告白するまきさんの話 覚悟を決めて、「好きだ、付き合ってほしい」と隣に座る男に牧が告げれば、当の本人───仙道彰はきょとんとした顔で固まってしまった。
嬉しいでも、困るでも、嫌がるでもない、ただただ純粋な驚きの表情。OKなのか、断られるのか、全くもって考えが読めないその顔に、牧はしばし考えを巡らながら返答を待つ。
嫌われてはいないはずだ。誰にでも愛想よく見えて、他人とは一定の距離を取るタイプの男である。だが、牧に対してその線は引かれていない。
試合会場で連絡先を交換してから、部活帰りに待ち合わせしてファストフード店で夜食を食べたり、一人暮らしの仙道の部屋でNBAの録画を見たり、二人でバッシュを買いに行ったり、おそろいのキーホルダーを身に着けたり。
こうして桟橋で海釣りしている仙道の隣に座っても、何の気負いもなく受け入れられている。
無理なものははっきり無理だと拒否する男に、牧が断られたことは一度もない。断られたことはないが、仙道は翔北の流川の1on1に付き合ってやっている男でもある。牧とも仲がいいと言えど、まだ他校の先輩後輩以上の関係ではなかったかもしれない。
早まったか、と牧は釣り竿を握ったまま固まっている仙道を見つめながら考える。
まあ断られたとしても、諦める気は毛頭無いが。
YesかNoか、どんな返事が返って来ようが、牧の腹はとっくに決まっているのだ。
牧が決意を新たにしていると、驚きから立ち直ったらしい仙道が、恥ずかしそうに目元を染めながら口を開いた。
「オレ、もう付き合ってると思ってました……」
そっか、こういうのって言わないとダメなんすね、と照れくさそうに首元を掻く仙道が、牧以外の誰にも見せたことが無いであろうとびきり甘い笑みで告げて来る。
「オレも好きです、付き合ってください」
その言葉を聞いた瞬間、牧はたった今恋人になった男の肩を抱き寄せ、噛み付くように口づけていた。