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    サクライロ

    【2023.10.4】
    諸々検討の結果、ポイピクの投稿を停止することに致しました。後日アカウントを削除します。
    ご覧くださった方、リアクションをくださった皆様。本当にありがとうございました!
    今後はくるっぷ+pixivにて細々活動していきます。
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    サクライロ

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    「好きと言ったら死ぬ病」竜神に救いを求めたメリバ√、終わらなかった…!途中ですが一度投稿します。1月中には書き上げたい!今年最後がこんな鬱いのですみません

    全編通して別れの匂いしかしない。これここまでの歴史があるからこそ哀しいんだと思うんです(号泣)そう思うとやっぱり、このまま終わらせるわけにはいかないなって思うんですよね。

    ※死ネタ有
    ※BAアフタースピンオフ構想とは少し違う世界線

    ##小説
    ##好きと言ったら死ぬ病

    好きと言ったら死ぬ病...merrybad√【前編】 天女のようなそのひとは、ぼんやりと、白い椅子に腰掛けて遠くを見ていた。



     高い雲の、遥か上。常春の、抜けるような空がどこまでも青く続く。遮るものがない陽射しはなだらかで、けれど肌に刺さる寒さが、ここが地上ではないことを知らしめる。
     ここまで登ってくる間、雲海の下は雪だっただろうか。
     殺風景な、白い石造りの城壁。神殿を思わせる静謐で荘厳な空間。その奥まった一室の片隅に、彼女は空ばかり眺めて坐る。
     面識のない人間が彼女を見れば、本物の女神だと思ったかもしれない。
     女性の面差し、姿は数年前とほとんど変わらなかった。白磁の肌に埋め込まれた宝石のような翡翠色の瞳、長い睫毛は髪と同じ空の色をしている。純白の滑らかなローブドレスの膝に細い手を重ねて、左手の薬指には蒼石を埋め込んだ白銀の指輪が光っている。桜貝の唇は薄く開かれているが、およそ生気も呼気も感じられない。初めて見た時と同じ華奢な体つきで、伸ばしっぱなしなのだろう、髪だけがあの頃よりずっと長い。
     乾いた風が吹き抜けるたび、結わずに流した美しい碧髪が床の上を無造作に踊る。
     僕達の気配に気づかないのか、近づいても彼女は微動だにしなかった。声をかけようと喉を震わせかけた、けれど、何を口にしたいのか、自分でもわからなくて。
    「おかあ、さん……」
     僕の背に控えた妹がぽつりと呟く。彼女が自ら仲魔にしたドラゴンキッズのコドランが、心配そうにその足元へと擦り寄った。
     ここは、竜神が住まう城。
     数十年前には何処ぞに隠れていたものか、ちらほらと天空人が出入りしては彼女の世話をしているらしい。彼女は羽を持たないが、遥か昔、世界を救った勇者と祖を同じくする天空人の末裔でもあるという。真っ青な髪がその証。そして、自分達もその因子を色濃く継いでいる。
     ────僕達は、彼女の、実の子供なのだから。
     


     五年前のあの日、両親が忽然と姿を消した。
     両親だけではない。父に従属を誓っていた魔物達も、その日を境に祖国の城から消え失せた。誰にも、何も知らされなかった。不治の病を患い、死の淵をさまよっていた母がどうなったのかも、母を救うために世界中を奔走していた父が何故、再び行方不明になってしまったのかも。
     父に啓示を授けたマスタードラゴンにお目通りを願っても、僕も双子の妹のルナも、再びこの城に転移することは叶わなかった。
     両親の不在がいよいよ国中に広まった頃、グランバニア国内で大きな政変が起きた。これほどまでに玉座を空ける王に何の意味がある。無用な慣習は捨てよ、証の選定に今や意味などない。そう断じた諸侯らが結託し、僕ら王族を排斥するべく動いたのである。
     魔物の脅威がなくとも、国は呆気なく滅ぶのだと思い知らされた。
     伝説の勇者という肩書きも、かの竜神に通じなければ権威にもならない。思えば僕が本物の勇者であるなどと、この国の誰に証明できただろう。テルパドールの女王に認められたとはいえ、魔界に赴き魔王を討伐しただなんて、身内による口伝でしか語れない。
     勇者を騙った不遜な王子よと、いよいよ王家に不信を抱いた民から謗られるのも時間の問題だった。
     動乱の最中、オジロン様が何者かに害された。何故か殺害の嫌疑をかけられた僕と妹は、生後半年の弟を連れてラインハット王国に亡命した。程なく、旧グランバニア王国は革命軍によって国名を変え、偽の勇者を匿った敵国の糾弾を大義名分に、ラインハットに宣戦布告を突きつけることとなる。
     当時、僕は十二歳になる少し前。何が起きているのか、経験不足の僕に反勢力と対峙する力はなかった。城に残ったドリス姉様は、人質同然に新たな王と婚姻を結んだと風の噂で聞いた。今もご存命なのかどうか、新しい噂はそれから何一つ聞こえてこない。
     勇者だ王子だと持て囃されようが、持てる力を適切に使えぬ者に価値はない。
     それでなくとも蒼い髪は目立つ。髪を染めて素性を偽り、僕らと同じく逃げ延びた王家派の人々とレジスタンスを結成して、少しずつ情報を集めていった。父がいつか言っていたのと同じ、国や王位に未練があったわけではない。グランバニアは紛れもなく祖国だけれど、幼い頃の僕は、妹と共に母の故郷であるサラボナに身を隠して育った。
     ただ、真実を知りたかった。何があったのか、何故こうなってしまったのか、何も知らずにその後の年月を生きるなんてどうしても出来ないと思った。
     父母に呪詛をかけたのは革命軍の一派だろうと見当をつけてはいたが、どうしても証拠を掴めなかった。実は両親は、今もどこぞの牢獄に囚われているのでは。淡い期待を抱いたが、テルパドールの巫女姫は夫婦ともに亡くなった暗示がある、しかし正確なところはわからないと告げた。
     やはり、両親の生死につながる情報はこの数年間、何も得られないままだった。
     それでもまだ、期待してしまう。今から十数年前にも、二人ともに石化させられて長らく行方知れずだった。その二人を僕らの手で取り戻したのだという充足感を、今でもしっかりと覚えていたから。
     魔王ミルドラースを討つ前はあんなにも近しく感じた、神々に属する異界はこの五年間、僕らに何一つ救いをもたらさなかった。竜神も、妖精も、魔物達も、ドワーフも。
     そんな閉塞した状況に風穴を開けたのは、思いもよらない存在だった。
     両親が残した小さな宝。今年六歳になったばかりの弟のアルスがある日、妖精に出会ったのだ。
     成長した僕ら双子はいつの間にか、妖精を視ることができなくなっていたらしい。幼い弟と妖精の導きで妖精の国を訪れ、懐かしい女王にお目通りが叶った。義理は十二分に果たした、これ以上人間には干渉しかねると渋る女王に縋りつき、せめて両親に何があったか知りたいのだと懇願した。
     ついに根負けした女王が案内してくださったのは、この日を見越したかのように新しく飾られたばかりだという、夕闇に染まりゆく、懐かしき旧グランバニア城の油彩画の前。
     額縁の中、城の最上階であるテラスに、紫の外套を纏った男と、その腕に抱かれ瞼を閉じる碧髪の女が描かれている。
     この絵が視せる過去への干渉は如何なる者にも許されない。そう強く言い含められ、ルナと身を寄せ合って、絵画の中の時空を垣間見た。
     果たしてその絵の中で僕らが目にしたものは、五年前、両親の身に起こった出来事。
     そこには僕らの想像を遥かに凌駕する、壮絶な、父と竜神の密約があった。



    「一緒に、来てください」
     ぼんやりと遠い青を見つめる、抜け殻のような彼女の背中に、告げる。
    「貴女でなくちゃ、駄目なんです……」
     ようやく絞り出した声は、嗤いたいほど情けなかった。
     久方ぶりに母に会ったらどんな感情が湧くのだろう。そんな疑念がずっと燻っていた。泣いて、縋りついてしまうだろうか。昔のように会いたかったと、それとも今度は、どうしていなくなったのかと詰ってしまうだろうか。
     長い、長い沈黙の後。
     やはり答えてもらえないかと諦めかけた、その時。懐かしい、やわらかな声が、僕の鼓膜をそっと揺らした。

    「……にも、……わかり、ません…………」

     感情の篭らない、吐息だけで呟かれる鈴のようなその声が、痛いほど鋭く胸を抉っていく。
     母は、竜神に記憶を封じられた。
     父が最期に望んだのだ。呪われた病が完治するよう、自分がいなくなることを母が悲しまないように。絵画の中の、僕らには干渉出来ないあの場所で、父は自らの命と引き換えに、母を生き返らせることを選んでしまった。
     重篤な発作を起こして倒れた母を抱き上げ、父は何度も回復と蘇生を試みたようだった。初めは落ち着いて詠唱を繰り返していた父が、少しずつ取り乱していく様子を絵画の中で視た。
     本当は、本当は。恐らくこの時、母は亡くなっていなかった。朧げだけれど絵の中の彼女の左手、父と母の結婚指輪である水のリングが蒼く灯っていたように見えたから。
     きっと母はこの時、ヘンリー殿下を交えて幾度か相談していた、自らの凍化を試したのだと思う。いわゆる動物の冬眠の如く、極限まで体温を下げ仮死状態を保つことで生命を維持する方法だ。かつて両親の石化について、あらゆる文献を調べ尽くしたヘンリー卿が提案してくださった。
     いつまで保つかわからないし、成功する保証もない。それでもうまくいけば、石化していた時と同じように母の時間を止められる。解呪までの時間を、稼ぐことができる。
     水と命のリングの力を借りれば理論上不可能に非ずと結論づけて、けれどそれを試す前に、きちんと父と話したいと母が言った。呪いの所為で父が母を避け続けて、もうひと月が経過していたのだった。既に余命ぎりぎりだということは本人が誰より承知していて、だからこそあの日、力を振り絞って父の元へ急いだのだろう。
     母は説明しようとしたが、病の根源である父を前にしてはやはり、ろくに話せなかったようだ。急激に悪化した症状から自らの死期を悟った母は、最後の力を振り絞り、父の腕の中で凍化の術を発動させた。
     しかし、恐らく言葉足らずになってしまったことで、父にその本意を伝えきれなかった。息も絶え絶えに父に縋りついていた母を誰が責められようか。悔やまれるのは、当時のあの場に僕を含め、誰も駆けつけてやれなかったことだ。
     あんな状態の母が、しかも、高いところを異様に怖がる母が、一人で城の最上階に登るなど誰も思わなかったのだ。寝室で彼女を看ていた女官は全員その場で眠りに落ちていた。今更ながら、母が稀代の賢者でもあったことを思い知らされる。

     凍化を解けるのは、水のリングの対である炎のリングだけ。
     あの日、何も知らなかった父は昏倒した母を救おうとその場で力を尽くし、ついに、最後……
     禁忌とされる自己犠牲呪文、『メガザル』を発動させたのだ。



    「何もわからなくていい。僕らと一緒に、来てくれませんか」
     ひどく力ない返答だったけれど、ようやく得られた反応に無我夢中でしがみつく。ここで退いたら、二度と母さんを取り戻せない気がした。
     どれだけ伺いを立ててもなしの礫で、今日だって絶対に阻まれると思ったのに。不思議なことに今、この場に竜神の気配はない。
     自力で天空の塔を登りきったことへの労いのつもりだろうか。邪魔されないのは有難いが、それすら今では癇に触る。
     何のつもりだ。父さんどころか、僕らにまつわる記憶までまるごと封じて、誰にも会わせずこんなところに閉じ込めて。
    「これ以上、あなたをここに置いておきたくない。お願いです。あなたじゃなくちゃ、駄目なんだ」
     父さんなら、なんと言うだろう。
     どんな言葉で話しかけたら、母さんの心を動かせるだろう。
     記憶がない母さんを苦しめたくない。けれど、知っておいてほしいとも思う。僕達のことじゃなくても、かつて貴女が故郷と呼んだ国の惨状を。
    「グランバニアに変事有り」との報がラインハットにもたらされたのは、僕達きょうだいが先日、妖精の城から戻ってすぐのことだった。
     曰く、行方知れずであった英雄王が突然、数多の異形を率いて現れ、グランバニア城を瞬く間に制圧したと。
     生きていたんだって、僕もルナも、ラインハットの皆さんと共に手を取り合って喜んだ。妖精の城で見たものは断片に過ぎなくて、実は仲魔のみんなと身を隠して、力を蓄えていたんだって。私は坊ちゃんを信じておりました、これできっと全てが良い方へ向かいますね。咽び泣きながら代わる代わる僕達を抱きしめるサンチョを、幼いアルスだけが不思議そうに見上げていた。
     でも、だったらどうして、僕らに無事を伝えてくれなかったのだろう。こんな事態になるまで姿を表さないような人じゃない。それに、同じく行方不明の、母さんの話はどうして聞こえてこないのだろうか。
     真っ先に疑念を抱いたのはヘンリー殿下だった。その気になればあいつは仲魔の手を借りて、いくらでもこっちに繋ぎをつけられるんだから。険しい表情でそう忠告した殿下は、僕らが浮かれている間にも引き続き、旧グランバニアを念入りに偵察させていた。
     程なく上がってきた報告の内容に、僕達は激しく戦慄することとなる。
     あれではまるで『民殺し』ギルヴィ王の再来だ、と──……
     ギルヴィ王。父さんの三、四代前の国王で、王族を軒並み、自国の民をも半数以上死に至らしめた殺戮の王と呼ばれる人物である。そんな非道の王と同列に語られるなんて、一体父さんに、グランバニアに何が起こったというのか。
     とにかく現状を確かめるため、懐かしい故国へ赴いた。
     久々に降り立った故郷は見るも無惨な姿だった。堅牢な城壁は焼かれ尽くし、崩れた城塞の内側に人の気配はない。血の匂いは、あまりしなかったけど。石畳が割れて陥没した地面が所々毒化して、生臭いのとも違う、何とも言えない刺激臭を漂わせている。
     城下の人々は、逃げおおせたのだと思いたい。僕らが追われた頃、同じく国を出た民はそれなりにいたのだけれど、城に残って今までと変わらぬ生活を続ける民もまた少なくはなかった。
     まさか、残った人間は全て粛清された、だなんて。
     そんな残酷なこと、父さんがするはずないよ。
     恐る恐る、焦土と化した故郷の土を踏む。ほんの数歩、ぼろぼろの城壁の内側に歩を進めれば、気配を察知した魔物がどこからともなく襲いかかってきた。
     あの時の心境を、何と言い表せば良いだろう。
     金鱗の巨大なドラゴン。精巧な機械人形、燃える鬣を持つ地獄の殺し屋。愛くるしいスライム属達、緋色の石を埋め込んだ、薄く鋭い剣を振るう駿速のスライムナイト。
     次々現れる、そのすべてが良く知る顔だった。生まれた頃から馴染みの魔物もいる。名前だって覚えてる。覚えているのに。
     ルナが、僕がどんなに呼んでも、誰一人攻撃を止めなかった。魔王の元にいた魔物達にも似た恐ろしい、殺意。ぐしゃぐしゃに泣きながら仲魔達を止めようとするルナを抱え、ほとんど無理矢理ルーラを唱えさせて逃げ帰った。父さんの姿を遠くからたった一目、確かめることも叶わずに。

     父さんはあんなことしない。するはずがない。
     どんなに否定したくとも、あの日対峙した魔物達がそれを許さない。あれは、父さんの仲魔達だ。異種属の魔物である彼らがあそこまで統率されて戦うのは、父さんの為だけだ。
     父の力を色濃く継ぐルナでさえ、彼らを正気……以前の彼らに戻すことは叶わなかった。
     だから、僕達はもう一度天空への塔を登った。僕一人でも行くと言ったけど、母さんと同じく高いところが苦手なルナも、恐怖をこらえてついてきた。
     両親の最期に竜帝が関与しているなら、父さんが蘇生させた母さんは、天空界にいるかもしれない。
     あれがもし父さんであるなら、きっと母さんにしか止められない。何故かそう、思ってしまったから。



    「お願いだから、来て、ください。……ここを、出て」
     叫び出したい気持ちを懸命に抑えて繰り返した。動かない母にもう一歩、近寄る。
     そこに居るのに、居ないような。幻影を相手にしている錯覚。元々儚げな人ではあったけれど、ここまで霞のような女性だっただろうか。
     背後で息を殺し、立ちすくんでいたルナが、苦しげに呟いた。
    「おかあ、さん……っ」
     あ。
     どきりと、心臓が跳ねた。ルナが口にした、その呼びかけが母さんを振り向かせていく様が、妙にゆっくり、鮮明に映る。
     親子の視線が、五年ぶりに、交わった。


    「────あなた、方、……は……」


     知る由もなかった。
     十七歳になった僕が、髪を黒く染めた僕が、母さんに出会った頃の父さんによく似ていたこと。
     ルナの、魔物と通じ合う瞳が父さん譲りの漆黒で、その虹彩に沈む濃紺までよく似ていたこと。
     だって、そういう話をする時間を、以前の僕達はほとんど持つことが出来なかった。親子で共に過ごした時間が、あまりにも短すぎたから。
     思いきり見開かれた、昔と変わらぬ澄んだ眼差しから、透明な泪が溢れ出る。
    「どう、して」
     母の瞳からぼろぼろ、滝のように流れていく大粒の雫を、僕もルナも茫然と見つめていた。
     たった今まで空虚なばかりだった室内に、深く暗い哀しみが、潮のように満ちて、溢れていく。
     まるで器ぎりぎりだった水が、ルナの一言で決壊したように。
    「ごめ、な、さい。何も、わからない、のに」
     真っ白だった頬はいつしか紅潮し、彼女自身の涙で濡れそぼる。途切れ途切れに紡がれる儚い声は、いつか病床でやつれて尚、微笑みを絶やさなかった母を思い出させて。
    「胸が、……くる、しい……」
     吐息混じりに絞り出して、母さんは両手で胸を抑え、ついに顔を覆ってしまった。
     喉を焼く嗚咽を必死に押し殺して、けれど、細い肩はずっと小刻みに震えている。
     記憶は、封じられているんだろう?
     僕らを見ても何もわからない。病のために、何もかも忘れさせられたのに。何も覚えていないはずなのに、一体何がこの人を、今もこんなに苦しめているというのか。
     変わってないじゃないか。何も。
     一番大事な人を失って、その記憶を持つことも許されなくて。それでも母さんは、今でも、誰ともわからぬその人を、かつての彼女とまったく変わらず想い続けている。
     深く、尊いその感情を、何と呼ぶのかも知らぬまま。
     ……だから、病気になんかなっちゃったんだよ。純粋すぎる愛情で自らを押し潰してさ。
     そう思う反面、僕は静かに湧き上がる高揚感を抑えきれなかった。たまらなく嬉しくて、心がどきどきと脈を打つ。

     こんなにも想い合って、だから、僕達が生まれたんだ。
     自分達は両親の、唯一無二の愛の証明なのだと。
     そう思えることが、こんなにも誇らしい。



     ひとしきり泣いた後、母さんは腫れた瞼もそのままに、おもむろに口を開いた。
    「私はいずれ、聖竜様に捧げられる身です」
     ルナも、僕も、驚愕のあまり二の句が告げなかった。
     何、それ? そんな話聞いたことない。聖竜? 捧げるって、どうして、母さんを?
     僕らの動揺を気にも留めず、母さんは淡々と言葉を続ける。
    「太古の昔より永い眠りにつかれている大神です。……私は非常に稀な血を引く存在なのだそうです。それ自体は大変、栄誉なことです。それが私の役割なのだと教えていただいて、私自身のことはそれしか存じません。……けれど、あなた方はご存知なのですね」
     初めてまっすぐ向けられた翡翠の眼差しを、一片のためらいもなく受け止め、頷いた。
     知ってるよ。
     貴女は贄なんかじゃない。僕達の大切な、たった一人の母さんなんだよ。
     僕だけでなく、ルナも力強く首肯するのを見て、母さんは今一度目を深く伏せた。暫し、胸に手を当てて。次に顔を上げた時、彼女の瞳には先程はなかった生気が眩しく宿っていた。
    「私も……そう、したい。何故かわかりませんが、あなた方と共にいきたいと、思っています」
     行きたいとも、生きたいとも聴こえる響き。
     瞠目した僕達を置いて、彼女は音もなく立ち上がる。そのままするりと部屋を出ていく華奢な背中を、ルナと仲魔達を急かして慌てて追いかけた。翻る碧髪に導かれて行くと、母さんはいつか幾度となく拝謁した玉座の間へと、迷いなく歩を進めていった。
     僕らを拒絶したマスタードラゴンと対面するかと思うと、不穏な緊張がざわりと湧く。しかし意外にも、玉座の間にいたのは有翼の天空人が二人だけだった。その二人も彫像のように立ったまま、ちらりともこちらを見ない。
     どうにも居心地悪い中、母さんの鈴の声が、凍てついた空間に凛と響いた。

    「お許しください。マスタードラゴン様」

     母さんがまっすぐ見上げる玉座に、あの銀翼の、巨大な竜の姿は見当たらない。
     なのに、彼女の声が響き渡った瞬間。息もできない重力が広間を一瞬で支配した。ずしんと降りた重さに唇を噛んで耐え、頭を持ち上げる。ルナが従えた小さな魔物達もあわあわとふためいた。
     そんな重圧の中心にあっても、母さんは毅然として顔を上げていた。
    「今、この方々と行かなければ、私はひどく後悔する。そんな気が、するのです」
     ……ここまで美しい人だっただろうか。母さんは。
     竜神の覇気にも怯まない。目の前の母さんは、今や女神としか形容できない、不可侵の気配を漂わせていた。
     ついさっきまでの、消えそうだった彼女が嘘のように。
     びりびりと地鳴りの如く梁や柱を震わせて、重々しい声が辺りに響き渡る。
    『行けば、今度こそ命を落とすことになろう。そなたの命はある者から預かった。粗末にしてくれるな』
     いっそ慈しみ深くも聴こえる、我らが父なる神竜の声。
     けれど、重く響く言葉の一つひとつが胸の内側に落とし込まれた、その瞬間────
     この五年間、ずっと、ずっと積もらせてきたものが。
     あの絵の中で過去を視て、それでも何とかして、肚の奥に押し込め隠してきたものが。

     どうして。
     あなたにとって父さんは、僕の両親は、救われるべき存在ではなかったというのですか?

    「……父さんは見殺しにしたくせに」
     ぼそり、
     思わず漏らした呟きは、今までに凡そ発したことがない、怨嗟に満ちた音だった。
     母さんが、翠の瞳を落としそうなほど見開いて振り返る。
     長い碧髪を翻らせた白い顔に、強烈な驚愕を映して。
     思い出してくれたのか、不敬であると戒めたかっただけなのかはわからない。記憶にない彼女の伴侶の存在を、初めて仄めかされたのがこの時だったから、かもしれない。
    「あなたにもできたんじゃないか。石化なり凍化なり、母さんが博打を打たなくたって」
     返事はない。揺らがぬ気配がそこに坐す竜神の存在を示す。まっすぐ注がれる母の眼差しに微かに昂りを覚えたが、それをも凌駕する沸き立つ怒り、憤りが、僕の口を衝動的に動かした。
    「母さんの凍化を解いたのは、あなたなんだろう?」
     人間が。
     力を持たぬ人間が必死に考えて、考えて、決死の覚悟で決めたことでも、あなたにはほんの一言唱えれば済むことで。
     全てを救えと願うのは傲慢だろう。けれど。
     あなたの代わりに、直接手を下せないあなたの分まで、界を超え魔王の企みを挫くという大命を果たした。父の貢献をもう少し評価してくれと願うのは、そこまで過ぎた望みなのか。
     あの戦いの後、たった二年にも満たない平穏しか与えられなかった、父さんと母さんに。
    「粗末ってなんだ。母さんは自分の死に様を選ぶことも許されないのか。今や父さんが祖国の災厄と呼ばれていることを、あなたが知らないはずないだろう。なのに母さんは何も知らされず、聖竜とやらの供物になるのか。狂った魔物達は、人間界は、父さんすら捨ておけって? ……冗談じゃない‼︎」
     背に負った竜紋様の大剣を引き抜く。さすがの天空人も血色ばみ槍を構えたが、即座に睨み牽制した。
     たとえ、神であろうとも。
     母さんの記憶を消すことを願ったのが、他ならぬ父さんであったとしても。
     父さんは絶対に、母さんを贄に捧げるためにあなたに託したんじゃない。幸せに、せめて母さんだけは幸せに生きて欲しかったから。病の苦しみから解放して、子供達と穏やかに過ごす日常を、誰もが営む『普通の』幸せを今度こそ守ってやりたいって、心から願ってくれたから。
     そんな彼の想いに、僕は精一杯報いたい。
     神が報いぬと言うなら、尚のこと。

    「僕は勇者だ。僕は、僕が守りたいもののために戦う」

     暫し、正面から玉座に向かい睨み合ったまま膠着した。誰も彼もが息を殺して視線を交錯させる。神に刃を向けた不遜な勇者に対して、未だ姿を見せぬ竜神の怒りは感じられない。
    「……来て、ください。私達と……お願い」
     涙声で懇願した、瞬間、ルナが疾風の如く、僕の脇を駆け抜けた。
     まっすぐ母へと走っていく片割れを、その背中をわたわた追う仲魔達を追いかけて、僕も一拍遅れて床を蹴る。
     僕も。僕だって。
     ここまで来て諦めるもんか。
     僕達兄妹は、貴女にもう一度会いたくて、ここへ来たんだ。
    「お母、さん……っ!」

     ────最後まで手が届かなかった、マーサお祖母様の哀しい微笑みが、一瞬、意識の端を過っていった。

     ルナの手が伸びて、母さんを捕まえる。よろめきながら少女を受け止めた母の前に滑り込み、玉座と彼女達を遮って立った。
     険しい表情で庇い立つ黒髪の双子と碧髪の乙女を前にして、竜神はやはり姿を見せぬまま、意外にも鷹揚に笑う。
    『そう構えるな。本気で禁じたなら元よりこの場に入らせぬ』
     ──……お怒りではない、のか?
     幼子にするように宥められ、つい毒気を抜かれた。構えた切先をわずかに下げる。玉座の前に対峙した二人の天空人は緊張しながらも戸惑った様子だったが、緩んだ空気と再び響いた波紋のような声を前に黙って額づいた。
    『良い。その者ら、勇者とその血族に相違ない』
     神の答えを得た天空人らがするりと構えを解き、改めて僕らに向かって跪く。さすがにばつが悪くて、急いで剣を鞘に納めた。事態を飲み込めないルナと顔を見合わせると同時に、再び聞き覚えのある重い声が頭上から響き渡る。
    『あれは放っておけば朽ちる。さほどの脅威ではない』
    「父が、ですか。その前にグランバニアが廃墟と成り果てました。脅威ではないと仰るなら、何故我が国が滅びねばならないのか、お答えいただけますか」
    『滅びたか? 汝らを含め、英雄の血族は数名永らえているはず。もはや自らの足で立てぬほど、かの血族は脆弱であったか』
    「────そういうことを申し上げたいのではありません!」
     思わず声を荒げてしまい、隣のルナがびくりと身をすくませる。きっと無意識に母に縋りついたルナの背を、母さんが遠慮がちにそっと、撫でた。
     振り返り瞠目した僕に、彼女は真剣な面持ちで頷いてみせる。その真意はわからなかったけれど、不思議と強く促された気がして、再び、見えない竜神の方へと向き直った。
    「父さんがあんなことを望むとは思えない。蘇生できない、そう父に仰ったのはあなたではありませんか」
     そう、確かに聞いたのだ。あの絵画の中で、銀鱗の竜神は父の問いかけに対しはっきりと答えていた。
     禁術を使えば父は助からない。竜神の力を以てしても、そなたの蘇生は叶わぬと。
     それでも父さんは、母さんを生かすことを選んだ。
     あの瞬間の彼に、何かを憎悪し怨む感情は欠片も見えなかった。ただ妻を想い、慈しむ様子しか。
     ────蘇生出来ぬと神は告げた。ならば今、祖国にいる『あれ』は誰だ?
    「何があったか、真実を知りたいだけです。神が父を見放したとしても、僕はまだ諦めたくない。止められるなら、止めたい。僕が父ならきっとそれを望む」
    『肉親を斬ることになってもか』
     さすがに一瞬、逡巡した。寄り添ったルナが心細そうに僕を見上げる。腕に触れた小さな手に指を添え、黙って頷く。
     はっきり誓いあったわけではなかったけれど、父さんがグランバニアを攻め滅ぼしたと聞いたあの日にはもう、その覚悟を決めていた。ルナも、きっと。
     そうして僕は迷いなく、己の中に確固として在るただ一つの意思を口にした。
    「さっき申し上げた通りです。守りたいものを守る力は、他ならぬあなたからいただいた。戦わない選択肢は僕にありません」
     竜神はもう何も問わず、答えなかった。重い沈黙が場を支配する。各々が発する張り詰めた緊張が四肢にまとわりついたけれど、それ以上に、身に纏った天空の武具達が場の空気に共鳴していくような、不思議な感覚を帯びていた。
     竜神の加護が、武具を通して流れ込んでくるような。
     体内を巡る神の気を感じる。ぽつ、ぽたりと額から伝った汗が床に滴る頃、長く黙っていた竜神がおもむろに言葉を発した。
    『我が城では今、天空人以外に魔法の行使を許しておらぬ。これより汝らを地上へ転移させる。その陣から動かぬように』
     神が告げ終わるより早く、足元が眩く光った。円陣に古代文字が浮かび上がり、身を寄せ合った僕達を術式で縛り上げていく。強烈な風精霊の気配を感じながら、はぐれないよう必死に腕を回した。同じく母さんを真ん中に捕まえて、僕の腕を掴んだルナが、充満する魔力の圧に逆らい天を仰ぐ。
    「マスタードラゴン様! お母さんの記憶、は……」
     転移の直前、ルナが必死に声を張り上げた。つられて僕も、何も居なかったはずの玉座を仰ぎ見る。
     円陣から巻き上がる魔力に霞む視界の奥、いつか見た銀翼の巨大な竜が、玉座に鎮座しこちらを見守る姿が視えた気がした。
    『今は解かぬ。吾子よ。そなたならば遠からず、自らの力で破るであろう』
     風音に溶けて消えゆく神の声は、いつの間にか、懐かしいやわらかさを帯びたものに変わっていて。
     仄かに温かい低い声は、昔少しだけ一緒に旅した、ひょうきんで変わり者の、プサンおじさんを思い出させるものだった。



     ほとんど無理矢理連れ帰り、それから母さんと過ごした数日間は、まるで泡沫のように儚く、けれど幸せな日々だった。
     ラインハット王国を頼り再び保護してもらったが、滞在中、母さんの記憶はついに戻らなかった。ヘンリー殿下は酷く落胆なさっていたけれど、特にマリア王兄妃殿下は、母さんの無事をとても喜んでくださった。何もわからず申し訳ありません、と肩を落とす母さんを、今こうしてお話しできるだけで十分です、と言って泣きながら何度も抱きしめてくださったのは妃殿下だった。
     奇しくも弟のアルスは僕達と同じく、両親の記憶がないまま育った。黒髪のアルスは、僕達きょうだいの中で一番父さんに顔つきが似ていると思う。すっかり老けて涙もろくなったサンチョの後ろにぴったりひっつき、初めて見る母親を恐る恐る凝視していた。母さんはやはり僕達のことを誰一人として思い出せないらしかったが、髪色を戻した僕達双子を見て、驚きながらも血縁であることを受け入れてくれたようだった。改めてヘンリー殿下からすべての事情を聞かされた後は、記憶がないことなど嘘のように母親らしく、昔のように優しく接してくれた。
    「貴女が生きていてくれて本当に良かったと思う。……どれだけこの城に居てくれても構わないから、貴女の子供達の側に居てやってもらえないか」
     きっと父さんのことを口にしようとして呑み込んだヘンリー殿下に、母さんはゆるく首を振ると、一際哀しい微笑みを向けた。
    「……ありがとうございます。ヘンリー王兄殿下。私も、叶うならずっと、あの子達の側に居てあげられたらと……思います」
     けれど、と母さんは驚くほどまっすぐな双眸で、海の向こうの遥かグランバニアを遠く見据えた。
    「とても大切なものを、失くしてしまいました。……きっと、取り戻さなくては私、こうして命をいただいた意味をも見失ってしまいます。何卒、お許しくださいませ……」
     母が口にした願いが、未だ思い出せずにいる彼女の伴侶を指したものだとわかってしまったヘンリー殿下には、それ以上何も言えないご様子だった。
     サラボナにも、一度連れていった。すっかり髪が白くなったお祖父様が僕達を迎え入れてくれた。母さんの記憶がないことはこっそり伝えたけれど、お祖父様は頷いただけで、特に態度を変えることはしなかった。
     母さんはやはり、故郷のこともお祖父様のことも覚えていないみたいで、数年ぶりに現れた白薔薇の君にざわめく街を、どこか心許ない様子で眺めていた。
     広い屋敷には今、お祖父様と使用人の方々だけが住んでいる。お祖母様は娘夫婦が再び行方不明になったショックで身体を壊し、母さんの身をひたすら案じながら、二年前、眠るように亡くなった。
    「頑固な眼が変わっておらんで安堵した。お前のやりたいようにやるが良い」
     お祖母様の墓参りをした後、餞別の言葉を告げたお祖父様に、母さんは黙って慎み深く頭を下げていた。
     ラインハットを発つ前に、母さんは髪を切った。
     長すぎるからという理由で、足首にも到達する碧髪を背中まで落としていく。切った分だけでも今のルナよりずいぶん長い。母さんを思い出すのが辛いと言って、ルナはこの五年間、肩につくより長く伸ばすことがどうしても出来なかった。
     切り落とした髪はサンチョにお願いして、捨てずに取っておいてもらうことにした。そういうの、本当に最期みたいで嫌だけど、母さんのものを僕達がちゃんと持っておける機会はもう、ここしかないのかもしれないと思って。
    「かあさま、ずぅっとここにいて?」
     一日二日ですっかり母に懐いたアルスが舌ったらずにねだる。ぎゅうっと抱きつく幼い息子を、母さんは愛しげに、そしてどうしようもなく哀しげに、何度も何度も撫でていた。
     僕とルナも母さんに招き寄せられ、何度も交互に抱きしめてもらった。
     久しぶりの抱擁は懐かしい花の香りがして、本当に本物の母さんなんだって、今更ちゃんと実感できた気がした。
    「……ごめんなさい。あなた達のこと、もっとちゃんと思い出したいのに……」
    「平気だよ。それに、思い出すって言っても母さんとは結局、二年ちょっとしか一緒に居られなかったんだし」
     うっかり答えてしまって即、ルナに後頭部をはたかれる。痛いけど妙に嬉しくて、それが酷く悲しくて、笑いながら泣いてしまった。以前石化していたことはヘンリー殿下から聞かされたはずだけど、母さんはやはり表情を曇らせ、泣き笑いするどうしようもない僕とルナを黙って抱きしめてくれるばかりだった。


     ラインハット城に滞在すること一週間。いよいよ、祖国グランバニアを再び訪れる日が来た。
     今回向かうのは僕とルナ、母さんと、父さんの盟友であるヘンリー殿下。殿下の家臣で腕の立つ方が数名ついて来てくださる。僕の親友でもあるラインハットの王太子コリンズも共に行くと主張したが、コリンズとアルスは両国最後の王族だ。お前達を喪うわけには絶対にいかないと父のヘンリー殿下に諭され、唇を噛みながらも僕達を見送ってくれた。そんな息子達に寄り添って、マリア妃殿下とサンチョが不安げに僕達を見つめていた。
     両親の二度目の失踪のあと、母さんと父さんの分まで僕達に愛を注いでくださった。ラインハットの王兄夫妻は今や、僕達に取って第二の両親とも呼べる方々だった。
    「勇者の名にかけて、お父上は必ずお護りするから」
    「こんな時まで莫迦だな。お前は自分のご両親のことだけ気にかけていればいい。親父なら自分でなんとかする」
     すっかり気心知れた翠の髪がそう言って笑ってくれる。この五年で心を繋げたルナにも、悔しい気持ちを呑み込んで激励していた。情勢が落ち着いたら、ルナはコリンズの元に輿入れすることが既に決まっている。
     母親にも晴れ姿を見てもらいたいだろうに、ルナはそんな望みはおくびにも出さず、気丈に微笑み、母の隣に寄り添っていた。
     美しい碧髪の、姉妹のような母娘が並び立つ姿は天使の如く神々しく、見る者達に切ない溜息を零させる。
     その様子がこんなにも荘厳で悲愴なのは、……多分誰もがもう二度と、彼女の姿を見ることはないのだと予感していたから。
     いよいよ出立というその時、母さんが幼いアルスの元に膝をつき、小さな身体を優しく、強く抱きしめた。
     今度こそ、絶対に忘れません。
     そう呟いて、名残惜しく身体を離した母親を、アルスはただただ不思議そうに、首を傾げて見上げていたのだった。
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