100日後にくっつくいちじろ91日目
「オイ、お前も見ろよ。今期マジやべえから。必修科目だから、いやマジで」
「……義務教育の必修科目もロクに覚えてない奴が何言ってるんだか」
一郎は仕事。二郎と三郎はリビングで二人、寛いでいた。
三郎はプリンを食べながら、スマホゲームをしようとしていたのだが、昨日買ってきたアニメのBlu-ray鑑賞を鬱陶しいテンションで誘ってくる二郎に辟易していた。
「どうせ一兄が帰ってきたらまた見るんだろ。しかもそれ録画して何度も見てたじゃないか。もう内容忘れたのか?」
「お前は本当に何も分かってねえな……推しアニメなんて何回見てもいいんだよ。そのための円盤だしな」
「無駄すぎる……」
「兄貴に勧められたら見るくせに」
「そりゃあ一兄が言うなら一緒に見るに決まってるだろ」
「人を選ぶんじゃねえ」
ぶつくさ言いながらも結局ひとりで見ることにしたらしい二郎はBlu-rayをデッキに挿入した。メニューで本編の再生ボタンを押して、自分もプリンを食べ始めた。
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「ズビっ……ううっ、いい話すぎンだろ……」
「だああー!うるさいな!アニメも静かに見られないのか!」
「だってよォ!こんな展開、全米じゃなくても泣くだろー」
箱ティッシュを抱えながらアニメに涙する二郎。三郎からクレームを受けたので渋々、鼻をかんで、再び静かに画面へ向かい直った。
画面の中ではヒロインが、積年の思いを好きな相手に告げるシーンだった。
ファンタジーもので、ずっと一緒に過酷な旅を共にしてきた末の、満を持しての展開であった。ヒロイン視点で、どれだけ相手のことを思っていたかを長く描かれてきていたので、ずっと話を追っているファンからすれば感情移入もあり泣けるシーンであった。
鼻をズビズビ言わせながら画面を食い入るように見つめる二郎。
ヒロインが顔を赤く染め、一生懸命に気持ちを吐露している。
二郎はふと思った。
よく考えたら、自分は一郎から直接、告白らしい告白をされたわけではない、と。何なら隠そうとしていたくらいだ。
……三郎からのメッセージを自分が見ることもなく、あのまま隠し続けられていたら。きっと一生、兄のことを『そういうふう』に考えることはなかったかもしれない。……兄は、隠したかったのだろうか。黙っておけるくらいの気持ちなのだろうか。それがどこか寂しくて、二郎はまた鼻をズビっと鳴らした。
2025.1.27