この想いは墓場まで持っていくと決めていた 雨音は重く反響し、雫は重力に従って正しく落ちる。
傘骨の先からぽたぽた正しく溢れるように、「好き」がしょうがなく不可抗力で喉から滑り落ちたらどんなに都合が良いかと考えたこともあった。けれどもうちは世界が変わることをそれ以上に恐れていたからそれをしない。
今宵は雨の重さが、都合良かった。出来心だった。ほんの試しに、そっと歌うように、唇に単語だけの葉音を添えて。
「シキさん、うちな、……」
雨音は重く反響するばかりで、彼の反応はない。ほっとした。今こうして偶然現実になり得ても世界は何も変わらない。
恐怖もましてや期待も浮かばない。
都合が良かった。自分が狡いと思った。だから前を歩くシキさんの足がふいに止まり重い空を見上げるたったそれだけのさまに、滑稽に心臓を跳ね上げた。
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