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    らいむ

    @lemonandlimejr

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    仗露道場2024/11/10「ネクタイ」(2023/1/30お題)「うーん……」
     鏡の前で仗助がうなっている。この日のためにふたりしてあつらえたスーツはぼくの見立てだけあって最高に決まっているし、髪型だっていつにも増してバッチリだ。ただしドレスシャツの襟元はスカスカで、ネクタイを左手からぶら下げていた。
    「何やってんだよ。さすがにそろそろ出なきゃだぜ」
     トラサルディーの駐車場は広くないし、こっちはもてなす側である。自分の車は使わない予定で、タクシーを手配してあった。
     今日、ぼくたちは結婚する。
     ひいきの店でパーティを開き、お互いの親とか、ぼくの親友の康一くんとか、仗助の悪友の億泰とか、その他有象無象とか、泉くんとか週刊の担当とかを招いて歓待する。もっとも去年の暮れからすでに同居しているし、市役所に行くわけではないから、生活自体は変わらない。それでもとうとうこの朝が来たかと、さすがのぼくにも多少の感慨はあった。準備がそれなりに大変だったのもあるが。
    「ろは〜ん」
     情けない声を出した仗助は、振り返ってもっと情けなく目じりを下げた。
    「ちょ、超カッピョイイ! さすが露伴ッ」
    「ぼくのことはいいんだよ」
     ま、多少美肌を意識したり、美容院でトリートメントを追加したりはしたけどな。普段もそれなりにはしているが、手入れが充分なのに越したことはない。人間は傷みやすいからな。
     ……と名作漫画にも描かれた常識を超越し、テキトーな生活態度のくせにムカつくぐらいピカピカなツラを持ちながら、ネクタイひとつまともに結べないのかよ。
    「それはかんけーねーだろォ。することほとんどねェんだもんよ」
     ぼくの親に会わせた時も、事前にそうと伝えてなかったのもあるが、イタリア製のスーツに開襟シャツを合わせ、派手なスカーフなんぞ巻いていた。どう見てもヤのつく自由業だったな、あれは。いや、映画でその役を演じる俳優か。
    「しょーがねえなァ」
     片手を突き出すと、仗助はヘラヘラしながらネクタイを渡してきた。上質なシルクの手触りが心地いい。両手でひとつしごきながら顎をしゃくると、仗助は従順に膝をかがめた。
     高校を出てなおスクスク成長しやがって、最終的に身長差は十六センチになった。ぼくだって日本人男性の平均はゆうに越えてるし、小柄かのように扱われるいわれはないんだが。まったく癪に触るヤツだ。
     シルバーグレイのタイを首まわりに一周させ、手早くノットをこしらえる。ほんの数十秒で、惚れ惚れするほど完璧に仕上がった。ぼくは一歩下がり、まじまじとその全貌を眺めやる。
     この、頭のてっぺんから足のつま先まで冗談みたいに美しい男が今日、名実ともにぼくのものになる。
     そう言ったら、こいつは「仗助くんはとっくに露伴のものっスよ」とか何とか、脳が沸いたようなことをほざくんだろう。それはそうなんだが、こんな春の日の文字どおり晴れの舞台で、こんな男と「永遠の愛」とやらを誓い合うなんてことは。
    「⁉︎」
     きれいに結ばれたばかりのネクタイを台なしにしてグイと引っ張り、不意打ちのキスをお見舞いしてやった。
     ハハハ、その顔、傑作だな仗助ェ‼︎
    「最高に『ハイ!』ってやつじゃあないか、ナア?」
     仗助はデカい掌で小娘みたいに口元を覆い、耳まで真っ赤にして「くそ……今晩覚えてろよ」なんて洩らしている。望むところだぜと心の中で返しながら、ぼくはよれてしまった仗助のネクタイをしゅるっとほどいた。
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    akira_luce

    DONE七夕の時にあげた丹穹。

    星核の力を使い果たし機能を停止(眠りについた)した穹。そんな穹を救うために丹恒は数多の星に足を運び彼を救う方法を探した。
    しかしどれだけ経っても救う手立ては見つからない。時間の流れは残酷で、丹恒の記憶の中から少しづつ穹の声がこぼれ落ちていく。
    遂に穹の声が思い出せなくなった頃、ある星で条件が整った特別な日に願い事をすると願いが叶うという伝承を聞いた丹恒は、その星の人々から笹を譲り受け目覚めぬ穹の傍に飾ることにした。その日が来るまで短冊に願いを込めていく丹恒。
    そしてその日は来た。流星群とその星では百年ぶりの晴天の七夕。星々の逢瀬が叶う日。

    ───声が聞きたい。名前を呼んで欲しい。目覚めて欲しい。……叶うなら、また一緒に旅をしたい。

    ささやかな祈りのような願いを胸に秘めた丹恒の瞳から涙がこぼれ、穹の頬の落ちる。
    その時、穹の瞼が震えゆっくりと開かれていくのを丹恒は見た。
    一番星のように煌めく金色が丹恒を見つめると、丹恒の瞳から涙が溢れる。
    それは悲しみからではなく大切な人に再び逢えたことへの喜びの涙だった。
    「丹恒」と名前を呼ぶ声が心に染み込んでいく。温かく、懐かしく、愛おしい声…。


    ずっと聞こえなかった記憶の中の声も、今は鮮明に聴こえる。
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