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    ya_so_yan

    @ya_so_yan

    9割文章のみです。勢いで書いたものを置いておきたい。後でピクシブに移すことが多いです。

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    ya_so_yan

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    組織集合飲みの席話、1/3。
    🐬さんとピス氏がお話ししてるだけ。
    うーっすら🐬🐏とピスリシュ要素。

    飲んでも飲まれるな〜assortment〜1/3「やあ、奇遇だね」

     高級車を降りてきて、帽子を脱ぎ礼儀正しく挨拶してくる老紳士に、キュラソーは面食らって立ち尽くした。

    「ピスコ? えぇ、本当に奇遇ね……」

     咄嗟に、周囲の様子を探る。
     深夜の街角。ほとんどの店は閉まり、他に人通りもない。

    「そう警戒しなくとも、私ひとりだよ。今夜は私用だからね」
    「そんな、警戒だなんて」

     するに決まってるだろ、と内心毒づきながらも、キュラソーは微笑んで見せる。
     No.2のラムほどではないが、この古株の幹部もまた、組織内ではかなりの有力者。普段あまり気軽に顔を合わせるような相手ではない。任務でもない時に偶然出くわすというのは、どうにも出来すぎている。
     とはいえ、実際に彼はひとりのようだった。暗がりに部下が潜む気配もなく、いつも傍らに控える息子同然の男の姿もない。

    「しかし、こんな夜更けに女性だけというのは心配だ。お節介な老人に免じて、送らせてもらえるかな?」

     キュラソーが決してか弱い女ではないことを承知の上で、ピスコが申し出る。紳士的な微笑みの下にどんな思惑があるのやら。

    「まあ、ご親切に。それじゃあ、エスコートをお願いできる?」

     表面上にこやかに受け入れながらも、その実、キュラソーは油断することなく彼の意向をうかがっていた。


     組織内でも素顔を知る者すら限られるラムについて探るべく、側近であるキュラソーに近づく者は後を絶えない。だから彼女は、己に近づく者をまずは警戒する。
     これは彼女が仕えるNo.2というポストを守り、ひいては組織を守るため――そして、ラムその人を守るためでもあった。


    「君がラムのもとで働くようになって、もうどれくらい経つのか……すっかり頼もしくなったものだ」

     革靴とヒールの音が響くほど静かな夜道を並んで歩きながら、面倒見のいい好々爺の口振りでピスコは話しかけてくる。
     キュラソーの行き先が徒歩圏内だったため、そして密室で二人きりになることを念のために避けて、車には乗らなかった。ピスコも自身の目的地へ歩いて向かうつもりだったからと、快く夜歩きを受け入れた。

    「なんだか恥ずかしいわ。昔の私は未熟で……子ども同然だったもの」

     キュラソーは苦笑しながら、あの頃よりも長く伸びた髪を耳に掛け直す。
     彼女がラムの側近になった経緯を知る者は、組織内でもそう多くない。ピスコはその数少ない者の一人だ。弱味を握られている……というほどのことでもないが、情報の力が時に銃より勝ることを、あらゆる情報を記憶できるキュラソーはよくよく理解している。
     そのため、自身の過去についてあまり触れられないよう、しかしあからさまに話題を逸らさないよう、少しばかり方向性を変える。

    「ラムには感謝しているわ。彼が私を育ててくれたんだもの……貴方がアイリッシュを育てたようにね」
    「さて、うちの愚息を君と並べてよいものか……」
    「謙遜しなくていいのよ。自慢の息子でしょう」

     参ったな、と、ピスコは髭に覆われた口元を緩め、肩を竦めてみせる。
     アイリッシュがどれほどピスコを慕い、日頃から傍近くついて回っているか。そして、ピスコもアイリッシュをいかに重宝しているのか。組織で知らぬ者はいない。
     とはいえ、別々の仕事につくことも、当然あるわけで――

    「そういえば、君は先日、あいつと仕事で一緒だったね。世話を掛けなかったかな?」
    「とんでもない。頼もしかったわ」

     嘘ではない。今のところ、キュラソーはまるきりの嘘はついていなかった。
     お世辞抜きで、アイリッシュは優秀な男だ。
     逞しい体躯に現場慣れした身のこなしで前線に立つだけでなく、対照的に細やかなサポートもできる。痒いところに手が届くと言うのか、共に組むと仕事がやりやすい。最近の任務でもそれを実感したところだ。

    「さすが、貴方に仕込まれてるだけあるわね」

     自尊心をくすぐる言い回しを選べば、アイリッシュが父と慕うその男は、満更でもなさそうに目を細めた。

    「本当は現場の仕事だけではなく、取引関係も任せたいが、その辺りは経験不足でね……まだまだ未熟者だよ」
    「厳しいのね。でも、期待してるからこそでしょう?」
    「はは、否定はできないな」

     ピスコがはにかむ。その表情は、何か思惑あってのものには見えなかった――つまり、息子を褒められた父親のような、ごく自然な反応。
     そんな反応をされると、警戒心の強いキュラソーとて、つい毒気を抜かれそうになる。意図的にやっているのだとしたら、恐ろしいものだ。
     気づいた時には、キュラソーは少し口が軽くなってしまったのだから。

    「愚息って言うなら、ピンガよ……私から見れば、愚弟と呼ぶべきか」
    「ああ、少し前にラムが見出した若者かね? 優秀だと聞いているが」

     溜め息混じりにこぼされた名前に、ピスコの興味が向けられるのがわかる。
     ピンガはラムから直々にコードネームを名付けられ、二人目の側近の座に収まった、キュラソーと並ぶ異例の抜擢を果たした新人だ。組織内の誰もが注目している。

    「まあ、使えないことはないけど……」

     キュラソーは言葉を濁す。情報漏洩を危惧したからではない。
     同じラムの側近として、彼女の後輩というべき青年を思い浮かべて、腹立たしい思いが蘇ったからだ。眉間に皺が寄ってしまう。

    「この前も潜入先から逃げる時、私が追っ手を片付けてあげたのに、当然みたいな顔して……」

     おや、とピスコが軽く目を見張る。

    「彼はIT系に強いのだったね。荒事は苦手なのかな?」
    「いいえ、独りで充分戦えるわよ。稽古だってつけてあげてるし……なのに、面倒はすぐこっちに丸投げしてきて……」

     キュラソーの声が次第に低く、比例して表情も険しくなっていく。
     脳裏に浮かぶ、生意気な笑みを浮かべたコーンロウの青年に。

    「自分がヘマしたくせに、『見られた、始末しろ』だとさ……あのクソガキ──」

     キュラソーはそこで我に返り、口調が荒くなっていることを自覚する。
     隣をうかがえば、ピスコはこちらを見つめている。微笑ましそうに相好を崩して。

    「なるほど。君も、彼にはずいぶんと厳しいようだ」
    「……ラムが甘やかすから……」

     警戒していたはずの相手の前で感情を露わにしてしまった。その焦りと決まり悪さから、視線が泳いでしまう。
     老紳士は、なるほど、と鷹揚に頷いた。

    「つまり、君も彼には期待しているということだね?」

     自身の言葉をそのまま返されて、キュラソーはぐっと唇を引き結んだ後――深々と溜め息をついた。

     ……悔しいことだが、己がまだまだ未熟であることを思い知る。

    「私、貴方が苦手だわ、ピスコ」
    「おや、それは残念……ふふふ」

     品のいい笑い声を聞きながら、どうやらこの男に何を装っても無駄らしいと、キュラソーは肩の力を抜いた。
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