タイトル未定 ばたばたと騒がしい足音。壇くんだな。修道士たるもの、もう少し落ち着きを覚えて欲しいものだ。
ふぅ、と息を吐き、飲みかけのダージリンティーをソーサーに置く。カチャリと陶器のぶつかる音が聞こえたと同時、部屋の扉が開いた。
「たっ、大変です! 西の街で中級悪魔が暴れているです!」
「テメェも赤く染めてやろうかァ!」
「あれか…」
街から200メートルほど離れた森の大きな木に腰掛け、単眼鏡で標的を捕捉した。
身体中が充血したように赤く染まった人型の悪魔。外見は色味以外、普通の人間となんら変わらない。なるほど、白石が手をこまねく訳だ。
街の入口付近で乱暴に背負っていたガンケースを下ろす。奴との距離は50メートル。十分だろう。
「アア? なんだテメェ…」
ガタン、と大きな音が鳴り、奴は俺の存在に気がついた。首をぐりんと回し、白目まで赤い眼球がこちらを見やる。
「ヒャハ、えっろいカッコだなぁ。誘ってんのかよ」
悪魔の戯言を聞き流し、狙撃銃の銃口を向ける。
奴の足元に弾丸を撃ち込む。読んでいたようにひょいと避けられた。二歩下がり、二発目は肩を狙う。
「効かねぇよッ!」
銃弾を避けつつ、俺との距離を詰めようと向かってくる。両手を腰元に構えそのまま走っているあたり、恐らく武器は手…爪か。
三発目。
四発目。
五発目。
何度弾に接触しかけようと、一歩も引かずに真っ直ぐ突っ込んでくる。やはり、俺の推測は間違っていないようだ。
「成程」
であれば、大した驚異ではない。
狙撃銃を投げ、袖口の隠しポケットからロザリオを取り出す。
「主よ」
小さく呟くと、ロザリオは俺の背を越す程の大きく黒い鎌へと変形した。
「なっ」
奴はライフルを扱い距離を取り続ける俺を近距離が苦手なタイプだと判断したようだが、大きな間違いだ。
俺の主力武器はこの鎌であり、また体術を得意とする。
近距離戦に持ち込めば、鎌と爪ではリーチの面でも、攻撃力の面でも大きな差がある。
さらに、突然大きな武器を出現させたことによる動揺で奴は一瞬動きが止まる。
つまりは、
「詰みだ」
「……ッ!」
振り上げた鎌は首を飛ばす、はずだった。
「赤也!」
突如雷鳴が轟き、身体に大きな衝撃が走る。
「全く、お前はまた勝手を――」
意識が薄れゆく中、場違いな小言だけが聞こえていた。