【bll夢 男主】あいつのパスを、受け取るために。【isgの独白】 潔世一には、幼馴染がいる。
幼馴染の夏目有利は、優しく、そして努力の天才だった。
世一がサッカーをやりたいと言ったら、一緒にやってくれたし、世界一のFWになりたい、と言えば、バカにせず『じゃあ、その隣に居れるように、俺もMF頑張ろうかな』なんて言ってのける、そんな奴だった。
そして、本当にMFとして努力を重ね、世一を試合中に輝かせてくれる。そんなMFに彼はなるよう、練習を重ねた。彼のパスの精度は上がり、そして、かゆいところに手が届くような、欲しいところに来るような、そんなパスを出す幼馴染が、前よりもっと大好きになった。
毎日一緒にサッカーをした。毎日パスをねだった。毎日彼が隣にいることが、世一の当たり前だった。
「世一、世一のおかげで、きっと今の俺があるんだ。MFとしての俺が。だからさ、ありがとう。」
彼自身が努力したから、MFとしての技術が上がったのに、そんな風な事を有利が言うもんだから。彼の試合中にギラリと光る青い瞳が、青空のように綺麗で、そして、どこか凶暴に、怪しげに輝くから。……世一は、さらに夏目有利と言う男にハマっていくのだ。
これからも、ずっと彼の隣にいれるのだと、世一は信じて疑わなかった。
______しかし、ある日の事だった。
「俺、県外の高校行こうと思う。」
「……は。」
幼馴染から言われたのは、そんな二人の距離を引き裂くような一言だった。
一緒に行こうと言ってたのは、県内のサッカーの名門高校。でも、彼は県外の、しかも、一人暮らしをするであろう距離の高校だった。
「ここ、俺が気になるMFがいるんだ。それに、監督もMFだったみたい。だから、俺ここに行きたいんだ。」
「え、一緒に、高校行くって言ったじゃん……。」
「俺、もっと自分の技術をあげてみたい。ここに、俺が欲しいものがある気がする。だから、ここに行く。」
なんで、と言う思いと、行かないでと言う胸を締め付けられるような気持と、ごちゃ混ぜになって、そして、抵抗しかできなかった。有利に引っ付いたり、「一緒の高校に行こう!」とわがまま言ったり、そんな小学生じみた抵抗。しかし、彼も彼なりに考えがあるようで、世一のわがままに、今回は流されてはくれないようだった。
「世一、お前に、もっと最高のパスを渡せるようになりたいんだ。その為に、俺、もっともっと頑張りたいんだよ。」
そっと自分の頭を撫でられながら、真剣な表情でそんな事を言われてしまえば、首を縦に振るしか、世一はできなかった。
それから3年。幼馴染とはしばらく会ってはいない。
高校に入った俺は、、監督の掲げる『ワンフォーオール・オールフォーワン』と言う言葉に違和感を抱えつつ、しかし、周りのチームメイトにも流されつつ、『和』を大事にするようになっていた。
……おかしい、自分は、もっとガツガツしていたはずでは?シュートに、貪欲だったはずでは……?
そう思ったら、世一は自分から幼馴染に会いに行くことが、出来なかった。今の自分では、彼に会うのが、ダメな事な気がしたのだ。
……でも、世一は彼が何処かのチームに入ったのだと、それだけは彼の両親から聞いていた。すぐさま、彼のチームの試合を見に行こうとチケットをとった。彼に内緒で、見に行った。
無名なチームであったが、有利はその中で、俺には輝いて見えたのだ。トラップも、相手の体制を崩しながらのフェイントも、軽々とやってのけているけど、前よりも格段に技術が上がっていた。
そして、彼のパスの精度だ。
隙間をぬうように、それでいて、FWの蹴りやすい場所へすとんと落ちる、そのパス。
……受け取っている、FWが、うらやましかった。
しかし、今の自分にはそんな資格がない。
昔のように、シュートをせず、味方にパスするような自分など、彼にはふさわしくないと、そう思ったのだ。
……それに、きっと彼も俺の事など、忘れているだろう。こんな、小さいときにだけ一緒にいたような、幼馴染の事など、きっと忘れているに決まっている。
「……また、有利とサッカーしたいなぁ。」
ほろりと涙と共にこぼれたそんなつぶやきは、幼馴染にはきっと届かないのだ。
ブルーロックで、一番のエゴイストになった。
一番の、FWになった。
今なら、あいつの隣に立てると、自信を持って言える。
だから、世一はインタビュアーに、こう返すのだ。
「あ、俺、幼馴染がMFやってくれないならワールドカップ出ないんで。」