牧仙「牧さんも高校生だったんすね」
己のベッドの上に押し倒して、シャツを捲り上げて、今まさに二人で初夜を迎えようとしている恋人───仙道から発せられた言葉に、牧は一瞬動きを止めた。
オレは3年前から高校生だが?
不本意ではあるが、翔北の桜木達が言うように、自分が年相応に見られないことは理解している。バスケット関係者に顔と名前が知られるまで、制服を着ているのにも関わらずコーチや監督に間違えられることもしょっちゅうであった。だがこの恋人は、牧の老け顔について一度も言及しなかったはずである。
───牧さんって、対戦相手に威圧感与えられていいですよね。
───お前、年下にも舐められてるもんな……。
───うーん、迫力がねーのかな?
以前仙道と交わした他愛ない会話が蘇る。あれは褒め言葉と受け取っていたが、やはり仙道も牧の見目について思うことがあったのか。お前はオレをなんだと思っていたのか。お前と一学年しか違わない、紛れもなく同じ高校生だぞ。
服を脱がせる手を止め考え込んでしまった牧を見上げて、仙道が楽しげに口を開く。
「ぜんっぜん手ェ出してくれねーから、牧さんってそういう欲が無いのかな、って思ってたんすよ。なんか達観してるとこあるし、いつも大人っぽいし」
お前、オレがどれだけ我慢してたと思ってやがる。神奈川選抜の合宿で上半身裸でこちらにもたれかかって来たり、「牧さんって何の制汗スプレー使ってんの?」と首筋に顔を埋めて来たり、仙道の方が身長高いくせに上目遣いで見つめてきたり。そんな恋人を相手に、キスまでで止めるためにこちらがどれだけ苦労したと思ってやがる。
そんな牧の思考をよそに、仙道は続ける。
「牧さんとそーいうのシたいのオレだけなのか、って思ってて。だから、牧さんがオレと同じ高校生で、……ヤりたいって思ってくれたみたいで、安心した」
牧の体の下で、心底嬉しそうに笑う仙道が、牧の首に腕を回す。そのまま頬に口付けられ、ギリギリに保たれていた理性が、ブチッと切れる音がどこか遠くに聞こえた。
───こいつ、絶対に泣かす。
「安心していられるのも、今のうちだぞ」
オレが、どれだけお前に飢えてたと思ってる。
「散々煽った責任、取ってくれるんだよな?」
噛み付くような口付けの合間に問えば、仙道は不敵に笑った。今まで見た中で一番、蠱惑的な笑みだった。
「もちろん」