友人の特権「本当に助かったよ!お礼になにかお願い事でも聞こうか!」
『じゃあ、新装開店した喫茶に一緒に行きたいなぁ』
「いいとも!」
ふわふわした桃色の髪を揺らして、百葉は私の手を引く。先刻まで何も無かったかのような振る舞いに、改めて彼女の心の強さに感服した。
というのも、私は昨日のうちに溜め込んでいた書類を全て終わらせ(不備があったらしいが独歩がやってくれると云うので任せてきた)、朝から清々しい気分で街を散策していた。その時に裏路地に入っていく百葉を見かけて、不思議に思い後を追うと、武器の裏取引が行われていて、目撃してしまった百葉が危険な状態にあった。とりあえず反社の方々は捕まえて警察に引き渡したのだが、「あれが俗に言うお姫様抱っこか…とてもドキドキしたよ!伊織さん女の子のファン多いでしょ?」と少々危機感の足りていない百葉を一人にする訳にもいかず、ご飯のお誘いをした。
実際お腹空いてたし、会うの久し振りだし、寧ろ役得って感じだけどね。
『特にあの辺は治安悪いからね、あんまり裏路地行っちゃ駄目だよ?』
「判った!今度から気をつけるよ」
『約束だからね〜?』
「勿論!本当に危なくなったら異能で何とかするさ」
お昼時なのもあって喫茶はかなり賑わっている。運良く座れた私たちはメニューを開いて、どれがいいかと頭を悩ませている。
百葉の異能力___接吻。その名の通り接吻をするのが発動条件で、相手を従わせることができるんだとか。我が探偵社の男共も彼女の異能の餌食になりかけたが…生憎、彼女に既に惚れている場合は異能が効かないらしい。ただ唇を捧げただけということだ。
百葉の貞操観念は異能も相まって少々人とズレている。接吻より手繋ぎの方が貴重だから凄いんだそうだ。あれは酷いと治が泣きついてきたことがある。
『そういえば百葉の異能って、相手が同性でも発動するの?効力ってどれくらい続くのかな』
「おや伊織さん、私の異能に興味があるのかい?試してみる?」
『こら』
漸く注文をして、雑談をしている中、何となく気になったことを口に出してみたら思わぬ回答が帰ってきた。
先刻の裏路地での件もそうだけど、危機管理能力が欠落してるのではないかと疑ってしまいそうになる。「いざとなったら助けてくれる人がいるから大丈夫!」と前に云っていたような気がするけど、それにしたって自由だ。
『同じ異能力者として興味はあるけどね…でももっと自分のことを大切に!』
「こんなに大切にしてるのに…!?心外な!!」
『うーんそうじゃない』
残念、噛み合わなかった。まぁ、いいか。のびのびとしていた方が彼女らしいし。
注文したパンケーキセットが到着したので、お互いのを少し分け合って食べた。美味しい!評判になるだけある。また誰か誘って来よう。
『それに、異能なんて使わなくてもお願いくらい聞くよ!友達だからね』
「確かにその通りだ…!友だからな…!」
『うん。
……そんな友達にプレゼント!性格も、容姿も、髪も…全部引っ括めて、キミは素敵な女性だよ』
以前「私の髪色って変かな?」と治に云っているのを耳にしたことがある。桃色の髪とは珍しいもので、様々な視線を引き付けた。私は迚も可愛らしいと思っていたのだが、当の本人はそれを気にしていたみたいだ。
だからプレゼントは、ヘアオイルと大きなリボンがついたヘアアクセサリー。最近の女の子の流行りや似合いそうな色を、ナオミちゃんや依頼で社を訪れた女性に聞いて厳選した。
『誕生日おめでとう、百葉!』
「おや…これは驚いた!私誕生日云ったっけ?」
『うちの男共を見てればわかるよ。今日は治もうきうきで出社してたし、乱歩さんは落ち着かない感じだし、独歩は大人しかったし』
これから探偵社に行くんでしょ?と云えば、これまた驚いたように目を丸くする。待ち合わせの時間より早かったから、軽く散歩して裏路地に入ってしまったんだろうな。
その柔らかい髪も、真っ直ぐ相手を見つめる瞳も、おおらかで人を惹き寄せるその性格だって、私は大好きだし、百葉自身にも好きでいて欲しい。
『食べ終わったし、そろそろ社に向かおうか。あんまり百葉を独り占めしてると、あの人たちに怒られるからさ』
「そうだな!…でも、ゆっくり行こう。伊織さんともっと話したいからね」
私よりも一回りは小さい手。優しくて、暖かくて、守ってあげたくなるような…それでいて包み込んでくれる安心感のある手。それがまた私の手を掴んで、明るい方へと引いてくれる。百葉の隣は心地がいいなぁ。惚れる人たちの気持ちも分かる。
「友人を独り占めしたって、バチは当たらないだろう?」
『…!そうだね。お散歩デートでもしようか』