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    はまち

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    はまち

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    第六夜ですが、今回はどちらかと言えば日常回に近いものです。それと同時に、次の話に備えるためかなり短めです。次回で怪異パロ本編自体は完結予定です。

    第六夜「夜宵、怪我は大丈夫?」
    「こんぐらい平気よ」

    帰り道を歩きながら、ボロボロな夜宵の姿が気がかりで仕方のなかった光夢は夜宵に訊く。
    服についた埃を払い、夜宵は平然とした顔でそう答えた。が、そうは言いつつも節々が痛むようで腕を無理に動かそうとした瞬間、顔を歪めて腕を引っ込ませて下ろす。

    「……正直、アイツ人間だとは思えなかったわ。あの化け物じみた身体能力」
    「それほど、怪異と戦ってきたのかな……」
    「えぇ?だとしたら……あの怪異と契約したと考えて、おおよそ多分一週間でしょ……?」

    夜宵が頭の中であそこまで強くなれる方法を考えてみるが、どうしても思いつかない。ここまでくれば、彼自身の才能と思うほかなかった。夜宵の困り果てた顔を初めて見た光夢は、有希の強さがどれだけの程なのかが気になった。

    「あの時……ほら、トランペットを届けに行く日あったじゃない?」
    「え、うん。そういえば、あの時も有希いたね……」
    「多分、あの時に私の動きを見てたみたい」
    「え、あの複数の怪異を相手してる時に!?」

    そんな余裕はないように思えたが、三体の怪異の注意は分散させていたため、有希が怪異の相手をしていない時、もしくは一体ぐらいの少ない数の相手をしていた時にこちらを見ていた可能性があった。
    ただ、有希と複数の怪異を相手することと、その場から逃げ出すことに必死だった二人は、そんな様子を見ている暇などなく、ただの考察程度に過ぎなかった。

    「あー、やめやめ!もう疲れたわ私……仮眠でもなんでも目を閉じたい気分」
    「私はすぐに寝れなさそう!」
    「……まぁあんたはそうでしょうね」

    光夢に向けて放たれたその言葉の中身は、主に二つの意味を含んでいた。

    家に帰ってから部屋に入るなり、「すぐに寝れそうにないな」なんて言っていた光夢は、ベッドに入ってすぐに目を閉じてかなり早く眠ってしまった。ずっとウキウキしていた様子の光夢だったが、あまりにも速い寝付きに唖然としていたが、することも無いため、夜宵も光夢の横で眠りについた。

    寝静まる光夢の部屋。中々眠れずにいた夜宵は目が冴えてしまい、ベッドから起き上がるや否や、まだ少し橙色に染まりかかっている空をぼうっと眺めていた。
    ふと、静かな寝息を立てている光夢の方を見た。両手をあげていて肩が凝らないか心配になるが、当の本人は幸せそうな、女の子らしい可愛らしい顔をしていた。柔らかそうなその頬を触ってみたくなってしまう。

    「……外の空気でも吸ってこようかしら」

    光夢を起こさないよう、こっそりと部屋の扉を開けて階段を降りる。

    「あら、夜宵ちゃん。起きてきたの?」

    光夢の母がキッチンから声をかけてきた。誰も起きていないと思っていたため、驚いて肩が跳ねた。思わず大きな声が出そうになり、口を両手で塞ぐ。

    「ごめんなさいね、びっくりさせちゃった?」
    「……大丈夫……」

    そうはいいつつも、ちょっと漏れた声に光夢が起きてこないか不安になって降りてきた階段の方を見た。
    ……どうやら、起きていない様子だった。

    「夜宵ちゃん、ありがとうね」

    母親に突然、感謝の言葉を述べられて夜宵の頭に疑問符が浮かび、首を傾げた。

    「いつも光夢と遊んでくれてるでしょ?」
    「いや、遊んでいるっていうか……」

    そこまで言いかけて、下手に心配させる訳にはいかないため、夜宵はすぐさま「遊んでる」と答え、曲がりかけた話の路線を無理やり戻した。

    「あの子があんなに生き生きとしてるの、夜宵ちゃんが来て以来、久しぶりに見たの。何時だったかしら、あんなに元気な姿を見たのは……」

    意外だった。何かと慌ただしくて仕方ない光夢が元気のない姿が想像できなかった。思えば、巫覡後を持つ光夢は、その血を求めている怪異にいつでもどこでも追い回されていてもおかしくない。
    それに疲れてしまって、元気がない可能性が夜宵の中で浮かんだ。

    「実はあの子ね、私の子供じゃないの」
    「……え?」

    こんな時じゃなければ、思わず大きな声を上げていたところだった。

    「あの子はね、ある家で生まれてからすぐに捨てられた子みたいなの。見たことの無い目だ髪だと言われて」

    夜宵は、あまり気にはしていなかった。それは、自分の目も赤く、有希の髪も目も光夢と似たり寄ったりだったからだろう。ただ思い返せば、光夢の友人である友美や三咲はそれぞれ茶髪と黒髪と、普段見かけるような髪色だった。

    「それに、幼い頃からいつもなにかに怯えていたり、壁に向かって何かと話していたり……周りから変な目で見られてたの」
    「……」

    光夢が幼い頃から見えていたもの。それが、怪異。周りにいた他の人からは、存在を認識されていなかったようだ。
    母親の証言で、昔から光夢は怪異に苦しまれていたことがわかった。許せないような、しかしその気持ちは皮肉にも繋がる。なんともやるせない気持ちになった。

    「私もなにか出来たら良かったんだけど……出来ることは、こうして一緒に過ごしてあげられることだけだったの」
    「……そうだったんだ」
    「……でもね、夜宵ちゃん。あなたが来てくれてから、光夢ってすごく元気になったの。友美ちゃんや三咲ちゃんみたいな友達ができて、夜宵ちゃんという身近で一緒にいてくれる子がいてから……」

    ───あの子、ずっと楽しいみたい。

    母親のその暖かい笑顔は、血は繋がっていなくても光夢と似ていた。残された時間が少なく、光夢とは長くいられない───かもしれない。
    その気持ちが今、いつも以上に強くのしかかってきた。

    「夜宵ちゃんさえよければ、これからも一緒にいてあげてね」

    その母親の願いは、夜宵にとって中々に酷なものだった。それでも、理由があっても拒否なんてできない夜宵は頷くことしかできなかった。

    「……ごめんね、長々話しちゃって。夜宵ちゃん、まるで光夢の姉妹みたいで……私も嬉しくなっちゃったのかしら……」
    「ううん、大丈夫。ありがとう」

    光夢の、きっと本人は知らない、本人が知ってはいけないような過去、知られざる真実。それをしっかりと、自分の胸に刻み込んだ。


    ────────────────────
    予定時刻より数分前に設定した目覚ましの音が鳴り、光夢は目が覚めた。
    体を起こして大きく背伸びをする。夜宵は光夢の勉強机にある椅子に腰をかけていた。

    「おはよ」
    「あれ、夜宵もう起きてたんだ?」
    「うん、目が冴えちゃって中々寝付けなくてね」
    「目を閉じたいとか言ってたのに?」

    そう言って光夢はニヤける。言うてお互い様ではあるが。気がつけばもう出かける予定の時間に近づいていた。ベッドから立ち上がった光夢は、水色の水玉模様のパジャマから自慢の私服へ着替えた。

    「……そういえば、夜宵の服って……」

    あんなボロボロの服のまま、しかも似合うとはいえど、周りからどんな目で見られるかも分からない和服のままで外を出歩く訳にも行かないため、自分のクローゼットに身長もそうだが、夜宵の見た目に似合うぴったりな服がないか探してみることにした。

    「なにしてんの?」
    「いや、夜宵にピッタリな服ないかなって……」
    「いやいらないわよ」
    「そうはいかないじゃん!だって結構ボロボロ────」

    夜宵の着ている和服は、ほつれ一つなくいつの間にか元に戻っていた。直した覚えもないため、母親に直してもらったのかと思ったが、そんな話も聞かされていないし、そんな場面に出くわしたこともない。

    「……いつの間に?」
    「こんなのちょちょいと直せるわよ」

    その言い方から手直しかと思ったが、直ぐに夜宵の口からその答えがすぐに出た。

    「私の怪異なりに使える術なりなんなりで」
    「あぁ、なるほど……」
    「なによその残念そうな顔」
    「いや、私裁縫あまり得意じゃないし、らしいテクニックでもあるのかなぁなんて」

    へぇ、珍しいと夜宵は目を丸くした。クラスメイトから、その実、出会ってまもなく友美や三咲なんかからも「家庭科得意そう」などと言われた経験があったが、包丁で野菜を切る時に、まず押さえる方の手を猫の手にすることすら知らないぐらい料理もできなければ、小学生の頃に学んだはずの玉留めのやり方すら未だに分からないほど、裁縫が分からないのだ。

    中学生になっても玉留めの仕方がわからず、隣にいた人に笑われて恥をかいたことをふと思い出してしまい、両手で顔を覆いながらその場にしゃがみ込み、濁点がついたような声で「あ」と言い続けた。

    「急にどうしたのよ」
    「大丈夫……恥ずかしさで死ぬところだっただけ」
    「は?……てかあんたもしかしてさ、靴紐すら結べないんじゃないの?」

    靴紐どころか、そういう靴を履いているところを見たことの無い夜宵に痛いところを突かれ、思わず口から短い濁った声が漏れた。

    「ほんとに……その通り……靴紐解けて一人で結べなくてうじうじしてた時、それを通りすがりの小学生ぐらいの子に見られたことあって……」

    余程恥ずかしかったのか、割と鮮明に残っていた記憶を語る。夜宵は笑うにも笑えず、哀れみの目を向けるしかなかった。

    「……まあ、なんとかなるわよ。うん」
    「……なるかなぁ」
    「保護欲強い人なら好かれるわよ多分」
    「えっ多分?」
    「あーほら時間もないから早く行かない?」

    中々強引に話題を変えて、光夢は戸惑いながら携帯を見た。時刻は既に八時を過ぎていた。

    「そ、そうだね!うん!」

    多分という言葉がまだ引っかかって仕方がないが、今日はとにかく楽しく過ごしたいため、残っている嫌な記憶をふと思い返して苦い思いをしないよう、一度頭を真っ白にして夜宵と共に部屋を出て、階段を降りる。親としての勘が鋭いのか、玄関前に二人の姿が見えてすぐ、「行ってらっしゃい」とキッチンから声がした。二人は当時に、しかし光夢は大きめなのに対して夜宵はやや控えめに「行ってきます」と伝え、家を飛び出した。


    ────────────────────
    「……で、光夢。出かけるとは言ってたけどどこか行きたい場所とかあるの?」
    「まぁ色々とね!」

    ここ、古川市はお世辞にも都会とは言えない、いわば中々な田舎だが、それでもここを知らない人ならばそこそこに見て回れるような場所はある。
    時間が許してくれる限り、巡りたい場所を巡ろうと考えた光夢は、家から近い商店街へと向かう。

    出入口前にある大きな門を潜れば、そこからは年がら年中、古川市内でもかなり賑やかであろう『花和商店街』に入る。
    当然、真昼間なので人は多く、夜宵のその一風変わった姿に戸惑っている人もいれば、なにかのコスプレかと思っているような人もいた。

    「へぇ、随分と賑やかね」
    「でしょ?三咲ちゃんと友美ちゃんと一緒に来たことあってさ、あのときは知らない人に声かけられたこともあったなぁ……」

    思い出話を語っている中、夜宵は辺りをキョロキョロと見回した。

    「……そんな人いるようには見えないけど」

    あれ?と疑問が浮かんだが、すぐにその疑問は解消された。ふと一軒の店前の窓に映った自分たちの姿を見て、夜宵は光夢よりも背が高く、さらにあまり女の子らしからぬ格好もしているため、男だと思われて声をかけられないのだろう。

    「……夜宵ってすごいね」
    「え?別に私なんもしてないけど」

    むしろ、何もしてないからかもしれない。ぼーっと立っているだけで威圧感があるのだろう。

    「……あ!夜宵、服屋でも行かない?」
    「え、服?」
    「うん!夜宵にピッタリな服があると思うんだ!」

    光夢は夜宵の手を握って引っ張り、アパレルショップに入ると、目の前に広がっていたのは、すぐ大きさも違えば様々な色の服や下着などが沢山並んでいた。

    夜宵が呆気に取られて、その様々な服の数に目を回している中、光夢はこっち!と既に先に店の奥に進んでおり、夜宵に手招きしていた。
    下手に服に触らないようにしながら、光夢の方へ向かうと、目の前にはフードに綿毛のようなもこもこしたものが着いている灰色のパーカーが、ハンガーにかけられていた。

    「これ、可愛くない?」
    「え、そう?わかんないんだけど……」
    「これちょっと夜宵着てみてよ!」
    「?まぁいいけど。じゃあとりあえず──」
    「いや待って待って待ってここで服脱がないで!?」

    突然、その場で袖を脱ごうとした夜宵にすぐにストップをかけた。あまりの急な行動に焦りが止まらなかったが、夜宵は首を傾げたままだった。

    「ちゃ、ちゃんと着替えする場所あるから、そこで、ね?」
    「えー、面倒くさ……いいじゃんここで」
    「夜宵は良くても周りは良くないの!」

    危うくここで服を脱いでしまうところだった夜宵を、光夢がパーカーと、ついでに見つけてきた黒いボトムスを持って試着室前に連れていき、すぐそばに居た店員にすぐに声をかけて許可をとってきた。
    光夢がそれを知らせ、夜宵は試着室の中に入ると、すぐに服を脱ごうとしだしたため、素早く光夢はカーテンを閉めた。

    「……ヒヤヒヤする……」

    何故か平穏な時間を過ごしていたはずなのに、心臓の鼓動が止まらない。

    「……着替えたわよ?」
    「お!どれどれ見せて見せて?」

    夜宵はカーテンを開く。黒い髪と赤い目の彼女に可愛らしいパーカーはギャップを感じられる仕上がりになっていた。

    「やった!見た目通り!!可愛い!!」
    「別に私可愛らしさ求めてないんだけど……」
    「え、写真撮っていい?」

    光夢は携帯を手に取り、カメラアプリを起動して夜宵に向けた。

    「写真撮るなら買ってからゆっくり撮ってよ」
    「あ、撮るのはいいんだ。じゃ買っちゃおーっと!」
    「決断早っ」

    息をするようにすぐ判断を下した光夢に、不安が過ぎる。それ幾ら?と聞かれ、光夢は夜宵の今来ているパーカーについている値札を見て、声に読み上げた途端、光夢の動きが固まり、言葉を失った。

    「……や、安い安い!大丈夫!」

    肩から下げている可愛らしいバッグから、自分の財布を取りだして眺めている。

    「……私着替えていい?」
    「うん、大丈夫。ちょっと考える」

    何を?と聞きながら、夜宵はカーテンを閉めて和服に着替え直した。カーテンの向こうから光夢が自分自身と審議して葛藤する声が聞こえてくる。

    「よし買おう!」
    「あっ結局買うのね」

    思ってた以上に早い決断に、あの「ちょっと考える」という言葉はなんだったのかと聞きたくなる。

    「次どうしよっかな〜、夜宵に似合う靴とか……あ、帽子とかも……」
    「……私をなんだと思ってんのあんた」
    「だって夜宵、こんなスタイルも抜群なんだからもっとオシャレすべきだと思うんだよ!」
    「はぁ……」

    お洒落という事にあまりにも興味が無さすぎるがため、ここまで張り切っている光夢に対して、空返事を返すしかなかった。

    「あっ!夜宵夜宵!この帽子とかどう……って、あ」

    光夢は近くにあった白い帽子を持ち、夜宵の頭を見てふと気がついた。夜宵の頭に生えている黒い耳のせいで、帽子がかぶれない。一旦被せて、似合うかどうか確かめたいがためにも、なんとかしてこの帽子を被せられないか帽子と夜宵の頭から生えている耳を重ねて見て考えるが、どうしても帽子を貫通せざるを得なくなる。

    「……その耳隠せない?」
    「無茶言わないでよあんた、犬や猫が自分の耳消せるとでも?」
    「こう、ぺたんって……」
    「疲れるからヤダ」

    夜宵の一蹴で結局、光夢は帽子を被せるのは諦めた。


    ────────────────────
    服の買い物をするだけで、そこそこの時間を使ってしまったが、光夢は満足している様子だった。その楽しそうな様子を見て、正直なところ飽きかけていた夜宵も「まぁいいか」と呟き、その気持ちを流した。

    「あ、夜宵!私、ここで遊ぶのにぴったりな場所知ってるんだよ!」
    「は?人混み溢れる商店街のど真ん中で?」
    「いやちが……ってかそれ危ないっていうか迷惑だよ!?ほらあれ!」

    光夢がそこそこ大きめな建物の屋上に向けて指を差す。目を凝らしても、ここからでは何も見えない。

    「まあまあ、行けばわかるよ!」
    「大丈夫なんでしょうね……?」

    服屋に入り浸っていた前例があるため、半信半疑になっていた。その建物はどうやらデパートのようで、人の出入りも他と比べても多かった。こんな場所に?と夜宵は思いながらも先に進む光夢の後を追って、エレベーターを使って屋上へと向かう。
    一緒に乗っている人達の中には、親に手を繋がれて楽しそうにしている小さい子供もいた。
    途中で人の乗降が挟みながら屋上について扉が開く。思わず、夜宵は言葉を失った。目の前に広がったのは、メリーゴーランドや観覧車、ゴーカートなどが点在する小さな遊園地のような場所だった。
    光夢と共に、一風変わった夢の世界へ足を踏み入れる。

    「ね!すごいでしょ!」
    「これ、どうなってんの……!?私たちデパートに居たわよね!?」
    「そうだよ!ここ、さっきまでいたデパートの屋上なんだから!」

    柵に囲われた周囲を見渡すと、空と大きな山が良く見え、下の方にさっきまでいた商店街まで見える。あまり笑顔を見せない夜宵は、隣で目を輝かせていた。

    「……すご、こんなのあるんだ……!」
    「私、よくここ母さんと一緒に来てたなぁ……さ、一緒に回ろ!」
    「うん!」

    子供のような元気な返事をした。見たこともない純粋な顔をみた光夢は、夜宵に負けず今だけでも小さい子供のようにはしゃいでやろうと考えた。
    小さいレース場でゴーカートを乗り回し、屋上周辺を走るジェットコースターで大声を出し、小休憩で綿菓子を作り、あまり上手くできなかった夜宵の綿あめを見て光夢が笑っていると、そっちばかり気にしていたため、光夢の方まで不格好な形になってしまい、二人して笑った。
    一日でその小さな遊園地を満喫し、気づけば日は傾き始めていた。最後に観覧車に乗ろうと提案し、二人は一緒のゴンドラに乗り、景色を見渡す。

    「はあ〜、楽しかった!」
    「……」
    「……?どうしたの?」

    口元は笑っているのにも関わらず、目元は少し悲しげな夜宵に、光夢は声をかけた。

    「……や、なんかね。こんなに楽しいって思えたのいつぶりかなって思ってさ」
    「夜宵、めちゃめちゃ楽しそうだったもんね!ゴーカートの時なんかもう……」

    ハンドリングとコーナリングが中々に下手で、柵にぶつかりまくっていたのにも関わらず、ずっと「楽しいこれ!」とばかり言ってた夜宵の姿を思い出し、クスッと笑ってしまった。

    「な、なによ……!」
    「んーん、なんでもない!」
    「……はぁ〜、毎日こんな日々か続けばいいのになぁ……」

    夜宵は沈む太陽を見つめながら、ふとそう言った。光夢の方からは長い前髪で隠れており、表情が見えなかったため、どんな心情なのかは読み取れなかった。が、光夢も同じように、明るい夕日を見つめた。

    「……大丈夫。続くよ」

    もうすぐ、今日が終わる。そして七日目を告げるその日で、夜宵がどうなるかが分かる。
    それを考えると、どうしても心がざわめいて仕方がなかった。

    観覧車を降り、屋上にある小さな遊園地と大きなデパートを後にして帰宅する。

    「うーん……!すごい楽しい一日だった!」
    「そうね、ほんとに……───?」

    ふと、夜宵は通っていた学校の方を見て、足を止める。光夢も足を止め、夜宵の見つめている方に目を向けた。

    ───光夢でも、ものすごく嫌な気配がした。
    二人の間にあったはずの、さっきまでの明るかった雰囲気が嘘みたいに一瞬にして消え失せ、一変して重い空気に入れ替わった。

    「……光夢、わかる?」
    「うん、なんとなく……」
    「……光夢」

    ───今夜、学校に向かうわよ。
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