「ただいま〜」
自分の声だけがぽつんと響く。現在時刻は18時、普段より少し早めに帰れたくらいだろうか。そう思って通知が貯まっているスマホの電源を入れる。仕事を終えたと言っても、マネージャーの仕事は家に帰ってからも続いている。スケジュールに無理のない程度の仕事を取り、承諾のメール、断りのメール、それぞれテンプレート化したものを各案件に返信する。時間はかからないが、その前に確認するスケジュール確認がまぁ大変なのだ。
同棲している上坂隠岐継。もといおきちゃんはドラマの撮影が終了したとのことで、その打ち上げに参加している。帰りに迎えに来ようかと言ったが、「ううん、タクシーで帰るよ。桜里忙しいでしょ」と断られてしまった。マネージャーという立場上、役者に目を向けるのは当然のことだが、少し疲れが目に見えてしまっているらしい。言葉に甘えて大人しく帰ることにした。
「…にしても、もっと甘えてもいいと思うんだけどな〜…」
受け入れる案件、見送る案件を一人だと余るこのソファで仕分けする少しの作業時間にも、ため息が溢れる。スキャンダルだって一切起こさない、いわゆる模範生のおきちゃんは、マネージャーを変更するなんてことは滅多にない。前のマネージャーは芸能界から足を洗うと言ったらしく、僕に変わった訳だが、それまでの数年間マネージャーは全く変わらなかったのだ。入れ替わりが激しいこの芸能世界で、関係性を維持できる人は滅多にいない。
「ん〜〜!ご飯作ろうかな」
明日の分の仕事もおおよそ済ませた所で背伸びをし、夕食の準備に取りかかる。どうせ手癖で2人分作ってしまうのだから、あまり食べれなかった時用におきちゃんの分も作っておこうと考える。食べなかったら明日の朝ごはんにでもなんでもすればいい。明日は一応オフなのだ。仕事もあるにはあるが、休みは休みである。