「はは、帝王……ね」
“未だ足取り掴めず”の小さな文字に煙が重なって燻む。ズボンに入れっぱなしだった硬貨で買った新聞紙をくしゃりと束ね、仙道は短くなった煙草の隙間から息を吐いた。
隣国の紛争地域への武器の密輸、裁判所前の暴動、伯爵家の子息の誘拐、議員の暗殺まで。最近起こったあらゆるセンセーショナルな事件の裏で、人・金・物の動きの全てを操り、実現に至るよう暗躍した影の立役者がいる。
実名は定かではない、ただ”帝王”とのみ渾名されたその男が、ついに投獄された。そのニュースは一躍世間を沸かせたが、その男の脱獄とあらば、こんな片田舎の新聞にもまだ小さく記事が出ている程である。もう2週間も前の話だというのに。
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