デートではありません目の前に差し出されたいちごタルトがのった皿。

きょとんとしていると

「さっきこっちも気になってただろ？」

さもそれが当然だと言わんばかりにばかみたいに明るい笑顔を向けられる。
その度に俺は心の中に何か暖かい毛布のようなものに包まれているような、陽の光に照らされた植物にでもなったような気分だ。

それでも流石にケーキの1口目を頂くことに躊躇していれば

「ほれ、ケーキはなここのとんがった1口目が1番美味いんだぜ？」

そう言ってもう一度差し出されたケーキにそっとフォークで1口サイズにして口に入れる。

口に広がるいちごの酸味と甘いカスタードが絶品だ。

「美味い…ありがとう」

今まで食べたケーキの中で一番、という言葉は照れくさくて心の中にしまっておく。

「だろ？」

ニッと笑って自分もケーキを食べ始めるウィットを見て、俺の皿を見る。

皿の上にはガトーショコラ。
周りについているフィルムを剥がすのに苦戦しつつ、先程してもらったようにケーキの皿を差し出す。

きょとんとしているウィットの表情を見て、なるほどこれは悪くないなんて気持ちが湧く。

「さっきの礼だ」

「いや、俺はそのためにしたわけじゃ…」

途端に慌てているウィットを見て、あぁ俺は此奴のこういうところが好きなのだなと自覚する。

「ここのとんがったところが1番美味いんだろ？俺はお前にも味わってほしい。だめか？」

俺の顔を見て何故か顔を赤くしたウィットが、小さく本当に小さくケーキをフォークでとってぱくりと1口。

「おい、もっと食え」

「いやいい！充分だ！ありがとな！美味いなこっちも！」

自分が差し出す時は無条件で、人から貰う時はこんなに控えめな目の前の男がどこか心配になる。
と同時にとても愛おしくなる。

俺は自分のフォークでケーキをやや大きめの1口サイズにすると、目の前のいつもよく回る口に近づける。

驚き目をぱちぱちとしているウィットの唇にケーキが触れる。

「食え」

どうしたって言い方が上からになってしまうのは性分だからこの際気にしないことにする。

目を伏せケーキを見つめたウィットがおそるおそる口を開いてパクリ。

もぐもぐと咀嚼したあと、じんわり広がっていく笑み。

「美味いか？」

「あぁ！今まで食べたケーキの中で1番な！…おっと、なんでもないさっきのは忘れてくれ」

慌ててケーキを頬張るウィットにとうとう俺は笑ってしまった。

「お前、かわいいな」

「は！？おっさん相手に何言ってんだ！」

むきになって怒っているが、その顔は真っ赤で俺の笑みは広がっていくばかり。

まだ自分の皿の上にあるケーキを食べていないというのに。

「なぁ、これってデートだよな？」

「デートじゃねぇ！」

更に照れて怒るウィットに、俺の緩んだ頬は戻りそうにない。