんなさい、一兄……」

     とうとう涙目になった三郎。一郎はここで漸く笑顔を見せて、そんな三郎の頭を力いっぱい撫でた。

    「弁当どうしたんだ、お前らは」
    「食ったよ」
    「食ったんかい」

     ほぼ泣きべそをかきはじめた三郎を「あーほら、もう来い」と抱き締めながら一郎は二郎へ尋ねた。

    「おい、次は俺も誘えよ。サボり」
    「はは、分かった」

     二人が今日見た映画の話をして、三人は夕食のカレーを食べたのだった。


    2025.14


    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💙💛🎥🎮🍱💓🍛💙💛💙💛💙💯💛👍❤💙❤❤💙💛❤💙💛❤💙💛💖❤💙💛☺❤💙💛💗💙
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works