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    pon69uod

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    2018年に書いたお話、ぷらいべったー再掲

    #ほづかな
    stockfish

    お電話をするほづかな「大変大変~~~っ!火積先輩、かなでちゃん、どうやら倒れちゃったらしいですよ!」
    部室の扉を開けるやいなや、慌てた様子で叫ぶ新に、火積は盛大に顔をしかめた。新が騒がしいのも、走ってはいけないと言われている廊下を放課後になると全力で走ってくるのも、部室の扉を明け閉めする勢いで表に掛けてある看板を落としてしまうことも日常茶飯事だ。だが、叫んだ内容と、眼前に突きつけられたスマートフォンの画面に映し出された写真が、まずい。
    「水嶋ァ……これ、どうやって手に入れた、あァ?」
    「痛い痛い痛い!!も~、先輩ったら短気なんですから!ハルちゃんから送られてきたんです!」
    おでこに熱を冷ますシートを貼り付け、写真に写るかなで。心なしか頬は赤く、目はとろんと眠たそうだ。薄い黄色の襟のついたもこもことした素材のパジャマに身を包んで、ベッドの上で力なくVサインをしている。風邪だ。言葉を交わすまでもなく、確信する。よく見れば、新の従兄であるハルからのメールには「火積さんに連絡するのが先だと思ったのですが、先輩がメールを打つ元気もなさそうだったので、新経由で僕からお伝えすることをお許しください。先輩は心配させまいとこんなポーズをしていますが、恐らく今、学院で大流行している風邪なのではないかと思われます。大体一週間くらいで完治するようですが、きちんと治るまでは学校はもちろん、部活にも出させませんのでご安心ください。」と、彼らしい丁寧な文面で書かれていた。
    倒れたと聞いて想像した、何か大きな事故や病気ではなかったことには安堵したが、風邪だって辛いことには変わりなかろう。普段、元気にくるくると動く瞳が、じんわりと熱をもって重たく静止しているのを見るのは、火積にとっても辛い。代わってやれたらいいのに。そんな現実的には不可能なことすら思ってしまう。それが出来ないのなら、せめて、かなでが心細くないよう側に居て、何かしてやりたかった。
    かなでは家族と離れて住んではいるが、寮の隣室には支倉ニアが居るだろうし、気心の知れた幼馴染みだっている。かなでのことだから、クラスや部活の仲間だってきっと多くいるから、お見舞いの品には事欠かないだろう。だから、火積が行かなくても何とかはなる。行ったところで、適切な処置をしてやれるわけでもないし、かえってかなでに気を遣わせてしまうかもしれない。でもーーそれでも会いたい、他ならぬ自分を頼ってほしい。かなでと恋人同士になってはじめて、火積に芽生えた感情だった。
    (まったく……我が儘になっちまったもんだ、)
    とはいえ、ふと目をやった壁掛けの日めくりカレンダー。今朝、朝練の時にめくったままになっているそれは、まだ週が始まったばかりの火曜日だ。そう簡単には行き来できない距離と、学生という身分がこんなときは一段ともどかしかった。勿論、土曜の朝一番に横浜に行く算段は立てるつもりだが、一番辛い時期にはどうしたって一緒に居てやることができない。そんなことが、きっとこれからも、恋人であろうとすればお互いに何度もあるのだろう。もどかしい。食い縛るようにして噛んだ奥歯の向こう側から、重い息が漏れた。
    「って!火積先輩、顔、いつもより三割増しで怖いですよ~~~??」
    「あァ……?」
    「そんな顔してたらダメダメ~!どうせ先輩のことだから、会えなくて寂しいなーとか、かなでちゃんが遠恋嫌になったりしないかなーなんて思ったりしてるんでしょうけど!」
    図星、だ。
    からかうような新の声。いつものように反射的に反撃するのも忘れて、火積は思わず頷いた。
    「あちゃー、やっぱり!じゃあそんな火積先輩に特別大サービスでっす!このアプリを入れて~、ここを押して~……そしてポチッとスイッチオーン!!」
    机の上に放置していた火積のスマートフォンを手慣れた様子で操った新が、ずずいと画面を火積に近づける。何やら新しいアプリを入れたらしく、画面には見たことの無いアイコンが瞬いていた。にこにこと邪気の無い顔で笑う新を尻目に、火積は恐る恐るアイコンをタップした。
    『……あれ、ほづみくん……?』
    「!?」
    数秒のコール音の後、パッと明るくなった画面に映ったのは、先程の写真と寸分違わない姿をした小日向だった。
    「あっ、繋がったんですね!良かった~!じゃあ、あとはお二人に任せて、俺は練習にいってきまーす!火積先輩、今度何かおごってくださいね!」
    「お、おい水嶋!」
    来たときと同じくらい大きな音を立てて走り去っていった後輩にため息を吐いて、火積は気まずそうに画面に目をやった。どうやら小日向の側にもこちらの映像と音声が伝わっているらしく、小日向はそんな火積を見てクスクスと笑っている。
    『あのね、私のも、こないだ新くんが入れてくれたんだよ。火積先輩のにも絶対入れておくんで!って言われてたの。』
    「……なるほどな。」
    同じアプリを入れていれば、こんな風に話が出来るのか。買ったときに入っていたアプリくらいしか使ったことの無い火積には思い付きもしなかった。確かに、これなら直接会うには劣るけれど、顔を見て話をすることはできる。
    「あんた、その……寝てなくて大丈夫なのか?熱は?病院には行ったか?薬とか……そうだ、飯、飯はちゃんと食ってるか?支倉は、放課後には戻るんだよな?」
    『ふふ、心配してくれてありがとう。でも大丈夫!熱はちょっとまだあるけど、さっき薬も飲んで、ずいぶん楽になったから。ニアもそろそろ帰ってくるし、お使いを頼んでるからご飯も心配いらないよ。』
    「そうか……良かった、な……」
    聞きたかったことを矢継ぎ早に聞いてしまえば、すぐさま沈黙が訪れてしまった。さっきまであんなにも会って、話して、小日向の心細い気持ちを薄めてやりたいと思っていたのに、気のきいた言葉ひとつ出てこない。こんなときには、普段鬱陶しいとしか思わない新や、自分の父親のように、軽妙に話ができれば良かったのにとすら思ってしまう。恋人になってからも、短いメールのやり取りくらいしかやってやれなくて(それも、必要最低限だ。)、こうやってテレビ通話のアプリを入れようという発想にも至らない、コミュニケーションに難のある自分が嫌になりそうだった。
    『ふふ、ほづみくん、眉間の皴、すごいことになってる』
    「あ……?」
    画面いっぱいが肌色になる。小日向の人差し指が、スマートフォンの画面をつついているのだろう。知らず知らずのうちに強張っていた眉の間の筋肉が、ふと、やわらぐ。小日向と一緒にいるときと同じで、ほっと体の力が抜けるような感覚だ。なんだか小日向がすぐ側にいるような気になって、触れられてもいないのに顔の辺りがむずむずとこそばゆかった。
    『……惜しいなぁ。早く、相手に触れられるアプリが出れば良いのに。それか、びゅんって、瞬間移動できるのとか。』
    ころりと横たわりながら会話を続ける小日向に、火積は無言で頷いた。同じことを、さっきまで火積も考えていたのだ。会いたい、触れたい。そう考えているのが自分だけではなかったことが、火積の心を緩やかに溶かしていく。これでは反対だ。寂しさを紛らわしてやりたいと、労って、何か力になりたいと思って電話をしたのに、火積のほうが与えられすぎている気がする。
    『……こうやって話すのも、嬉しいけど……見て、聞いてたら……ほんものの、ほづみくんに……あいたくなっちゃうな。わたし……わがままに、なっちゃった、みたい……あいたい、なあ……』
    「……行く。土曜になるが、絶対に行くから。」
    『ほんとう……?じゃあ、はやく、治さなきゃ……デート、しようね……手、繋いで……いっぱい、』
    どうしてこう、分かってしまうんだろう。火積と同じことを考えて、火積と同じ望みを口にしてくれるのだろう。
    「……あぁ、分かった。」
    精一杯で答えた声は、震えていなかっただろうか。嬉しくて、幸福で、それでいてほんの少しだけ切なくて。込み上げる愛しさに濡れそうになる瞳が、どうか彼女には見えていませんようにと、祈る。
    『えへへ……風邪もたまにはひいてみるものだね。甘やかされちゃった。』
    「勘弁してくれ。あんたに元気がないと、その……心配だ。」
    『うん、』
    まどろみながら笑む画面の向こうの彼女を指先で撫でる。つるりと無機質なはずのガラスの板が、今日はなぜか暖かに感じた。
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