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    Miruru_sweet

    @Miruru_sweet

    主に固定夢主ちゃんのお話載せます🧵
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    Episode03

    与謝野さんと怪我の話「アンタ…また怪我かい?」
    『あはは〜』



    切った張ったの仕事を領分とする武装探偵社において、怪我は日常茶飯事だ。妾の異能があれば瀕死も無傷。だが、目の前でバツが悪そうに笑う伊織は、それにしたって怪我の頻度が多すぎる。



    「毎度叱るに叱れない程度の怪我ばかりつくって…そんなに妾の治療がお望みかい?」



    呆れたような視線を向ければ、ゆっくりと視線を逸らして苦笑した。全く、苦笑したいのは此方だ。
    伊織の異能力、朱殷に染まれ___その名から連想されるように血を操る能力だ。ただ異能を使うだけなら貧血や失血死には至らない。定期的に採血をし、輸血パックとしての保存と血液検査をしているが、伊織は常人よりヘモグロビン値が高い。本人の話を聞く限り、幼い頃から異能を使っていたようだし…その影響で身体機能も変化したんだろう。



    『私は怪我の治りが早いので、これくらいどうってことないですよ。手当てありがとうございます!』



    異能を使っている最中に大怪我をしたり、異能を過度に使用したりすると貧血症状を起こす。意識を無くせば、其の間は異能が使えない為出血が止まらず最悪失血死だ。気をつけろと釘を刺してはいるが、此の子はどうも話を訊かない。困ったもんだよ。



    『じゃ!私はこれで』
    「一寸待ちな」



    そそくさと医務室を出ようとする伊織を呼び止めると、少し怯えたようにし乍ら振り向いた。



    「今夜空いてるかい?」
    『何も予定はありませんが…』
    「なら丁度いい。一杯付き合っとくれよ」





    ✳✳✳





    「今日は妾の奢りだ。好きなだけ食べな」
    『じゃあ…枝豆一つ』
    「…アンタ、“好きなだけ”の意味判ってるかい?」



    はぁ、とため息をついて妾が代わりに御飯や御菜を注文する。伊織が顧客に勧められたと云う此の店は酒も料理も美味い。善い店を知れて満足だ。
    酒を飲み進め乍ら伊織の様子を伺う。魚や野菜中心だがよく食べる。脂分の多いものは好まない。付き合いだとしても酒を飲まず、適度に(常人からしたら相当な量だろうが)運動をする。異能の影響も考えた上で健康的な生活を送る彼女は、誰よりも自分のことを判っている。



    『…あの、何かあったんですか?』
    「何故そう思うんだい?」
    『与謝野さんに飲みに誘われるのは初めてだったので』
    「嗚呼、そういう事」


    早速一杯目を飲み干し、二杯目を注文した。飲む速さに驚いている伊織を横目に、枝豆を摘みながら話を続ける。



    「別に何の日でもないさ。ただアンタと話がしたくてね」



    そう云えば、少しだけ肩の力を抜いた。確かに伊織を飲みに誘った事は無かったねェ…また誘って、良い店を紹介してもらうってのも悪くない。



    「何がアンタを突き動かすのか、教えてくれないかい?後輩の指導をするには、先ずその理由を知らなきゃ始まらないからねェ」



    指導、という言葉に判りやすく視線が泳ぐ。どうやら自覚はあるみたいだ。逃げるように話を逸らそうする。



    『突き動かすと云っても、そんな大したものは』
    「妾の目には、アンタが焦っているように見える」



    泳いでいた彼女の瞳が動きを止め、ゆっくりと妾の方を向いた。どうして判ったの、とでも云うように。そして何度か瞬きをして、箸を置く。



    『私、そんなに頭が良くないから、自分の勘とか経験に頼ることしか出来ないんですよ。それなのに、いざって時に色々と考えてしまって。何時か手遅れになってしまうかもしれない…そう考えると恐ろしくて堪らない』
    「…成程ねェ」



    伊織は困ったような笑みを浮かべた。
    伊織の生まれ育った環境や過去については何も識らない。誰にでも心を開いているように見えるが、此の子は頑なに自分の事を語ろうとしない…案外太宰と似ているのかもしれないねェ。
    出された二杯目の酒を一口飲み、ゆっくりと口を開いた。



    「特にこの街は厄介事が多いから、不安になる気持ちも判らなくはない。……でも、一人の人間が守れる命は限られてる」



    目を伏せる彼女とは対照的に、私は少し気分が良かった。酒が回ったとも思ったが、其れは違う。事実、妾の口角は上がっているし、右手は彼女の頭を撫でていた。
    結局、“此の子を突き動かす何か”を識ることは出来なかったが、守りたい…否、“失いたくない”という気持ちが根本にあるのだろう。弱さを見せない彼女の隠れた一面を識れて、漸く妾は伊織を人間らしいと思えるようになった。悩んでいるのなら、此処は1つ助言でもしてやろうか。



    「如何しようもなくなったら妾を頼りな。妾が駄目なら乱歩さんを、社長を頼ればいい。
    アンタは妾らの後輩なんだ。先輩に対して変に気を遣うんじゃないよ」
    『…はい。有難うございます!』



    妾は酒を飲み乍ら、ぱっと咲いた明るい笑顔を眺めた。





    ✳✳✳





    「___って話をしたのは何時だったか…ねェ、伊織?」
    『た、確か先月…?』



    引き攣った笑顔を浮かべ、治療室の台上に寝転ぶ伊織を見下ろす。手足の拘束は終わった。後は何を使うか決めるだけ…嗚呼、迷っちまうねェ。



    「その通り、話をしてからたったの一ヶ月さ。……口で云っても訊かないアンタには、手荒にはなるが此の方法で教え込もう」
    『ちょっ、一寸待って与謝野さん!!私怪我してないです!!』
    「丁度鉈を新調した処なんだ。斬れ味を確かめさせて貰おうか」



    鉈を取り出して刀身に指を滑らせれば、ひゅっと喉が鳴る音が訊こえた。服が汚れないように釦を1つずつ外す。伊織は珍しく慌てていた。拘束はしっかりしてあるから、ギチギチと音が鳴るだけで逃げられやしない。一寸は自分の行いを反省してもらわなきゃねェ。



    『本当に死んじゃいますって!!冗談抜きで失血死して』
    「妾が治してやるから安心して逝くといい。貧血も、輸血パックを使うから心配要らない」



    口角を上げてそう云えば、伊織は観念したように遠くを見つめて力無く笑った。



    「さァ、始めようか」



    その日、何時もより少し静かな探偵社には五回もの断末魔が響き渡った。
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