熱はじめは偶然だと思っていた。
例えばたまたま気が向いて、いつもはいけ好かない気に入らない彼奴にコーヒーを渡す時。
「よおクリプト、朝から湿気た顔してんなぁ。ほれ、これでも飲んでそのしけた面しゃっきりさせろ。どうせ徹夜でもしてたんだろ」
伸ばされた手が俺の手に僅かに触れコーヒーカップをさらっていく。
「…ありがとう」
こいつ冷え性か?
にしても珍しく嬉しそうな顔をしている…悪くねーな。
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例えばゲームデュオで建物に身を隠していると、グレネードが転がってきて咄嗟に動けなかった時。
「グレネード!」
クリプトの大きな声と、力強く抱き寄せられる腰。
優しく頭に添えられた掌。
クリプトは背中を地面に打ち付けながら俺を庇ってくれたようだ。
俺はというと、抱き締められているため身動きが取れずされるがまま。
何だか無性に顔が熱い。
女じゃないしこんなふうに守られなくても…いや別に照れてねーし!
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極めつけは、珍しくクリプトが俺の店で酔ってる時。
「おいクリプちゃん、そのへんにしとけよ。俺は送ってやらないぞ」
呆れながらグラスを磨いていれば常連が来たので声を掛けようとカウンターを出たその時だった。
エプロンの裾が引っ張られ俺は立ち止まり、犯人である酔っ払いを見る。
クリプトはカウンターのテーブルに突っ伏しながら器用に俺のエプロンの裾を握っていた。
「…行くな」
「なんだって?」
ぼそりと吐き出された言葉は聞き間違いかと聞き直す。
なのに、今度は起き上がってしっかりと俺の目を見てこう言うんだ
「行くな、ウィット。ここにいろ」
「っ…お前、誰に何言ってるか分かってねぇだろ?」
「分かってる」
「酔ってるんだよお前。ほれ、いいこだからその手を離せ。今ならまだ笑い話にして忘れてやるよ」
「笑えばいい。俺は本気だ」
エプロンの裾を握っていた掌が今度は俺の手をとる。
ぴくりと無意識に動いた手をまるでこわれものを触るかのようにするりと撫でられる。
「なに…」
「考えろ。俺は考えた結果お前に今こうしている」
熱い視線に見つめられたまま、今度は手の甲にクリプトの形の良い唇が触れた。
はっと息を吐き出した間にその熱は離れていた。
周りには客もいるのにまるで俺たちしかいないかのようだ。
どうして俺の心臓は今爆発しそうなくらい音を立てている?
どうして物欲しそうな熱い瞳に全てをあげたいと考えている?
冷え性だと思っていた掌が今は熱い。
「俺は…俺も、」
答えはきっとはじめから決まっていた。
偶然なんかじゃない、これは必然。