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    dh12345600m

    @dh12345600m
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    dh12345600m

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    【前提】アルファのように振る舞い王太子をこなすオメガの独歩。弟が育ったら早々に隠居する計画だ。しかし、独歩をアルファと信じ込んだ家臣から上がるオメガとの縁談が年々断り辛くなってきた。オメガ同士の結婚を防ぐため、第二性別判明前に女性恐怖症を発症し田舎で療養するアルファの一二三を仮初の妃として娶った独歩。二人は側室が入り込む余地のないラブラブな夫婦を演じる……というネタツイの番外編。モブ側近視点。

    俺の主人について。 俺の名前はミツヤ。独歩様の側近だ。
     元々城に勤める文官だった俺は、国の様々な問題が吸い上げられて形成される膨大な仕事量にうんざりしていた。選ばれたエリートが束になって挑んでも、膨れるばかりで終わる兆しがない。家に帰る時間も、給料を使う時間もなく、ゾンビのように仕事をこなしていた。お金が貯まったら早々にリタイアしてのんびりとした生活をする事だけを目標にした。
     そんな時、「お前の鬼気迫る仕事ぶりは素晴らしい。しかし、のんびりとした生活を送りたいらしいな。今後数年間は忙しいが、ゆくゆくはスローライフを送らせてやる。どうだ。俺の下に付かないか?」と、独歩様にスカウトされた。
     まさに渡りに船、という状況だった。喜んで首を縦に振ったのが数年前。その時は、まさかオメガなのにアルファを装い、国民全てを謀る片棒を担がされるとは思いもしなかったが。
     今はもう、仕事が多忙だろうが何だろうが、この人に付いていこうと決めている。
    「ミツヤ」
    「はい?」
     ずっと紙の上を動いていた独歩様のペンが止まった。俺は主人へ向き直って続く言葉を待つ。
    「今日はもう上がっていいぞ」
     独歩様は優しい。前職────左大臣のクソハゲは自分は楽をして部下を使い潰すという仕事の仕方をしていたから、その言葉にいたく感動した。けれど、自分に厳しいこの人は、きっと俺が帰った後も仕事を続けるのだろう。
    「独歩様はどうなさるのですか?」
    「俺はこの書類が終わったらにするよ。先に帰っていてくれ」
     ────やはり。独歩様は一人で残業するつもりらしい。今までは結局俺も付き合ってずるずる仕事をしていたのだが、少し前に状況が変わった。民のことには細やかに気を配る癖に、自分のことに対しては無頓着なこの人を職場から返す手立てが出来たからだ。
    「それは推奨致しません。独歩様は一二三様とラブラブ夫婦を演じているのでしょう? 新婚なのに部屋に帰らず仕事をしていては、夫婦仲が悪いと疑われてしまいます。さすれば我が子を側室に……と望む輩が増えましょう」
    「……む。そうか。……ラブラブ。それは困るな」
     明らかに独歩様の語彙力が落ちている。違和感を感じるものの、具合が悪いのか、はたまた発情期が近いのか。ベータである俺には判断がつかない。やはり、あの人に引き取ってもらおう。
    「でしょう? 行きますよ」
     強引に引っ張り上げた体は少し熱いように感じた。ゆったりとした作りの服で誤魔化しているけれど、非力な俺でも容易に持ち上げられてしまう程に独歩様は細い。こんなにも薄い体に国を背負って、いつか倒れてしまうのではないかとハラハラする。だから、独歩様が仮初とは言え家庭を持って下さり本当に良かった。
     
     
     ◆◆◆
     
     
     所変わって、ここは本来俺のような人間は入る事の許されない王宮の奥の奥。王族のプライベート空間だ。独歩様の寝起きが余りにも悪いことから、俺は特別に出入りを許可されている。本来ならば朝でもないのに来るべきではないだろう。しかし、独歩様の様子がいつもと違う為、心配でここまでついてきてしまった。
     一歩半先を進む独歩様の足取りが徐々に重くなっていく。小さくなっていく歩幅を怪訝に思い、回り込んで顔を覗き込むと、独歩様は熱を出した時のように赤い顔をしていた。
    「独歩様……?」
    「お、俺は出来の悪い王太子だ……。満足に仕事もできないなんて……」
    「いやいやいや。周囲が優秀なアルファだと勘違いする程に仕事をこなしているではありませんか」
    「うぅ……」
     熱を出した子供がだだを捏ねているようだと思案していたら、ついに独歩様の足は自室の少し前で止まってしまった。頭が揺れ始め、徐々に重心が安定を欠いていく。
    「独歩様!」
     手を伸ばすと、独歩様の軽い体が腕の中に倒れ込んできた。成人男子としては軽い部類に入る彼を、落とさないよう必死で抱きとめる。
    「あ……」
     ────甘い、匂い。
    脳髄が痺れていくような、甘美な匂いだ。そういえば、独歩様は結婚をしてからヒート抑制剤を飲まなくなったと言っていたか。彼に触れている箇所から熱が流れ込んでくる。それはじわじわと身体中へ広がり、色欲となって俺を蝕む。柔らかな赤い髪を、透けるような白い肢体を、オメガに多いという美しく整った顔を、華奢な首筋を、全て俺のものにしてしまいたい。喉が乾く。とても、とても。嗚呼、早く───。
    「ミツヤ」
     地の底から這うような声がした。俺の熱が急速に冷めていく。背中越なのにも関わらず、グレアを放たれているのだと分かった。本能が、この雄に逆らえないと恐怖している。
    「……は、い。一二三様」
    「状況の説明をしてくれるかな?」
     柔らかい口調なのに絶対零度の冷たい声色だ。怖すぎる。
    「独歩様の体調が優れないため仕事を中断してきました。必要ならば医師を呼ぼうと考え、ここまで付いてきた次第です。すると、独歩様が倒れそうになり……支えようとしました」
     俺は今、蛇に睨まれた蛙だ。歯の根が合わない。カチカチとなってしまいそうなのを必死に堪え、舌がもつれそうになりながら言葉を紡いだ。
    「へぇ」
     動けなくなっている俺の腕から、一二三様は独歩様を奪い取る。社交界で「可憐で儚いオメガの中のオメガ」「気高い大輪のバラ」と謳われている一二三様は、その仕草さえ優雅だ。
    「賢明な判断だ」
    「恐れ入ります」
    「君が独歩君のフェロモンにあてられて道を誤りそうになった事は不問としよう。……知らぬ間に更迭したら独歩君が悲しむから特別に、仕方なく、だけれども」
    「ヒィ……!」
     俺の思考は筒抜けだったらしい。そして、全く許されていなかった。首の皮一枚で繋がったような物だ。
     それにしても、グレアを収めたのにこの迫力と威厳。何がオメガの中のオメガだ。どこからどう見たって立派なアルファじゃないか。
    「医者は不要だ。妃にヒートの兆候が見られるため、王太子は一週間の休暇を得ると伝えてくれ。我々は夫婦の寝室に籠る。そこに人を近づけるな。至急の書簡や軽食は王太子の部屋へ持ってくるように。それ以外は────妃の熱が落ち着いたタイミングで追って指示する。落ち合う場所は王太子の部屋だ。……いいな?」
     歌っているのかと間違えるくらい淀みなく指示が出された。こんな人材がど田舎で忘れ去られた存在となっていた事実に驚愕する。
    「承りました」
     深々と礼を取っていると、片方が半ば引きづられるようにして、二人分の靴が遠ざかっていった。
    「ねぇ、独歩君。いい加減うなじを噛ませてくれないかい? 君のフェロモンに他の男が誘引されていると思うと、嫉妬でどうにかなりそうだよ」
    「ダメだ。この計画が終わったら、一二三が元の生活に帰れるよう取り計らう、から」
    「君のそういう真面目な所も素敵だけれどね。────そうだ、独歩君は隠居したら僕の屋敷で過ごせばいいんじゃないかな?」
     クスリと一二三様が笑った。その瞬間ドアが閉まり、二人の声は俺の耳へ届かなくなる。
    「大変な目に遭った……」
     腰が抜けた俺は、その場で座り込んでしまった。今回のヒートが終わっても二人が番っていないようならば、全力で独歩様へ一二三様と番うよう説得しよう。割と真剣に、俺の運命がかかっている。




    ●おまけ

     背筋をピンと正し、我が主人である独歩様の部屋をノックする。
     彼に支え始めた当初から、寝起きの悪い彼を起こすのは俺の役割だった。ノックをしても寝ている人物が声をかけている筈はないから、返事を待たずして突入する。そうやっておざなりになりつつあった作法が、独歩様の結婚を期に復活した。
     世話好きの一二三様が独歩様の支度を整えた状況で送り出してくれるようになったし、俺の第二性別がベータとは言えど、抑制剤を飲まなくなったオメガの部屋にずかずか入る勇気がなくなってしまったからだ。────数日前、俺が独歩様のフェロモンに誘引されてからは殊更、健全な侍従関係を壊してはいけないと気を引き締めた。……まあ、これは独歩様が一二三様と番になれば解消されるのだが。二人の関係がどうなっているのか、外側に位置する俺には把握のしようがない。
     今日の呼び出しは、「妃のヒートが落ち着いてきた為、独歩様が至急の書類を確認する。部屋まで持参するように」との要件だったが、おそらく指示をするのも、俺が相対するのも一二三様だろう。
    「どーぞ」
    「失礼します」
     軽い口調で返事があったため、少しの緊張を持って俺は部屋の中へと突入する。仕切りを超えた先に例の甘ったるい匂いは存在しておらず、俺は静かに安堵の息を吐いた。部屋の中は清潔な石鹸の香りに包まれている。
    「ゴクローサン」
     やはり、中で控えていたのは一二三様だった。バスローブを羽織り、濡れた髪を掻き上げる仕草は同じ男でも目が離せなくなるほどセクシーだ。神が手間隙をかけて作り上げた芸術品のようだと思った。存在が眩しすぎて眩みそうだった為、目を伏せて直視するのを防ぐ。
    「いえ。夫婦にとって大切な時期に、我々の事も慮って下さりとても感謝しています」
     配下である俺たちには決定権がない。つまり、まず最初に責任者である独歩様に対して「こういう事業をやりたいです。許可を下さい」とお伺いを立てなければいけないのだ。独歩様今回のヒートで滞り、至急判断を下して頂きたい案件を2、3持ってきた。
     一二三様の配慮は有難いが、この場に独歩様は居ない。さて、この御方はどうするのだろう。
    「え……」
     俺は思わず小さく声を出してしまった。一二三様は持ってきた書類を読み込むと、サラサラと承諾欄にサインをした。その名前は独歩様の物であり、独歩様書かれる筆跡と寸分違わず同じだった。
    「んー? ……ああ、ヒート抑制剤飲むの止めろって言ったからさぁ、独歩ちんが動けねぇ時の対策で同じサインが書けるよう練習したんだよねぇ〜」
     ヒート抑制剤は副作用がとても強い。独歩様はそんな薬を一二三様と結婚するまで飲み続け、ヒート中すら平然と仕事をしてきたのだ。ベータの俺には計り知れない苦労があったと思う。この人ならば、持ち前の有能さと愛情でもって独歩様の抱える重荷を一つ一つ解いてくれる気がした。
    「主人に代わり御礼申し上げます。独歩様のこと、末永く宜しくお願い致します」
    「当ッ然」
     サインを貰った書類を確認していると、隣の部屋からゴソゴソと物音がした。次いで、幼子が親を見失ってしまった時のような切ない響きで「ひふみぃ」という鳴き声がする。
    「起きちまったか〜……はいは〜い! 俺っちはここにいるよーん! ……じゃ、ミツヤ君おつおつ〜!」
     一二三様が元気よく声を出しながら隣の部屋に向かうのを、深く礼をして見送った。
    「……ひふみぃ、どこ行ってたんだ 寂しかったんだぞ」
     扉が閉まる直前、常日頃の凛した態度からは想像できない独歩様の甘えた声が聞こえてきた。え? これで番ってないの? マジで? しかもヒートが始まる直前「一二三を元の生活に戻すから噛むのはダメだ」的な事言ってなかった?
     今回のヒートが終わった後も噛み跡がないようであれば、俺からも一二三様と番うように進言しようと強く強く心に誓った。
     
     
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