赤柳ワンドロ・ワンライ 休み時間。俺は珍しいことに図書室で自主勉強をしていた。
というのも、次のテストで赤点を取ったら補講になってしまうらしい。貴重な部活の時間をそんなことに使われてたまるかと躍起になっていた。なにより、以前に英語で二点を取った時の柳先輩の恐ろしく冷たい視線が忘れられなかったから。夢に見るほどに怖かったのだ。
「頑張っているな、赤也」
と、回想に耽っていた俺の頭上から、今まさに考えていた人の声がした。これが噂をすればってやつか。
「…そうだ、これを」
反射的に手のひらを受け皿にして差し出すと、降ってきたのは丸っこい包み。
「……飴?」
「ああ、べっこう飴だ。勉強を頑張っているご褒美にな」
いたずらっぽい顔で弦一郎には内緒だぞ、と口元に人差し指を立てる先輩がいやに綺麗で、口の端っこがむずむずする。
「あざっす!」
誤魔化すようにでかい声でお礼を言うと、筒状に丸めた紙で頭を叩かれた。
「べっこう飴」
聞いたことあるけど、食べたことはない気がする。そもそも飴あんまり自体食べない。
包みを開けて出てきた球体を手の中で弄る。薄茶色のそれをなんとなしに蛍光灯に透かすと、きんいろに変わった。
この色の変化を、どこかで見たことがある。
(───あ、)
そうだ、柳先輩だ。あの人の瞳は薄茶色だけど、光の加減で時折きんいろに見える。
柳先輩がくれた飴は、もう彼のそれにしか見えなくなってしまった。
あの人の瞳が、いま、俺の手の中にある。
「……っ」
ぶわり。身体の奥底からなにかが沸き立つ感覚。俺はなにかにせっつかれて、口内に飴を放り込んだ。
ころころと舌の上で転がす。なめて、ねぶって、しゃぶって、それから、思い切り噛み砕いた。
まるで柳先輩の眼球を潰したみたいな感覚。
口内で二つに割れた飴をさらに細かく噛み砕き、大袈裟な音を立てて飲み込む。
「……柳、せんぱい…」
ぞくぞくと、知らない熱が俺の身体を震わせた。