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    らいむ

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    仗露道場2024/10/22「笑顔」(2022/11/30お題) ついに夏休みが終わっちまった。たりーなァ、なんて気分でレジ前の行列をうんざり見ていると、意外な人がそこにいた。
    「よッ、露伴センセー!」
     後ろについて並びながらポンと肩をたたくと、振り返ったその人は目ン玉をまんまるにした。
    「億泰……なんでこんなとこにいるんだよ? 君んち定禅寺だろ」
    「こっちの店のが、モノがよくて安いのよ。オリャ常連よ?」
     オレはぴらっと自慢のポイントカードを見せた。二千円分の金券までもうすぐだ。
    「センセーこそ、スーパーなんて来るんだなァ」
     カゴの中身は卵に牛乳、今日の特売のピーマン、鶏モモ肉とかそんなんだ。今夜のおかずは刺身かな。台所用クレンザーなんてのもある。意外に普通なんだなァ、とか思っていると、センセーがイヤそうな顔をした。
    「ジロジロ見んな」
    「おっと、すまねェ」
     兄貴がいつも言ってたんだ。おめーはバカでロクにものを考えらんねェんだから、せめて周りをよく見てろ、って。ただ、こうも言っていた。見てることを周りに悟られないようにしろ。そっこーバレたってことは、オレってやっぱ頭悪ィんだな。ごめんなァ、兄貴。
    「まったく、どいつもこいつも」
     ハアッと先生はため息をついた。どうもいつもの元気っつーか迫力がない。
    「センセー、なんか疲れてねェ?」
     マンガ大変なの? と尋ねたら、ドスのきいた声で「殺すぞ」だって。
    「ぼくを誰だと思ってる」
    「悪かったよ……」
     おっかねーなァ、ほんと。
    「夏バテしてんならよォ、レバニラ食うといーぜェ、レバニラ! ウナギが効くとかってのは、ありゃ高ェモン売りつけようっつースーパーの作戦だかんな。断然レバニラよ」
     夏バテじゃあない、とそっけなく言ってから、センセーはフンと鼻を鳴らした。
    「ま、ある意味夏のせいか。心配してもらわなくってもじきに回復するさ。夏休みが終わったからな」
    「?」
    「話してやろうか。君のダチのクソッタレストーカーが、貴重な夏休みをいかに浪費してたかをさ」
    「あー」
     仗助のヤツがいきなり露伴センセーを好きとか言い出して、だから「当分忙しくなる」と宣言したのは夏前のことだ。予告どおりガンバったってわけか。いや、でも待てよ。
    「あいつ、マゴでバイトまでしてやがった」
     えっ、アレもセンセーのためだったのかよ? どんだけ気合い入れてんだよッ!
    「ま、女に囲まれて、ぼくにかまうどころじゃあなかったけどな。あんなヤツがウェイターなんかやってたら、あーなるに決まってんのになァ。ガキの浅知恵ってヤツだよなァ! ざまあみろさカッハッハッハーッ!」
     ヒトの好みはそれぞれだけどよォ。仗助おめー、この人のどこがいいワケェ?
    「ひきつった作り笑いしてやがって、唯一の取り柄も半減さ。いや実際、貴重なリアリティを得たねッ。あいつのツラにもまずく見える時があるなんてな!」
    「なーんだ」
     気づいてたんじゃあねェか、センセーも。
     センセーがすげェ顔でこっちを振り返って、オレは初めて心ン中で言ったつもりだったのが声に出てたことに気がついた。
    「あ、いや、なんでも」
    「きさま、このぼくに隠しごとができると思ってんのか……?」
     いやいや、こんなとこでスタンドはマジーよ、スタンドは! ったく、ムチャクチャだなァこの人は。
    「だってよォ。おんなじなんだもんよ、顔が」
     オレはバカでロクにものを考えらんねェから、せめて周りをよく見てる。
     露伴センセーを見る仗助は、由花子が康一を見つめる時とおんなじ顔をしてるんだ。すげェ熱烈で、でもふんわり優しくて、幸せでたまらねーって顔。ガッコーでまとわりついてくる女どもに向けるのとは全然違う、笑顔。
    「あいつ、マジにセンセーのこと好きなんだなァって」
    「……」
    「最初に聞いた時はよォ、そりゃあたまげたモンだけどよォ。あんなツラ見せられたら信じるしかねェよ」
     黙り込んでたセンセーは、ふーっと腹から吐き出すように息をついた。
    「億泰……おまえ、ほんとうに馬鹿だな」
     にゃにい?
    「ぼくを誰だと思ってる」
     露伴センセーは笑ってた。いつもみてェに、唇をひん曲げて。けど、なぜだかオレはその顔を「かなしい」と感じた。ワンワン泣くようなのじゃあねェけど、胸の奥がスンッとからっぽになるような。
    「何でもよく見て描く、それが漫画家ってヤツなんだぜ。おまえにわかるぐらいのことが、このぼくにわからないわけないだろ」
    「……」
    「ぼくなんかに本気になって、だから青春を浪費してるって言ってるんだ。ナア億泰、おまえも友達なら、あのスカタンに忠告してやれよ。ちゃんと報われる恋愛をしたほうがいいぜってさ」
     それきり、露伴センセーはレジのおばちゃんに呼ばれていった。黙々と会計し、黙々と袋詰めして挨拶どころかこっちを見もせず帰っていく後ろ姿に、オレは心ン中で返事しておいた。
     おうセンセー、そのとおり、オレは仗助のダチだからよォ。
     あいつの本気を全力で応援させてもらうぜ。無駄な本気なんてモンは、この世にありゃしねェんだから。
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