春の居候、四人分忍術学園、春の終業式。門が開くのを待たず、駆けるように校舎を出たのはエメリだった。
「瑞くん! 璦くん!」
小柄な体に揺れるオレンジ色のポニーテール、ぴよぴよ跳ねるアホ毛が、今日も春の陽射しを受けて元気よく弾んでいる。
「おまたせ〜!行こっか、通称エメルメ家!」
瑞は肩から下げた荷物の位置を直し、そっと微笑んだ。「準備、早かったね。」
その後ろで金髪の少年、璦がふわりと笑う。「……エメ兄がうるさくて眠れなかったんじゃない?」
「そんなことないよ。」
苦笑いの瑞とは対照的に、エメリは元気よく頷いた。「楽しみだったんだもん〜!じゃあ、行こ!」
三人並んで村の外れまで歩き、エメリがぽんと家の門を叩く。数秒後、引き戸が開いた。
「…?誰かいるの?」
「え? あ、うん、お母さんがいるよ!今日はお休みなんだ〜!」
奥から現れたのは、赤髪に黄色の目をした美しい女性だった。髪型を結い上げ、柔らかな笑みを浮かべている。
「まあ、あなたたちが……エメリとルメリのお友達なのね?」
ツァーヤと名乗った彼女は、子どもたちに優しく目を細めた。
「お母さん、今日お休みだからおやつもいっぱいあるよ!」
エメリが自慢げに笑う。そこにルメリが廊下の奥から現れた。
「……あんたら、荷物そこ置いていいぞ。部屋はあそこだ。」
「ルメリ〜!」と駆け寄るエメリ。
「……はぁ、見た目にそぐわずアイツは我が強いから諦めた方がいいぞ。あと、今回に関しては俺も兄ちゃんに同意してる。」
ルメリはエメリを親指で示しつつ、瑞と璦に向かって少しぶっきらぼうで、優しげな表情を見せた
「迷惑になるんだったらやっぱり忍術学園に…」と瑞が口を開きかけるが、
「やだ!!瑞くん達は僕達の家で長期休み過ごすんだよ!」
エメリの力強い宣言が、空気を弾いた。
「……お前、いや……エメリが一番うるさいけどな」
「えー!!そんなことないもん!」
ルメリとエメリの声に、ツァーヤがくすくすと笑った。
「一人も二人も変わらないわ。私としてもうちに泊まって欲しいんだけど、どうかしら?」
その一言で、瑞も璦もようやく顔を緩める。
「……じゃあ、お世話になります。」
「よろしくね。ちょっぴりうるさくても、怒らないであげてね。」
ツァーヤの「お父さんも喜ぶわね〜」という声を背に、少年たちの長い休みが始まった。
エメリはひときわ明るく笑いながら、ルメリの手を軽く引いた。
「ねぇ、何して遊ぼっか!ね、ルメリ!」
「……お前なぁ、まずは荷ほどきだろうが。」
それでも、口元は少しだけ緩んでいた。