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    はまち

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    はまち

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    怪異パロ第二話です。なんかこっちもバカ長くなってしまった……どうして?

    第二夜「学校、私も行くから」

    あぁ、そっかぁ。と生返事をしたあと、少しして「え?」と思わず聞き間違いかと思い、夜宵にもう一度聞き返す。
    すると、夜宵は至って真面目そうな表情を変えず、一言一句違わず同じことを言った。

    「……ハァッ!?」

    思わず大声が出てしまい、口を両手で塞ぐ。酷い眠気が覚めてしまった。
    何食わぬ顔で腕組み胡座をかいている夜宵に、ベッドから転げ落ちるように近づき、肩を掴んだ。

    「意味がわからないんだけど!!」
    「なによ、変?」
    「変ってか……」

    入学やら転校やら、そんな理由もないのに当たり前な顔して学校へ行こうとしているその思考に理解が追いつかない。

    「ってかあんた、時間平気なの?」
    「え?」

    そう言われ、ふと自分のベッドの上に置いてあるスマートフォンを手に取り、電源をつけた。気づけば家を出る時間まで、あと10分近くしかない。朝ご飯やらなにやらを考えると、余計に余裕がない。
    「うわぁぁぁっ!!」と思わず叫ぶような声を上げ、急ぎで着替えの準備をし始める。

    「忙しいわねあんた」
    「誰のせいだよもうっ!!」
    「私じゃないでしょ」
    「ごめんねそうだよね!突っかかりすぎた私のせいだよ!!あーもうっ!」

    何するわけでもなくふんぞり返る夜宵に、なにかしら言い返したかったが、もはや自信ありげに答える姿勢を見てはなにも言えず、ただただ着替えながら自分に向けて情けなさと怒りをぶつけるしかなかった。
    教科書などが入っている鞄を持ち、急ぎで階段をおりる。

    「おはようお母さん!」
    「あら、今日は珍しく降りてくるの遅かったわね」
    「ごめん……!あぁもう……急いで食べなきゃ……!」

    母親側もわかっていたのか、光夢と夜宵の二人分の中くらいの大きさのおにぎりとペットボトルのお茶だけが、ビニール袋の横に置かれていた。

    「これだけなの?」
    「いや、変なこと言わないでってば!それに時間が無い分、私にとってはありがたいよ!」
    「もう時間に余裕がなければ、袋に行けて持っていきなさいね」
    「ほんッとにありがとうお母さん!」

    壁にかけてある時計を見た光夢は、「やばい」と何度も小さく声に出しながら、慌ててビニール袋におにぎりを詰め、じっとおにぎりを見つめる夜宵を急かし、流れるように「いってきます!」と言いながら家を飛び出した。
    夜宵は慌てる様子もなく、光夢の後をゆっくり歩いて追いかけていった。

    息を切らしながら止まることなく、校門付近にたどり着いたとき、ふと光夢が後ろから着いてきている夜宵の方を振り向き、思わず夜宵の裾を掴んで電柱の後ろに隠れた。

    「夜宵ちゃん……その格好……」
    「少し落ち着いたらどうなのよ、あんた」
    「いやだから……」

    のんびりと余裕そうにおにぎりを食べている夜宵の服装は、学校に通うには不適切であろう和服。あまりにも浮くことを考えて、光夢はあえてもう一度「ホントにいくつもり?」と聞いた。

    「なによまた?しつこいわね」
    「そりゃそうでしょ!?見てよ!ほら!」

    まだ何人か登校してきている生徒たちの服装を、近くの電柱の影に隠れながら夜宵に見せる。

    「……別に良くない?」
    「よくないよ!」
    「細かいこと気にしてる場合じゃないでしょ。あそこが学校なんでしょ?」

    先いくわよ。と夜宵はお構い無しに校門へと歩き始めた。当然、登校していた生徒たちはざわつき、隣にいる友達とコソコソ話していたり、堂々としているその様子に困惑していたりしていた。
    影に隠れていた光夢は、助けを求めて辺りを見回してしまうが、誰も近くにいない。
    しかし、放置していると厄介なことになりそうと、思考があちらこちらへ飛び回ってしまい、やけっぱちで電柱の後ろから飛び出し、急いで夜宵の後を追いかけた。


    ────────────────────
    結局、どこへ行ったのかも分からず、かといって遅刻するわけにもいかず、自分の教室に入り、自分の席の机に突っ伏した。

    「どっ……と疲れた……」
    「そんな息切らしてどしたの?珍しい」

    友美がしゃがんで光夢の机に腕をつけて話しかけてきた。そのすぐ後ろには心配そうな顔でこちらを見つめてきた三咲もいた。

    「いや、ちょっとね……」
    「……そういえば、ここら辺じゃ見ない格好の子がさっき廊下を歩いてたわよね」
    「あっ!そうそう!あれ誰だったんだ……」

    二人の発言に思わず心臓が飛び跳ね、「えっ!?」と思わず大声が飛び出て三咲の言葉を遮りながら、顔をバッとあげて椅子から立ち上がる。
    友美が驚いて腕を机から離し、三咲と共に光夢をじっと見つめた。

    「そ、その子!どこにいたの!?」
    「えっ、ど、どしたの?……」
    「いいから!」
    「ええっと、なんか先生に呼ばれてたような……」
    「あーもう!何してんのさあの人!!」

    教室にいるクラスメイトが光夢を見つめていたが、そんなことは気にもとめずに、すぐにでも職員室に向かうため教室を飛び出そうとした。
    ガラッと教室の戸を開けて階段の方へ曲った時、目の前に先生が立っていた。いきなり足を止めてしまい、思わずバランスを崩して先生の体に向かってぶつかりそうになるところを、先生に受け止められる。

    「おお、びっくりした……どうしたんだ?」
    「せ、先生!す、すみません……!あの、職員室で……あまり見かけない格好の子は……」

    そう聞いた途端、先生の後ろからひょこっと夜宵が顔を出し、ぽかんと口を開けたまま固まってしまった。

    「なにしてんのあんた」
    「こッッ……ちのセリフだよッ!!?というか、先生、その子、どうしてここにいるんですか!?いやそうじゃなくて……えっと……」

    さっきまでよりも余計に訳の分からない状況に立たされ、容量オーバーしかけている頭がプスプスと黒い煙をあげている。

    「おや、この子は推薦でここに転入することになったと……」
    「え?……えっ?え?」

    許されるものなのか、いつの間にそういうことになったのか。全てにおいて理解が追いつかず、全ての疑問に対する一言を何度も投げかけた。

    「転学してきたこの子の紹介もあるから、早く席につきなさい」
    「え……はい……え?」

    先生の後ろをついてくる夜宵が、困惑する光夢に向けて「やってやったわよ」と言いたげな顔をしながらサムズアップをしてきた。
    何一つ疑問が消えないどころか増えていくまま、光夢は教室に戻って自分の席に着いた。

    先生が教室に入ってきたのに気づき、席を立っていた生徒は自分の席へ、ずっと駄弁っていた生徒は中断して先生の方へ向き直す。

    「えー、出席を取る前にですね、皆さんにひとつご報告があります」

    光夢以外がなんだなんだとざわつく中、堂々と夜宵が教室に入ってくる。

    「このクラスの新しい仲間です!じゃあ自己紹介、お願いしていいかな?」
    「……『黒咲』 夜宵です。このクラスの一員として、よろしくお願いします」

    教室が拍手の音でいっぱいになる。先生が転校してきた事を改めて紹介しているが、夜宵の自己紹介に光夢は吹き出しそうになった。

    「席はそれじゃあ……光夢の隣でいいかな?」
    「え!?」
    「まだ来たばかりで勝手もわからないだろう?ならまだ親しい人と隣同士が安心すると思うんだが、違うかな?」
    「……まあ、はい……」

    緊張している様子もないどころか、むしろ堂々としている。夜宵は何食わぬ顔で光夢の隣に座り、そのまま出席確認が始まる。
    光夢は小さい声で囁くように夜宵に聞いた。

    「……ねぇ、どういうことなの?ちゃんと説明してよ!」
    「あとでするわよ」
    「いや後でって、それじゃ納得できな……」
    「光夢さん、色々と話したい気持ちはわかるが、返事はしてもらわないと困るぞ?」
    「えっ、あ、は、はい!すみません!!」

    話……というよりも今の異常事態の件について夢中になりすぎたため、いつの間にか呼ばれていたことに気づかず怒られてしまった、恥ずかしくなった光夢は俯き、早く次の化学の授業に移ってくれと、出席確認が終わるまで黙りこくった。

    「それじゃあ、皆さんは準備が出来次第、化学室に向かうようにお願いしますね」

    返事で溢れかえる教室に、光夢は良かったと安堵する。

    「ねえ光夢、化学室ってどこ?……あんたなんでそんな顔真っ赤なの?」
    「ほんともう、一生のお願いだからしばらく黙っててくれない……?」


    ────────────────────
    長いはずの学校での授業の時間があっという間に溶け、昇降口へ光夢と夜宵は向かう。

    「はぁ、今日は酷い目にあった……」
    「あんた、なんでそんなに疲れてんの?」

    光夢の言ったその悩みの種が呑気なことを吐き捨て、自暴自棄になりかけた光夢は思わず天井を見上げた。

    「無自覚で言ってるならすごいよそれ」

    ちょっとだけ気持ちが落ち着いた光夢は、苦笑いで夜宵の方に顔を向けた。無垢な顔で夜宵は首を傾げている。

    「あれ?光夢と……見ない顔だ!従姉妹?」
    「違うよ!」

    思わず即否定。「ごめんごめん」と謝った、立派なトランペットの入ったケースを手に持っている彼の名は「巻代(まきよ)」。幸運なのかそれとも腐れ縁なのか、これまで幼稚園児からの幼なじみの二人とずっと同じ学校を通ってきたらしく、彼女含めた三人で一緒に音楽部に入ったとのこと。

    友美と三咲とはこの学校で初めて知り合ったが、二人はどうやら前の学校からの友人らしく、ちょっとアウェーな気持ちでいたため、光夢にとって少しばかり羨ましいと感じていた。

    「あ、そうだ!光夢ちゃん時間あったらちょっと演奏聴いてかない?」
    「……あんたって、音楽の知識あるの?」
    「えっとね、光夢ちゃんの耳ってすごいくて、音が外れてるとかズレてるとかすーぐわかるんだよ!」
    「ふふん、どう夜宵ちゃん。私もこんな特技あるんだよ?」

    腕を組みドヤ顔で夜宵の顔を見る。夜宵が口を開き「それって怪異の……」と言い始め、慌てて夜宵の前に立ち両手で口を塞ぐ。

    「……えっと、なにしてるの?」
    「あ、えっと……ちょっとこの人の口から禁句がでそうだったから……あ、アハハ……」

    今日は忙しいからまた明日ね!と言いながら、夜宵を連れて光夢は階段を降りる。
    変なのと思いながら、巻代は光夢が降りる様子を眺めた。


    ────────────────────
    夕日が沈みかけ、夜空に染まりかけている空の下、校門前で、光夢を待っていた友美と三咲が、こちらに気づいて振り向き、友美が大きく手を振る。

    「ごめん、待たせちゃったね……!」
    「いいのいいの、巻代くんたちのことでしょ?」
    「彼らの音楽、素敵よね……音がひとつも喧嘩してないし……トランペットをあんなかっこよく吹ける人が……」

    三咲がうっとりとしている中、友美は顔を逸らしてクスクスと笑う。

    「な、なによ!」
    「三咲ちゃんってさ、もしかしなくても巻代くんのこと好きなんじゃないの?」
    「はぁ!?そんなんじゃないわよ!」

    否定はしているが顔はトマトのように真っ赤になっており、言ってることとは裏腹にちゃんと図星であることが読み取れた。

    「てかさぁ、今日の宿題超ダルいんだけど。提出いつだっけ?」
    「明日か明後日だったはず……あ、そうだ!確かプリントの上側に……あれ?」

    光夢は鞄からプリントを取り出そうとするが、クリアファイルの中に入っていなかった。ノートの中に挟んだ可能性を考え、持ってきたノートを一冊一冊パラパラとめくるが、どこにもない。

    「……もしかして……置いてきちゃったかも……」

    ごめん、先帰ってていいからね!と一言残し、急ぎ足で光夢はまた校舎の中へ戻った。

    「……なんか忙しないのね、光夢って」

    午前午後とは比べ物にならないぐらい、静まり返って寂しげな校舎に、光夢の上履きの音が鳴り響く。
    息を切らして光夢のクラスがある階へ登ろうとしたとき、ふと、廊下の突き当たりにある化学室に誰かが入っていくのが見えた。少しだけしか見えなかったが、人影の手に明らかに不自然な、なにか大きいものを持っていたようだった。

    「……なんだろ」

    どうしても気になった光夢は、こっそりと後をつけ、ゆっくりと扉の小さい窓から覗き込む。
    その人影は─────担任の先生だった。

    なんだ。と不思議と少しほっとして、目を離そうとしたとき、なにか液体のようなものがにじみでている大きな黒い袋を持っているのが見えた。

    思わず、扉を勢いよく開け「先生!?」と叫ぶ。
    驚いた様子の先生がこちらを振り向き、冷静を装った。

    「どうしたんだ、光夢。こんな時間に?」
    「せ、先生、その袋って……?」

    聞いちゃいけない気がした。黙って適当なことを言えばよかったと、冷静さを欠いて発言した瞬間に光夢は思った。

    「……あぁこれか。ただの失敗作だよ、気にしないでくれ」

    失敗作?と疑問符が浮かんだ。が、うちの担任の先生は化学の先生だったことを思い出し、次の授業に使うもので失敗したのかと考えた。

    「あっ、なるほど……!では私は忘れた宿題を取りに来ただけですので……失礼します」

    光夢が背を向けた瞬間、隠し持っていた鉈を握りしめて斬りかかった。足音に気づいて光夢が振り向くと、絶対に逃げられないすぐ目の前までに迫ってきていた。
    鉈の刃が光夢目掛けて振り下ろされる。

    「……卑怯なやつね、背後を狙うなんて」
    「……っ?」

    そこにいるはずの無い夜宵の声が聞こえ、恐る恐る目を開く。いつの間にか夜宵が目の前に立ち、鉈を持つ彼の腕を掴んでいた。

    「ぐ……ッ!」

    無理やりにでも夜宵を突破してこようとしてくるのを見て、夜宵は掴んだ腕を強く握りしめた。
    男が苦悶の表情を浮かべると、夜宵は腕を離して男は一歩後ろに引く。

    「……邪魔をするなッ!!」
    「悪いけど、こいつは私のもの。あんたに手は出させないから」
    「チッ、なにを……ッ!?」

    怒りの表情を浮かべていた男の顔色が青くなり、なにかに怯えたように、二人よりもさらに後ろを見て「あ……あ……」と繰り返してどんどん後ろに下がる。
    二人は隙を見せないように一瞬だけ背後を見るが、何かがいる訳でもない。映ったのは壁と窓の外にある夕焼け色に染った景色だけ。
    「や……」と彼が一言発した途端、何かが横切り一瞬にして彼の首が跳ね跳び、体が膝から崩れ落ちた。

    「ひ……ッ!?」

    声にならない悲鳴が光夢の喉から出る。流石の夜宵も何が起きたのか分からない様子だった。見たことも陥ったこともない状況に、光夢の喉から何かが込み上げ、思わず口を両手で塞いでその場に座り込む。

    「……ッぐ、ハァ……ハァ……」
    「な……何が起きたのよ……光夢、平気……?」
    「ふぅ、ふぅ……ッ、はい……なん、っとか……」

    動悸が止まらない光夢の様子を見かね、夜宵は光夢に肩を貸し、負担をかけないようにゆっくりと歩いて外に向かう。

    校門前にいた友美と三咲は既に帰ったようで、姿は見当たらない。
    二人のことを気にしていることを察した夜宵が、「先に帰らせたわよ」と聞かれる前に答えた。

    「……そっか。夜宵ちゃん、私ならもう大丈夫だよ」
    「……」

    足を止め、何か言いたげにじっと光夢の顔を見つめてくる夜宵に、光夢はぽけっとしながら首を傾げる。

    「あんたさ、そろそろその「ちゃん」付けやめてくれないかしら」
    「え?なんで?」
    「なんか……むず痒いのよ」

    眉をひそめて顔を逸らし、後ろ頭を搔く。
    この様子から、この事を前から気にしていたことが光夢には読み取れた。

    「……えっと、じゃあ……「夜宵」って呼べばいいの?」
    「ん……それならいい」

    慣れていない呼び方を強要され、口を「あ」と「え」の形に何度も動かしながら、視線をあちこちに飛ばす。

    「そんなあほ面してないでとっとと帰るわよ」
    「あっ、待ってってば!夜宵ちゃ……じゃなかった。夜宵!!」

    さっきの態度とは打って代わり、いつも通りに光夢より先へ行こうとする夜宵の後を追いかける。
    ふと、視界の隅っこになにか大きなものが映り込み、そちらを向いた。

    「……え、これって……」

    足音が聞こえないことに気がついたのか、夜宵も戻ってきた。見覚えのある大きなケースを抱えていた光夢が、不安げな表情を浮かべていた。

    「……?なにそれ」
    「これ、巻代くんの……トランペット」
    「……がどうしたのよ」
    「いや、おかしいって!彼、このトランペットすっごく大事にしてるって言ってたもん!それをこんな道端に置いてくことなんて……」
    「落としたんじゃ……ってこんなでっかいの落としたら気づくか」

    なにかあったのかもと、化学室で起きた出来事が不安と同時にフラッシュバックする。

    「……落としたんでしょ」
    「え?でもさっき自分で……」
    「学校でこれ見つけたって行って渡せばいいじゃない」

    夜宵なりの不器用な気遣いだろうか、言ってることを急に矛盾させてきた。
    どうしても不安が消えないが、そうだと信じるしかないと、光夢は静かに頷いた。
    ────────────────────
    色々なことがいっぺんに起きたことで、いつもよりも体力を使った光夢は、自室に入るなり自分のベッドに寝転んだ。
    何を考えているのか分からない顔をしている夜宵は、光夢の本棚から一冊本を取り出して、あぐらをかいて黙読し始める。

    「……ねえ夜宵、そろそろ聞いていい?」

    光夢はベッドに寝転がったまま、夜宵に話しかける。夜宵は耳をピクリと動かし、集中して読んでいた本から目を離して素直に顔を上げた。

    「どうして急に学校に行くだなんて言ったの?」
    「……確かに、色々あってまだ話してなかったわね。と言ってもそんなもったいぶるものじゃないけど」

    机の上に置いてあった栞を読んでいたページの間に挟んで、一度机の上に置いた。

    「学校の怪談って知ってる?」
    「え?まぁ一度は聞いたことはあるよ、トイレの花子さんとか、動く人体模型とか」

    友美から話半分で聞いていたこと。というのも、学校の中で怪異とは遭遇したことが今の今まで無かったため、ほとんどは外でしか会うことがないと思っていた。
    ただ、今日ばかりは違った。怪異が先生を襲い取りついたのか、そもそも先生自体が怪異になっていたのかはわからないが、ああして怪異に出会ってしまった。

    加え、今回は怪異本人から話題を持ちかけられ、光夢は冗談交じりでは聞けない状態になっていた。
    思わず、光夢は息を呑んだ。

    「学校って、凄く怪異にとって過ごしやすい空間なの」
    「え……?そうなの?私今日まで……」
    「そりゃあそうよ、本当ならか弱い子供を狙う弱い怪異が集まるところだもの。まあそこに入り浸る怪異自体が弱いんだけど……」

    夜宵の見せた横顔が、少し重たい声色と重なりいつもよりも真剣に思えた。

    「……あいつは違った。あいつは、学校にいるような怪異じゃない……」

    何か言いたげに夜宵はしばらく俯き、口を小さくぱくぱくさせる。少し間をあけ、また顔を上げて光夢を真っ直ぐ見つめる。

    「……少し、嫌な話するわね」
    「う、うん……」
    「あの学校、すごく嫌な気が集まってる気がする……怪異の本質か、それとも怪異になる前の人間としての怨念かわからない……」
    「……それは、どういう……?」
    「いつか、あの学校にとんでもない怪異が現れる気がする。その日になったら、あんたにこっそり知らせる」

    光夢は静かに頷き、その直後にちょっと大きめなあくびが出た。

    「あんた眠いの?」
    「……うん、かも。ちょっとなれないことが起きたからかな」
    「……無理はしないでよ」

    夜宵のいつも強ばっていた顔が、その瞬間だけ少し和らいでいたように見えた。
    契約関係ではなく、信頼のようなものを光夢には感じとれた。

    「……うん!」
    「え、なによそんなニヤニヤして……」
    「なんでもなーい!」

    いつぶりか、ウキウキした気分で光夢はベッドに寝転がる。

    「……?なにそれ」
    「夜宵夜宵」
    「なによ」
    「……寂しかったらベッドに入ってきても───」
    「はやく寝ろ、バカキモイ」
    「酷いっ!?そんな言わなくても……」

    ちょっと軽い冗談で言ったつもりが、酷い返しをされてしまう。ただ、昨日の言ったことが本当なら、体を悪くしてしまう可能性がある。ならばいっそ、ベッドの中に入ってきてもらった方がいい気もしている。

    しかしながら、ふと帰り道で見つけたあの巻代が持っていたトランペットのケースを思い出すと、なにかと変な胸騒ぎがした。
    落としてしまったと思いたいが、あんなに大きいものを、彼にとっての友達とのつながりの一つである、大切なものを落とし、挙句に忘れるわけが無い。

    いつも仰向けで寝ていた光夢は、寝返りを打って目を閉じる。


    ────────────────────
    「……ん?」

    なぜか聞こえるはずのない音がして、思わず目が覚める。
    気がつくと、なぜかおんぼろな木造の電車内のような場所の席に座っていた。所々割れている窓には、この世の終わりのような真っ赤に染った空の景色が広がっている。

    ふと横を見ると、ぐっすりと眠っている夜宵の姿もあり、すぐさま体を揺すりながら呼びかけて起こした。

    「あぁん……?なによ……?」
    「ガラ悪い!……いやじゃなくて……!」

    いつも冷静沈着な様子だった夜宵も、眠そうに重い瞼を何度か開いたり閉じたりしたあと、この光景に目を丸くした。

    「な、なにここ……?」
    「知らないよ!?気づいたら……ってか、夜宵も知らないの!?」
    「なんでも知ってるって思ったら間違いなんだけど!?」

    ふと、夜宵がなにか閃いた様子で耳を立て、光夢の顔をじっと見る。
    「え?なに?」と光夢が疑問符を浮かべた途端、夜宵は光夢の頬を強く抓った。

    「いたッ!?イタいっ!!」
    「……夢じゃないようね……」

    容赦なく思いっきり強く抓られ、まるで虫歯ができたみたいに赤くなり、ヒリヒリしている頬を涙目になりながら抑える。

    「とにかくここから出る方法探すわよ、かわいこぶってないで早くたちなさい」
    「ぶってないよ抓られたからめっちゃ痛いんだよっ!!」

    叱る光夢を全く気にも止めていない夜宵は、席を立って窓を見る。
    ───ぼんやりと映る雲の流れを見て、夜宵は景色の流れに逆らう方向、電車の運転席の方へ歩みを進める。

    「もう……なんでこんな……」

    文句ばかり言ってても仕方ないと、光夢も夜宵の後を追いかけた。

    割れた窓ガラスを吹き抜ける強い風の音に紛れ、動物の鳴き声が微かに聞こえた気がした。辺りを見回すが、点滅する証明と暗闇以外、何も無い。

    「……聞こえた?」
    「う、うん……動物の声だよね?」
    「しゃがんでッ!!」

    咄嗟にその場で頭を抱えてしゃがんだ光夢の頭上を青い炎が飛び、何かにぶつかって頭上ではじけ飛んだ。
    しゃがんだ状態で、光夢が後ろを向くと、小さい猿のような姿をした生き物が、大きな刃物を持ったまま黒い煙を出して倒れていた。

    「え……な、なに……これ?」
    「光夢!!」

    夜宵が手を差し伸べ、光夢は訳の分からないままその手を掴む。
    ほんの一瞬だけ姿勢を低くした夜宵が、目にも止まらぬ早さで車内を駆け抜ける。刃物やら何やらが飛び交っているが、お構い無しに走る夜宵に吹き飛ばされないよう、光夢は両手で必死に夜宵の体に無我夢中でしがみつく。

    突風が吹く中、微かに光夢の耳に誰かのアナウンスが聞こえてきた。

    『車内を走り回るのは大変危険です。速やかに立ち止まりください。』

    「……や、……っ!」

    夜宵に声をかけようとするが、一つ音を発するだけでやっと。
    しばらくしてようやく夜宵の足が止まり、勢いのまま壁に激突しかける光夢を夜宵が両手で抑える。
    フラフラする足取りと頭で、今目の前に立ち塞がる扉には、『乗務員室立入禁止』と書かれていた。

    「……光夢、いい?ここごと一気に突っ切るから」
    「ちょっ、待って休憩……」

    光夢をお構い無しに突っ切ろうとする夜宵が構えた時、背後から感じる殺気立った気配に気づき、振り向く。
    大きなナタを構え、車掌や駅員の帽子を深く被った男が、いつの間にかそこに立っていた。

    「走るなと言ったではありませんか、聞こえませんでしたか?」
    「ええ、全く。で?あんた誰よ。いつの間に私たちの背後にいた訳?」
    「そんなのどうだっていいではありませんか。ここは"私たち"のテリトリーですから」

    帽子のつばを掴み、上にあげる。見た事のある顔に光夢は息を呑んだ。

    「───せ……先、生……?」
    「……あぁ、見覚えあると思えば……そうか、君がそうだったんだ。ずっと感じてた……」

    いつも見せている優しい笑顔が、今ここではとても不気味に感じる。
    咄嗟に夜宵は、庇うように光夢の前に腕を出す。

    「それで、君はどういうつもりだ?人間を連れ回して……」
    「あんたには関係ない。とっととここから出して」
    「……そうか、それでもいいんだけどなぁ……私も戻りたいからなぁ……こんな夢に囚われていたくないんだよなぁ……」

    乾いた笑いと共に、先生と思われる人は涙を流す。
    ふと、その男の後ろからキュルキュルと車輪が転がる音が聞こえてきた。
    暗闇の向こうからやってきたのは、台座の上に乗せられた檻。さらにその中には人影があった。
    その人影の正体がわかった途端、光夢が思わず一歩前に出る。

    「友美ちゃん!?」
    「っ!?光夢ちゃん!?光夢ちゃんだよねッ!?」
    「ど、どうして!?」
    「わかんない……夢なのかもわかんない……!目を開けたらこんな場所に……!!」

    ここまで運んできた二匹の猿の一匹が、刃物を取りだして檻の中の友美に向けた。
    その瞬間、またアナウンスが流れる。

    『間もなく、活け造り……活け造り……』
    「先生!!こんなことやめて!!お願い!!」

    悪い予感がした光夢が訴える。男は光のない死んだ目をこちらに向けた。

    「……ああ、やめるとも。光夢、君が……君のその、巫覡の血さえくれれば……!」

    ニタニタと笑みを浮かべ、男が手を前に出した瞬間、どこからともなく現れた猿が、光夢の腕と足へ瞬く間に掴みかかり、首元へ刃物を振りかざす。
    光夢が目を閉じた途端、刃物を振りかざした猿に蒼白い炎が弾け飛び、光夢の足元に転がる。

    「光夢!!離れて!!」
    「で、でも……っ!」
    「ああ、マナーのなっていない。どうしてなんだ?邪魔するんだ?」

    男が扉に向けて指をさした。友美の入った檻を乗せている台車がゆっくりと動き始める。

    「やっ、ヤダ!!光夢ちゃん!!」
    「……っ!!ごめん!!」

    友美の涙ぐんだ助けを呼ぶ声に、光夢は立ち上がって降りにしがみつき、扉の向こうへ行かせないように踏ん張る。

    「あんた……っ!!バカッ!!自分の命が惜しくないの!?」

    言うことを聞かない光夢に怒鳴るが、光夢は必死に檻にしがみついて離さない。
    光夢に目を向けている夜宵に、男が鉈を持って走る。その場でしゃがむ夜宵の頭上を、鉈が風を切る。

    「チィッ!!こんな時に!!」

    夜宵が男の足を払い、体勢を崩して転んだ隙をつき、光夢に近づく。
    男が笑みを浮かべたまま起き上がり、持っていた鉈を夜宵に向けて勢いよく回転をつけて投げた。
    振り向きざまに、夜宵が飛んできた鉈を掴む。手に血がダラダラと垂れ、痛みで思わず顔をしかめるが、夜宵は鉈を持ち替え、音を置き去りにするような速さで投げ返す。
    回転する鉈は男の首に刺さり、そのまま倒れる。

    「ったく!!邪魔ばっかり!!あんたもあんたよ何してんの!!」

    手に痛みが走っても、涙を浮かべている光夢は未だに檻を離さない檻がじわじわと扉に近づいている。
    光夢の横に夜宵が入り、鉄格子を掴んだ。

    「友美、ちょっとだけ離れてなさい!!」

    言う通りに、友美が夜宵からできるだけ離れる。夜宵の両手から熱が発し、鉄格子が溶かされる。

    「早くここから出て!!」
    「う、うん……っ!!」

    急いで夜宵が開けた所から抜ける。檻はそのまま扉の中へ消え、扉もゆっくりと閉じられた。
    急に静まった車内。友美はすぐに光夢に抱きついた。「怖かった」と泣きじゃくる友美に光夢も抱き返して背中を撫でる。
    夜宵は腕を組んで目を二人から背けた。

    「……無茶すんじゃないわよ」
    「それは……ごめん……」
    「……無事ならいいけど……────ッ!!」

    危険を察知した夜宵が二人の前に飛び出し、炎を放って刃物を弾き返す。

    「あぁ………あきらめきれない……それを……私は………ワタシハ……」
    「友美、大丈夫。大丈夫……」

    男は首がねじ曲がったまま立ち上がる。手を前に出してかすれた声を発しながら、徐々に近づいてくる。
    震える友美を安心させようとするが、光夢も恐怖心が隠しきれず足が震えていた。

    「こいつ、まだ動けんの……!?」
    「せいとが………セイが……」

    夜宵が両手から炎を出して構える。突然、男がけたたましい声を発して飛びついてきた。
    怪異に染まりきった顔をし、夜宵の前まで迫ってきた途端、男の動きが急に止まり、次の瞬間、男の身体が真っ二つに斬られ、傷口から勢いよく血が噴き出した。
    そのまま男の体が二つに分かれる。その隙間から見えたのは、光り輝く刀を持ち、ボロボロになったマフラーと服を身につけ、狐の面を被った男が立っていた。

    「……な、なに?なんなの……今度は……?」
    「……」

    わけも分からない状況に立たされた友美が、光夢の体にぎゅっと抱きついた。
    男は何も言わず、納刀した刀を引き抜いた。帯を黒く染めた夜宵が一瞬、戸惑いを見せたがすぐに構える。突然、剣戟の音と共に火花が目の前で散った。男は一瞬、面の後ろで動揺した顔を見せていたが、すぐに冷静を取り繕う。

    「……やるな。このままお前の首をはねてやろうと思ったが……」
    「あんた、怪異じゃないわね」
    「へえ……流石、巫覡の血を引く人間を連れてる怪異。すぐに見抜いてきやがる……この仮面をつけてりゃ、大抵の怪異は騙せるんだが」

    そう言って男は仮面を外す。鋭く光る黄色の目は、光夢を睨みつけている。

    「……時にそこの、名前は?」
    「えっと、黒咲光夢……」
    「光夢。それと……」
    「……先に名乗るのは癪だけど、夜宵。で、こっちが名乗ってあんたは名乗らないなんてこと、ないわよね?」

    男はボロボロの服のポケットの中に手を突っ込んだ。

    「……『桐ヶ谷 有希』。光夢、お前は、正しく俺が探していた……」

    夜宵が臨戦態勢に入って、足を一歩前に出す。

    「……っ!あんた、人間のくせに……!!」
    「だが、夜宵。お前もわかってるだろ?ここじゃあ血は取れないこと」

    ハッとして、夜宵が自分の体を見つめる。
    飛び散った生臭い血糊が、ベッタリと着いている。

    「……どういうことよ」
    「こいつは怪異に成り立てだった。まだ『普通の』人間だったんだよ。ならば、こいつから取れる血はこぐ僅か……それに」

    突然、車内が大きく揺れ始める。眩しい光が窓から差し込み、電車がどんどん崩れ始めた。

    「ここは夢の中。いつか覚める。夢の中で血は取れない……」

    ぼやけていく視界の中、有希は構わず話を続ける。

    「……だが、光夢。お前の血は、必ず俺がいただく。その日まで───」



    ────────────────────
    目覚まし時計の音が聞こえ、光夢はすぐさま飛び起きた。

    「……ッは!?」

    気づけば汗まみれ。夢の内容はまだ鮮明に覚えている。ふと、横を見ると夜宵がぐっすりと眠りについていた。

    「……よかったぁ、夢だった……あ?」

    ふと、光夢はいつの間にか夜宵が当たり前の顔をして、ベッドの中に潜り込んでいることに気がついた。

    「……えぇ、なんで……?フッツーに腰痛かったのか、照れてただけかな……?ってやば!!また遅刻するって!!」

    忙しない光夢は、夜宵の体を揺さぶって直ぐに起こす。

    「……うぅ……あと五分、いや五十分だけ……」
    「いやだけじゃないよ!!大遅刻になるから!!ちょっ、早く!!」

    ふと、自分の携帯から誰かからの通知がなる。「こんな時に!!」と文句を言いながらも携帯を見た。

    「────え?」

    通知には、メッセージアプリで『光夢、夢覚えてる?』と友美からのメッセージがあった。
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