黄金の美酒は甘い罠 ゆさ、と揺れたかと思うと黄緑の未成熟の林檎がひと回りもふた回りも大きくなり、闇夜に満月のような黄金に輝く。それが収穫の証。子どもおばけたちにとって大事な収穫が始まる。飛行能力のある子どもはジャンプしては上の方の林檎をもぎ、そうでない子どもははしごを使ってもいでいた。
「にいちゃん、ちいさいりんご摘んできたよ」
「ぼくもです」
三つ子の次男と三男が胡桃の殻くらいの大きさの黄緑の林檎をかごいっぱいにしていた。収穫前から目をつけていた木の上から大きいものをもいでいた長男は弟たちの声に地上へと降りる。欲張りすぎて背負いかごには黄金の果実がいっぱいで、着地目前でバランスを崩す。すかさず次男と三男が支え、ことなきを得た。
「二郎、三郎、サンキュな!」
背負いかごを下ろした長男はニカッと笑った。表情に乏しい子どもおばけにしては珍しくコロコロと表情が変わり、いかにもやんちゃな雰囲気がある。
「いちにいもいっぱいですね!」
末っ子の三郎がかごの中を覗き込むと甘酸っぱい匂いが充満していた。数があればあるほど匂いは強くなる。少し頭を傾げるだけで匂いが伝わるということは数が多い証だ。
昔の十月三十一日は子どもおばけたちがおとなたちに合言葉を言うと甘いお菓子を貰えていた。宴でもあるため次第におとなたちは飲んだくれ、なかなか相手をしてくれなくなっていった。そのときに誰かが八月の収穫祭あたりの時期に熟す黄金の林檎で作った林檎酒をおとなたちに飲ませ、泥酔したところでその場にあったアルコール以外の飲食物を強奪しようと提案した。
それは成功した。一杯の林檎酒でおとなたちは泥酔し、ほとんど意識を失った。子どもおばけたちはありとあらゆる甘いものを奪っていった。エネルギー源でもあるお菓子をくれないのが悪い。そういう感情から始まったこの行為も今では効率のいい集め方として認識されている。おとなたちも美味い林檎酒のために甘いものを用意するようになっていった。
「あぁ! これでいいのがつくれるぜ」
一郎は黄金の林檎を月のない夜空に掲げる。この三つ子もおとなを酔わせる林檎酒を作り、甘くて美味しいお菓子を手に入れることを夢見ていた。