【bll夢 男主】俺のパスは、あいつの為に。【yurの独白】 ……テレビで、幼馴染を見た。
U-20のメンバーに、立ち向かっていく幼馴染の姿に、あいつあんなにサッカーうまくなっちゃって、まぁ。何て嬉しい気持ちが湧き出てくる。
……反対に、俺はどうだ?
無名のサッカーチームの、無名のMF。名前も、活躍も、誰にも知られない、一般人と変わらない俺。
昔、高校に入る前に約束したのにな。
『俺のMFになってくれるよな?』って、言ってくれたはずなのに、当の本人は何の活躍もせず、下の下のチームで生活できるだけの収入を稼ぐ弱小選手。
「おれ、なにしてんだろ。」
幼馴染が、シュートを決める。それは、最後の最後。勝負を決するゴールで、嬉しいはずなのに、彼が遠くに行ってしまうようで、胸が痛い。寂しい。
「……置いてかないで、世一。」
情けない一言。あいつより、2歳年上なのに、こんな弱弱しい一言が口からこぼれ出てしまう。
もっと、頑張らないと。あいつの隣に立てる、MFになれるように。あいつに、パスを出せるくらいの選手になれるように。
パンと頬を叩く。明日も練習だ。いつもより、気合を入れて、取り組もう……。
そんな風に決心して、数ヶ月。自分のチームの勝利数が増えてきて、少しずつではあるが、地元だけではなく周辺まで知名度が上がってきた。何なら、県外からも応援に来てくれる人も出てきた。
もっと、あいつに追いつけるように、頑張んないと。
あんなにすごい選手の中にあいつはいるんだ。きっと、俺の事なんて世一は忘れてる。だって、強い選手に刺激を受けていたら、俺のパスの事なんて眼中にないはずだから。
ふぅ、と息を吐きながら、布団から起き上がる。いつも通りの朝。オフだからゆっくりしようとコーヒー片手にテレビをつけて、インタビューを受ける幼馴染を見る。
……そして、あいつの一言。
「あ、俺、幼馴染がMFやってくれないならワールドカップ出ないんで。」
その後は会見中のあいつから電話が来たり、いろんな選手に絡まれるわけだが、一波乱落ち着くと、俺はソファーへと体を下す。
「……世一、俺の事、忘れてなかったんだ。」
一言呟いたら、嬉しさとか、今まで頑張ったことが報われたような気とか、そんな思いでいっぱいで、ぼろりと涙が一粒落ちた。あぁ、お前、覚えててくれたんだ。そんなことを言ってくれるくらい、俺のパスを、必要としてくれてたんだ。
……そう思ったら、俺は一人、声を漏らして泣くしかなかった。
ありがと、世一。おれ、もうちょっと頑張ってみるよ。
……お前に、最高のパスを出せるMFを、もう少し、続けてみるよ。