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    ya_so_yan

    @ya_so_yan

    9割文章のみです。勢いで書いたものを置いておきたい。後でピクシブに移すことが多いです。

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    ya_so_yan

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    バレンタイン…と言いつつ、ただチョコが出てくるだけのコルキャン。

    Hot Chocolate 眠れない夜がある。

    「キャンティ……ベッドで寝た方が、いい」
     ソファに腰掛けたコルンは、相棒に声をかける。
    「やだよ、まだ眠くない」
     キャンティはコルンの肩に頭を預け、ぼんやりとテレビ画面を見ていた。
    「……面白い?」
    「クソつまんない」
     この深夜帯、まともに機能しているチャンネルはこのくらいだったが、深夜に放映される映画は当たり外れが激しい。今回はキャンティにとって外れだったようだ。
     それでも、彼女はベッドルームへ戻ろうとしない。
     ラフなスウェット姿の二人は、かれこれ一時間はこうしている。

     先に動いたのはコルンだった。キャンティが驚かないよう、ゆっくりと立ち上がる。
     もたれかかっていた華奢な体を起こして、彼女は目元の蝶のタトゥーを羽ばたかせた。
    「寝るの?」
     コルンは緩く頭を振って、キッチンへと向かった。

     程なくして戻ってきた彼の大きな両手は、湯気の立つマグカップをそれぞれ運んできた。
     ソファで膝を抱えていたキャンティは、すん、と小さく鼻を鳴らして、相変わらず展開の単調な映画から目を離す。
    「なんだい、酒じゃないのかい」
     文句をこぼす彼女の表情は、しかし、さほど不満そうではない。
     再び隣に腰を下ろしたコルンから、素直にマグを受け取って、すぐさま口をつける。
    「……甘すぎ」
     唇を濡らした濃厚なチョコレートをぺろりと舐めながら、キャンティは呟く。けれどその目つきは穏やかだった。
     コルンもマグを傾ける。
     暖かくて、とろりと甘い。
    「これ飲んだら、眠れそう?」
     キャンティが問うと、コルンはしばらく黙っていた。

     眠れない夜がある。
     例えば、静かすぎる冬の夜。
     どうしても、コルンは寝付けなくなることがある。
     翌日に仕事がある時は、少しでも休息をとらねばと、目を閉じて朝までただじっとしている。
     だが今夜のように、明日は何もないという夜、コルンはベッドを抜け出す。
     そしてリビングでテレビをつけて、ただじっとしている。場所を変えただけで、あまり変わらない。
     ただ、時間が過ぎるのを待っている。

     キャンティは朝まで気づかず眠っていることもあるが、ふと目が覚めて、隣が空っぽになっているのを見つけることがある。
     そんな時は決まって、彼女もリビングにやってきて、コルンの隣に座る。
     そして、眠気眼ねむけまなこで言う。まだ眠くない、と。

    「ごめん」
     コルンが呟くと、キャンティはむっとして、肘で脇腹を小突いた。
    「馬鹿……次、また謝ったらぶん殴るよ」
     威勢のいい調子に反して、瞼が半ば下りている。
     それでも、彼女はコルンの隣を動こうとしなかった。
     寄り添って、共にホットチョコレートを飲んでいる。

     コルンは瞼を閉じてみる。
     音量をしぼった映画の台詞やBGMと、キャンティの息遣いが聞こえる。
     ジンジャーヘアが肩をくすぐって、体がぴたりとくっついている。
     己以外の体温が心地いい。
     
     けれど、やはり眠れそうにない。

     伝わってくる息遣いが規則的になっていることに気づいて、目を開けて隣を見遣る。
     コルンの大きな体にすっかり身を預けて、キャンティは眠っていた。
     空になったマグカップが両手から落ちそうになっていたので、そっと取り上げてテーブルへ。

    「……ごめん」
     もう一度謝れば殴ると言われていたにも関わらず、コルンは呟く。
     キャンティは気づかずに寝息を立てている。

     華奢な体を抱えて、寝室へと戻った。
     彼女をベッドに横たえて、自分も隣に潜り込む。

     コルンは、眠れない夜、ベッドでじっとしていることが好きではない。
     覚醒したままの頭に、さまざまな記憶が好き勝手に浮かんでは消えていく。

     今はもうどこにもない故郷や、顔も思い出せない家族の影。
     戦場の風景や、倒れていく仲間たち。
     今はもういない、友達のこと。

     どれも、思い出せば思い出すほどに、空虚ばかりが胸を穿つ。
     ただでさえ希薄な、己の何かが、いっそうすり減っていく気がする。

     けれど、と腕の中を覗き込む。
     抱き締めたキャンティは、眠りに沈んでいても、自らコルンの胸に頬を寄せてくる。

     たとえ眠れなくとも。
     悪い夢のような記憶に、一晩中うなされても。
     彼女がいれば、辛うじて、すり減って消え去ることはないと思えるのだ。

     三度目に、ごめんといいかけたコルンは、一度口を閉じた。
     それから。
    「……おやすみ、キャンティ」
     ジンジャーヘアに顔を寄せると、ほのかにチョコレートの匂いがした。
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