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    柘植櫛(tsuge13)

    専ら汐見ゼミの二次創作を文・絵でしてます。
    サイトに載せた物の一部や突発的な落書きをこちらには載せてます。
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    柘植櫛(tsuge13)

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    結婚後アキ潤短編。二か月ぶりになんか書けた。

    #アキ潤
    whitePoplar
    #葉山アキラ
    #汐見潤

    バーティカルライン『俺は潤に拾われたから潤の物だ。鼻でも何でも、潤が好きに使ってくれていい』
    跪いて小さく生えそろった足の指に口付けてから、葉山は汐見を暗く澄んだ緑色の瞳で見上げて告げた。
    『ここにキスするのは潤にだけだ』
    「私と君は対等だよ」と、苦い困惑と否定を込めて伝えても、葉山は取り合わず軽く笑うだけだった。



    ーー下から見上げられる事に慣れてないんだな。
    昨夜の事を思い出しながら、汐見はいささかずれているとは思いつつも、そう結論づけることにした。葉山の戯れに心乱される度に、自分の反応の正当性について考えてしまう。
    保育園の頃から、学年で背の順で並ばされると一番前以外になった試しが無い。スパイス研究の道に進んでからは、表彰や論文の引用回数で一番になった。横に並ぶ者は今の所いない。
    弟子ではあるが、葉山の研究分野はより嗅覚に特化しており、所属する学会もあまりかぶっていない。
    「俺がいると潤のファンに睨まれるから」と結婚後に葉山は言っていたが、そこは汐見としても完全に打ち消すことはできなかった。
    汐見が学生時代から数々の実績を打ち立てるのを目の当たりにしてきた上の世代は、「スパイスの権威・汐見潤を育ててやった」という体をとることで威厳を保っており、下の世代にとっては「何十年も変わらず一線で活躍する越えられない偶像」として汐見を扱っている。
    葉山は葉山で、教師としても遠月リゾートの顔としても固定客を抱え持つが、「汐見の一番弟子」としては好意的にみられていない。
    人の感情を自分の望む通りに穏やかな方向に動かす術など、汐見は持たない。だから淡々と研究にいそしみ、葉山の献身も熱情も「そういうものか」と受け止めて処理するようにしている。
    商業ビルのフードフロアにあるカフェが待ち合わせの場所だった。
    内装は白を基調に、ツタの絡む木製の柱が席の仕切りになっていた。向かいに座る海老沢の他にもう二人、極星寮の元寮生が集まる事になっている。この喫茶店のオーナーと、食品加工会社の社長だ。遠月学園の卒業生によくみられるキャリア形成をしていると言える。
    汐見や黒木場のように研究職を志す卒業生も一定数はいるが、大抵は企業内の研究開発職に就く。研究者兼教育者として教鞭を取りながら、経営にも携わっている葉山はレアケースだ。
    「そのシュシュ、お弟子くんからのプレゼントよね」
    紅茶の湯気の奥の海老沢が指した先、ビル壁面のデジタルサイネージには、汐見が髪を束ねているシュシュにプリントされたものと同じブランドロゴが輝いていた。
    「若い子からそんな贈り物されて、愛されてて羨ましいわぁ」
    「そ、そそ、そんなのじゃないですよ」
    汐見は動揺して開いた両手を振る。紅茶の澄んだ高い香りが手の動きに合わせて横に広がる。
    「『たまたま通りがかった店で見つけたから、買ってやった』って言ってましたもん」
    「たまたまでブランド物選ぶような子じゃないでしょ」
    「そうです、それです。私がボケっとしてて髪留めもすぐどこかにやっちゃうから、葉山くん呆れてて、『これは高かったから絶対に無くすなよ』って。刻印サービスって言うんですか チャームの所に名前まで入れられてるんですよ」
    「葉山の名字で やっぱり汐見ちゃんは自分の物だってアピールしたいだけじゃないの」
    「違いますってば。それよりまだお二人は来てませんけど、極星寮の改築お祝いの件ですが」
    汐見は無理やり、今日集まった目的である話題を切り替える。海老沢は頬杖をつき、猫のように目を細めて言った。
    「私は汐見ちゃんとお弟子くんのゼミの方が気になるけどね」
    老朽化と葉山が教授に抜擢された事が重なり、汐見ゼミが使用していたオンボロ二階建ても建て替えた。ゼミ室は別だが、建物自体は汐見ゼミと葉山ゼミの共用にしている。
    「汐見ちゃんのゼミの建て替えお祝いも出してあげるから、ルームツアーしてよ。職場まで一緒なんてどれだけ仲いいんだか」
    「それは単に予算や機材の関係で……あ、先輩達 こっちです」
    店の入り口に見知った二人を見つけ、汐見は周りの客に迷惑にならないよう気を配りつつ、助けが来たとばかりに手招きした。



    改築祝いの話はすんなりまとまり、海老沢達と別れてから汐見はビル群の合間にある広場のベンチに腰掛けた。温かいダッフルコートのポケットからスマートフォンを取り出し、手がかじかまないうち葉山にメッセージを打ち送る。
    等間隔に植えられた街路樹のイチョウから、黄色い葉がひらひらと舞い落ちてくる。
    遠月学園ではこの時期、貴重な料理の材料としてぎんなんの実を拾い集める生徒達で、イチョウ並木の下に紺色の制服のコントラストが見られるのが風物詩だった。汐見も寮生の時はふみ緒や先輩に駆り出されて、指先のスパイスの香りが消える程ぎんなんの実を拾ったものだった。  
    今日は葉山は朝一で講義の後、この近辺の遠月グループ傘下の料理店の視察があり、午後は汐見の用が終わるまで会員制のワーキングスペースで仕事を片付けると言っていた。
    汐見が研究一辺倒で、それ以外の業務には極力関わらないようにしているのとは対照的に、葉山は学園内外において実利的に政治的に動いている。
    汐見だったら気疲れで参ってしまうが、教授会の席でも堂島から漏れ聞く遠月リゾートの働きぶりをみても、社会人になってからの方が葉山は生き生きとしているようだった。
    「今の方が、自分のやりやすいやり方で潤の役に立てる」と、葉山教授に話しているのを聞いてしまったことがあった。
    子供時代に無条件に周囲から受ける、慈愛や寛容と葉山は無縁だった。汐見が葉山に与えようとしたものも、その多くは見当違いのお節介だったのだろう。
    「潤」
    早足で近づいてくる革靴の音に、汐見は立ち上がった。黒いチェスターコートを羽織った葉山が、風を切ってやってきた。
    「悪い、待ったか」
    「ううん、全然」
    実際、数分しか待っていない。窓辺のワーキングスペースから自分を眺めて待ち構えていたのだとしても、汐見は驚かない。
    地下駐車場までの短い距離を、葉山は汐見の一歩後ろを歩く。以前、歩幅が違うから並んで横を歩かないのかと聞いたが、汐見のポニーテールが揺れているのを見るのが好きなのだと言っていた。
    「夕飯何食べたい 私作るよ」
    「冷蔵庫の、賞味期限が近いものを使いきってくれ」
    「はーい」
    汐見は答えてから、冷蔵庫の中身に何があったか思い起こし、頭の中でリストアップしていく。
    「寮の先輩方とはちゃんと話が出来たのか」
    「うん。後はそれぞれの同期に連絡入れて賛同者を募ろうって話になって。久しぶりに会ったら、結構緊張しちゃったよ」
    「名刺は」
    「貰ってきたよ。後で渡すね」
    「助かるよ。時々堂島総料理長でも、連絡つかない人がいるんだよな」
    不意に、空洞を通り抜けるような音と共にビル風が吹きすさび、足元の落ち葉が一斉に舞い上がった。
    「大丈夫か」
    小さい体を覆うように、葉山は腕の中に汐見を隠した。
    「うん。強い風」
    黄色い葉の行く先、低い天蓋じみた鉛色の空を仰ぎ、葉山の腕から出る。進行方向は綺麗に掃き清められたかのように、枯れ葉に隠れていた路面の規則的なタイル地が見えた。
    緩やかな坂を下り、駐車場構内のエレベーターのボタンを押す。
    自分の前には誰もいない。パートナーは横には並ばない。ただ、誰かを支えるのに、必ずしも横で寄り添う必要は無いことにも思い至る。ギリシア神話の巨人よろしく、下から天を支える場合もあるだろう。
    エレベーターの狭い空間の中で葉山しかいないのをいいことに、汐見は組んだ両手を反らして「うーん」と伸びをした。
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