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    ya_so_yan

    @ya_so_yan

    9割文章のみです。勢いで書いたものを置いておきたい。後でピクシブに移すことが多いです。

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    ya_so_yan

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    バレンタインのジンベル。
    最中ではないけど事後そういう感じです。

    Chocolate truffle「毒が入ってるって言ったら、貴方、どうする?」

     枕を立てかけたヘッドボードにもたれて煙草をんでいたジンは、傍らで猫のように寝そべる女へ横目を向けてから、自身の膝元へ視線を戻す。
     彼も、ベルモットも、裸であるが、二人の腰から下は毛布に覆われている。
     毛布の掛かったジンの膝の上では、高級感のある小箱の蓋が開かれていた。
     枡の目に区切られた箱の中には、トリュフチョコレートが6つ、行儀良く並んでいる。
     日付が変わったところで、バレンタインだからと、ベルモットが寄越してきたものだ。
     同じベッドで夜を跨ぐ二人に相応しいイベントだが、先の質問は如何どうだろう。
     ベルモットは頬杖をついてジンを見上げながら、悪戯っぽく唇を綻ばせている。その唇から危うい問いかけを紡いだのが嘘のような、涼やかな表情だ。
     対して、ジンは事後とも思えない冷めた面持ちで、重い香りのする紫煙を長々と吐き出した。
    「ロシアンルーレットなんぞやりたがるたちだとは、知らなかったぜ」
    「あら、どれかひとつなんて言ってないわよ」
    「ホォー? ご丁寧に6つ全部に仕込むとは、そんなに俺を殺したかったか」
    「どうかしら。自分の胸に手を当てて、よぉく思い返してみたら?」
    「悪いな、過ぎたことは忘れることにしてる」
     戯れな応酬に、クスクスと密やかな笑い声が響いた。

     そう、このまま戯れで済むだろう――十中八九は。
     しかし、ある者は敬意を、ある者は畏れを込めて魔女と呼ぶ女が相手ならば、或いは、もしかすると……その可能性も、完全に捨て切ることができない。

    「黙って食わせねぇと、仕込んだ意味がないんじゃねぇか?」
     試すようにジンが問いを重ねると、ベルモットは尚もクスクスと笑い声を転がしながら、いいえ、と答える。
    「そうやって、貴方が探りを入れてくるのが楽しいもの」
     ジンの鋭い双眸が眇められる――もうこの時点で、魔女の遊びにすっかりと巻き込まれている。それが気に入らないのだ。
     魔女は、男が己を少しも信じていないことを知っている。互いに一糸まとわぬ姿を晒し、肌の隅々まで、もっと深いところまで触れ合っても。
     くだらねぇ、と低く唸りながら、それでもジンはこの遊びから降りようとしてはいなかった。

     ジンは、ベルモットを少しも信じていない。
     秘密だらけの、信用ならぬ女。
     危険な女。

     だからこそ、この魔女を抱く。
     踏み込んで、秘められたものを暴いてみたくなる。
     仕込まれた毒が、知らぬ内に回っているとしても。

     ベルモットは、危険と知りながら手を伸ばさずにはいられない、彼のどうしようもない欲望もよくよく知っていた。
     その欲望は、男の本能から来る単純なものとは異なる、もっと救いようのないものだということも。

     やがてジンは、胸の内に今一度、深々と煙を吸い込んでから、サイドテーブルの灰皿で煙草をもみ消した。
     その指は灰皿から小箱へと移り、チョコレートを一粒摘み上げる。
    「あら、いいの? 一口で天国行きかも」
     歌うような魔女の声を、ジンは口の端を歪めて笑い飛ばす。
    「ハッ、馬鹿言うんじゃねぇ。逝くとしたら、間違いなく地獄だろうが」
     彼の長い指先にも、大柄な体にも、トリュフはひどく小さく見える。
     小さくとも、死神をも殺すかもしれない一粒は、ゴロワーズの苦味に満たされているであろう口の中へ吸い込まれていった。

    「俺も、お前もな」

     情事の最中に囁いたどんな声よりも甘い響きに、魔女が一瞬動けなくなったところを見計らって。
     ジンは彼女に覆い被さり、頭を押さえ込みながら、唇を押し付けた。彼の長髪がブロンドにかかり、銀色と金色が交差する。
     ベルモットの咥内に、男の長い舌が乱暴に押し入る。体温で容易く溶けるチョコレートは、しかし煙草の苦味を完全に隠すことはできなかった。
     甘く苦い味に絡め取られた舌が、痺れるようで。
     本当に毒を仕込んだのかもしれないと、自身の記憶を疑うほどに。

     悪くないかもしれない、と魔女は目を閉じる。
     この味で、彼もろとも地獄に堕ちるなら。
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