Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    もずく

    @mozumozu_BL

    右柳性癖博覧会

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 11

    もずく

    ☆quiet follow

    ⚠️赤柳

    ぽいぴくにもSS上げられることを完全に忘れていました。
    べったやめてぽいぴくに絞ります。
    でも反応もらえたの嬉しかったので消さないでおく…

    二番煎じの告白劇 普段よりも数段暗い帰り道を切原と柳はふたり、並んで歩く。
     夏が近づき、幾分か日は延びてきているものの、今日は居残り練習が長くなってしまったおかげで、既に夜空と言っていいほどに空は暗く、星が満ちている。
     ──居残りしたいって言ったのは俺だけど、暗いと先輩の顔が見えづらくてヤだなァ。
     ぼんやりと考えながら歩いていると、ごちん、と派手な音を立てて電柱に額をぶつけた。
    「~~ってぇ…」
    「きちんと前を見て歩け」
     まるで我が子を叱る親のような声色で注意をした柳は、それこそ前を見ているのか分からないような顔をしていたのだが、切原は素直に従い軽い謝罪をした。
     うっすら赤くなってしまった額を擦りながら真っ直ぐ前を向き歩き始め、しかしその視線は直ぐに斜め上へとずれた。
    「あ、満月!」
    「…そうだな」
     小さく吐息のような相槌を打つ柳の横顔を盗み見て、やはり顔が見えにくい、と不満になる。それでもぼんやりとした月明かりに照らされる彼は驚くほどに綺麗で、これはこれでいいかもしれない、などと都合のいいことを考えていた。
     柳から視線を外し、もう一度夜空を見上げる。
    「キレイっすね」
     月の感想の皮を被ったその想いは、柳に伝わっただろう。そうでなくとも、切原はそれでよかった。彼はただ、この片想いを──正確には違うが──楽しんでいた。勿論、こんな片想いごっこで終わらせるつもりはないが。
     切原は知らず歩調が早くなる。横に並んでいた柳をすっかり後方に置いてきてしまったので、振り向きざまに置いていくっすよ、と声をかけようとして、やめた。
    「ああ、綺麗だ。…死んでもいいほどに」
     甘くとろけるような声色でそう言った柳は、驚く程に優しい顔をしていた、ように見えた。身体がむずむずとして走り出したいような衝動に駆られる。なぜか生温くて気恥しい空気が流れていた。その空気を振り切りたくて、茶化すために口を開く。
    「ええ? 何言ってんすか?」
     くすくすと笑うだけの柳にそっぽを向き、少しばかりにやけた唇で変なの、とこぼした。



    「月が綺麗だったら、死んでもいいと思えるんすかね」
     柳生の誰も聞いていない特撮語りが一区切りつき、数秒の沈黙が流れた瞬間、昨夜の疑問が切原の口をついた。

     部活が終わった直後に、柳は教員に呼び出された。曰く、生徒会のことで話があると。そんなの明日でいいのにな、とは丸井の言だ。
     切原はそんな柳を部室で待っていた。ふたりは登下校を一緒にしよう、などと約束をしているわけではないが、切原にとっては柳と帰ることは当たり前のことなのだ。
     ただ柳はなにも知らない為に切原は勝手に待っていることになる。その点は切原としても待ち伏せやストーカーのようで多少居心地が悪かったのだが、丸井や桑原、仁王、柳生がしばらく部室で休んでいくようだったので、これ幸いと彼らをとっ捕まえて話し相手になってもらっていた。

    「はぁ? 何言ってんだお前」
     丸井は、お前とうとうぶっ壊れたか、とでも言いたげに怪訝な顔を切原に向けた。桑原も訳が分からないという顔を見せ、仁王は興味がないのか、眠たそうに欠伸をした。
    「おや、夏目漱石ですか?」
     そんな中柳生はひとり、素敵ですねぇ、と楽しそうにしている。
    「なんか知ってんすか柳生先輩」
    「ええ」
     柳生はこほん、と大仰に軽い咳を落とすと、よくぞ聞いてくれたとばかりに普段よりも早口で話し始めた。
    「『月が綺麗ですね』というのは、夏目漱石が『アイラブユー』を日本語に訳した、という通説があるものです。もうひとつ。『死んでもいい』というのは、二葉亭四迷がイワン・ツルネーゲフの『片恋』の一節、『ヴァーシャ』を…英語では『ユアーズ』ですね。この台詞をそう訳したものです。『月が綺麗ですね』の返事として、『私も愛しています』という意味で使われることが多々あります」
     ここでようやくひと呼吸おくと、にこやかに「柳くんは文学少年ですからね」と言ったが、切原の耳には既に入っていなかった。少しばかり人よりも足りない頭を懸命に回していたからだ。
    「ちなみにこの『片恋』という邦題は、『初恋』と呼ばれることが主流ですね」
    「ほぉ」
     柳生のうんちくに、仁王が感心したような、どうでも良さそうな、どちらともつかない声を上げている。二人の会話を背景音楽に、切原は意中の人のことだけを考えた。

     俺は柳先輩が好きで、柳先輩も俺のことが好き。お互いに知ってて、黙ってる。
     柳先輩にテニスで勝ったら、その時はって。俺が勝手に決めたことだけど、先輩は多分待っててくれてた。でもきっと、結局待ちきれないで、俺が告白したつもりなんてないのを分かってて返事をしたんだ。
     一人だけ告白されて、した気分になって。ズルい。ズルいだろ、それは。



     昨日とは違い一番星すら出ていない時間の帰り道。オレンジ色に照らされて、柳は長いコンパスをちまちまと動かし、切原も普段よりゆったりと歩く。
     早く家に着いてしまうのが嫌で、帰り道はこうしてゆっくりと歩いて帰る。
     本当はもっと遅い、遅すぎて早いくらいの時間まで一緒にいたい、と言ったら柳はどんな顔をするか。そんなことばかりを考えていた。
    「ね、柳先輩」
    「どうした?」
     くるりと振り向き見上げる顔は、告白じみたやり取りをした翌日とは思えないほどにいつも通りで、切原は悔しくなった。
     くそ、超冷静じゃん。俺だけ熱くなって、ああ、もう。好きだ!
    「俺にとっては、月より先輩の方がきれいです! 死んでもいい、はやめてください。俺、先輩のことが好きだから、死んでほしくないっす」
     一世一代の告白に、とうの昔に知らない誰かが考えた言葉を使いたくはないと、普段は使わない頭を使った。
     しかし『アイラブユー』に代わる言葉が見つからずに、結局はどこかで誰かが使ったであろうありふれた言葉で想いを告げた。
    「…全く、今までの茶番はなんだったんだ。始めからそう言えば良かったものを」
     軽く溜め息をもらし自身の額に触れる柳は、呆れたような顔をして、それでも口元を緩ませている。切原は今更ながらに緊張が回り、濃く熱い息を吐きながら胸元のシャツを握りしめ、彼の言葉を待つ。
    「…ずっと、待っていたんだ」

     そう言って微笑んだ彼の耳が真っ赤だったことも、彼の遠回しな『アイラブユー』も、自分だけが知っていればいいと切原は笑った。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖💖💖☺☺🙏🙏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works