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    ya_so_yan

    @ya_so_yan

    9割文章のみです。勢いで書いたものを置いておきたい。後でピクシブに移すことが多いです。

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    ya_so_yan

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    闇オクで司会のウオツカくんが兄貴に買われるまでの話、4話。
    今回、展開として「ハァ?」って感じだと思うので、とりあえずテキおじと兄貴の部下(アンネームド下っ端くんたち)の教育方針の違いイメージをメインとさせてください。
    ※アンネームド魚塚くん
    ※陽気なテキおじ
    ※正気じゃない兄貴

    オークショニア④ その日、会場に配置されたスタッフがいつもの面子と違っていることに、魚塚はすぐに気がついた。

     スタッフと言っても、客の案内や商品の運び込みをするだけの人手ではない。紛れ込んだ不届き者――つまりは警察の潜入や敵組織のスパイを見つけ次第、“丁重に”“別室へ”ご案内するという役目もある。
     これまでのスタッフは全員、テキーラ直属の部下たちだった。急きょ参加した魚塚のことも快く受け入れてくれた、気のいい面々だ。それでいて、敵対者を排除することに何ひとつ躊躇しない、容赦のなさもある。上司の性質を反映しているのかもしれない。
     “遠慮せんとこき使ったってや”とテキーラ直々に言われていたので、お言葉に甘えて時に顎で使うような真似もしていたが、文句ひとつ言われたことはない。魚塚にとっては付き合いやすい連中だった。

     ところが、その日のスタッフたちは初めて見る顔ばかりだった。

    ≪いや~堪忍やで魚塚クン! 今日のケツ持ちはオレやないねん。急やったから事前に連絡でけへんかった≫

     オークションが始まる前に連絡を取ったテキーラは、端末の向こうからダミ声で何度も“堪忍やで”と謝ってきた。

    ≪別の仕事にえらい問題起きてもうて、オレも部下も総当たりで対応する羽目になってなぁ……せやけど心配すんな、代わってくれたヤツも“やり手”やからな。そいつの部下も、みーんなよう教育できとるはずや≫
    「は、はあ。確かに、仕事は文句のつけようもありやせんけど」

     事実、手際のいいスタッフばかりで、魚塚が何か言う前にすでに手配が済んでいる雑事も少なくない。まるで以前からこの仕事についていたかのようだ。
     ただ、愛想がいいとは言えない。必要最低限の会話しか受け答えせず、交流を持とうという気が感じられない。無駄がないと言えばその通りだし、こんな稼業の人間たちなのだからむしろ褒められたことかもしれないが、ひどく不愛想……というか、陰気な連中だと思った。ただ命令をこなすのみ、という無機質な、温度のなさがあった。
     “けど”で濁した言葉の先を察したらしく、テキーラが苦笑する気配がした。

    ≪あー、教育方針だいぶ厳しいらしいからなぁ……ちょっとでも不出来な部下は片っ端から切り捨ててまうんやと。せやから、みんな怖がって、完璧に仕事しようと必死なんやろ。無駄が嫌いなだけや、なんて本人はよう言うけど≫
    「へぇ……旦那とは全然違った方なんですねぇ」
    ≪なんやて、誰が無駄多いねん≫
    「おっと、口が滑りやした」

     すっかり軽口のやり取りも慣れたもので、テキーラがガハハと笑う。

    ≪……まあ、部下だけやのうて、オレかておっかないって思う時あるわ。あんな調子やから、ジンの奴、誰も一緒に組みたがらへんのや。心配になるわ、ほんま≫

     テキーラの世間話じみた調子に相槌をうちながら、
     ――ジン。
     それが今日、このオークションの背後についている幹部のコードネームなのだと、魚塚は知った。



    (まぁ、いつも通りやるだけだ)

     オークションの開始時刻が近づき、舞台袖で出番を待つばかりとなった魚塚は、緊張しつつもそう思い直すことにした。
     顔ぶれが違おうと、ボスが変わろうと、自分の仕事は変わらない。
     付け焼刃の知識と調子のいい口とで、客を煽ってけしかけて値を吊り上げて、金を落とさせる。何も変わらない。
     落ち着かない自身を宥めるように、申し訳程度とは思いながらも、身なりを整える。
     ワックスで固めた髪にほつれがないよう、頭を撫でつけて。
     そうして、安物のスーツの衿に手をかけた時――

    “もっとマシな服を着るんだな”
    “今にもはちきれるぜ”

     耳の底に蘇ってきた低音に、心臓が跳ねる。
     その時ほどではないが、込み上げる羞恥に、僅かに顔が火照った気がした。

    (なんでだよ、馬鹿馬鹿しい……)

     どうかしている、と頭を振る。
     あれから、あの黒澤とかいう男が脳裏から離れようとしない。
     結局、何のつもりで現れたのかもわからなかった。本当に人身売買が目的で近づいてきたのか、魚塚の気づかぬ何かに探りを入れたのか……。
     後でテキーラに尋ねることもできず、“怒らせへんかったか”と問われて“大丈夫だと思いやす”と答えることしかできなかった。なんとなく、詳しく触れることを躊躇った。
     疑問が解決していないために引っかかっているせいもあるが、何よりも――

     忘れられないほど、異質で強烈な存在感の男だった。

     それで、こうしてその発言を思い出して、その時に喚起された感情に振り回される体たらく。恋する乙女かよ、と腹の中で自分を揶揄してみても、笑えない。
     さらに始末の悪いことに、かなり高い確率で、あの男は今日、この会場に来ている。なんせ、建前だろうがなんだろうが“下見”に来たのだから。

     そんなわけで、魚塚は余分な緊張を強いられていた。
     重い溜息がこぼれる。

    (……いつも通り、やるだけだ)

     もう一度、己に言い聞かせると、魚塚はステージへと踏み出した。



    「紳士淑女の皆様、お待たせいたしました!」

     マイクとハンマーの置かれた司会者の台までやってくると、いつも通りの笑顔と、低いけれど軽い声で、客席へと呼び掛けた。
     今日は妙に客のざわめきが耳につくなぁ、なんて思いながら、口上を続けようとした――その、直後。

     心臓を掴まれるような心地を覚える。
     ほんの数秒、息が止まった。

     いる。
     いや、いることはわかっていたが。
     見つけてしまった。真っ先に。

     ほの暗い客席。浮ついた視線と顔ぶれが並ぶ中。
     ただ一人、冴えた表情。
     その長髪は暗がりに沈んで、銀色を鮮明には見とめられないが、それでもわかる。
     あの男が、ステージからほど近い席に陣取っていた。
     舞台上の魚塚からもよく見える。これから名品と大金が動くというのに、そんな高揚感は全くうかがえない、ひどく冷めた、恐ろしく美しい顔が。
     こちらを、じっと見ている。

    (落ち着け、落ち着け――仕事をやれ。いつも通りの仕事だ)

     バクバクと破裂しそうな勢いの心臓をどうにかおとなしくさせたくて、男から目線を引き剥がし、再び繰り返し己に言い聞かせる。
     深呼吸してから、強張りかけていた笑顔で、彼をなるべく視界に入れないようにしながら、口を開く。若干声が上擦ってしまうのは、もうしょうがない。

    「本日もまた、他ではお目にかかれない出会いをお約束しましょう。どうやら今回は特に心待ちにしておられるお客様が多いようですので、長々とした前置きはなしにして――さっそく、本日最初の逸品をご紹介いたします!」

     そうして、意気揚々を装って、いつも商品が鎮座しているステージ中央を手のひらで示してみせた。


     そこには、何もなかった。


    「……は?」

     思わず、間の抜けた声がこぼれる。
     いつもなら、すでに絵画なり骨董品なりが鎮座しているはずなのに、何もない。
     客席がざわめいているのも当然だ。おかしな事態にどよめいているのだ。何かの余興だと思っている客もいるようで、それほどの騒ぎにはなっていないが。

     魚塚は手を伸ばした体勢で硬直したまま、頭の中では思考をフル回転させた。
     どういうことなのか。いつもスタッフが最初の品の設置を済ませているのに。こんなことは今までにない。いつもと顔ぶれが違うせいか? つまりはミスか。いや、あの陰気だが優秀なスタッフたちが? 他の手配は完璧なのに、よりによってこんな手違いを?
     ――結局、答えの出ないまま空回りするばかり。
     得意の弁舌でカバーすることも忘れて、魚塚はすっかり呆然としていた。



    「500万」

     地を這うように低く、しかし大気を裂くように鋭く、声が響いた。

     魚塚は、聞き覚えのある声の方を勢いよく振り返る。

    「500万からのスタートだ」

     あの男だ。長い脚を優雅に組んで席に落ち着き、暗がりからステージを見据え、オークショニアが競りの口火を切る時のような台詞を発した。
     彼に集まりつつある、ひどく訝しげな周囲の視線など、ものともせずに。

    「お……お客様? 申し訳ありやせん、ちょいと手違いがあったようで」

     まだ商品が出ていないので、と何とか声を絞り出す。
     しかしそんなことはお構いなしに、魚塚とは異なる音域の低音が続ける。

    「まだ、それじゃァはした金か? いいだろう、700万だ」

     会場には更なるざわめきが広がっていく。だが、なぜか男の声はハッキリと聞き取ることができた。
     ただ、聞き取れるのと、意味がわかるのとは別の話で。

    「はぁ……? いえ、あの……」

     魚塚は目を白黒させて、意味のない音を発するばかりだった。
     そんな魚塚に、男は首を傾げて見せた。
     長い前髪がさらりと揺れる。

    「ホォー……まだまだ足りねぇときたか。わかった、1000万」
    「ま、待った! 待ってくだせぇ!」

     魚塚は台に両手をついて身を乗り出し、口調を取り繕うのも忘れて慌てて制する。

    「なんだ。値が決まったなら、そのハンマーを叩けばいいだろうが」

     男は軽く顎を上げ、さも当然のこととばかりに、呆れさえ含んで言い放つ。

    「っ……」

     魚塚は、ほとんど無意識のうちに、太い首を締め付けるネクタイを無造作に引っ張って緩めていた。

     競り落とされる商品もないまま、急速に上がっていく金額。
     何かの冗談としか思えない。失笑して受け流せばいい。
     なのに、なぜか、ひどい焦燥感がする。
     得体の知れない予感がする。

     魚塚は、己がステージにいて、司会者を装い、大勢の客を前にしていることも忘れて。
     ただその男ひとりに問いかけた。
     引きつりながらもへつらった笑みを浮かべながら、恐る恐る。

    「旦那ァ……いったい、何に値をつけてらっしゃるんで……?」

     男の双眸が、すうっと細められる。
     薄く形のいい唇が、にぃっと弧を描く。
     美しくも凶悪な笑みに、魚塚は震え上がる。




     ――答えを聞く前に、会場の扉が勢いよく開け放たれた。
     客も魚塚も、ほぼ全員がそちらへ視線を引っ張られる。

     黒服の男たちが、ドカドカと押しかけてきた。
     魚塚は一見して彼らが堅気ではないとわかった。そして、すぐさまその目的を悟り、ぎょっとする。

    (やられた――!)

     散々気をつけ、不穏な芽を摘んできたはずの、敵対組織の妨害。
     いや、もはやこれは殴り込みだ。ここまで思い切ったことをするなんて。
     予想だにしなかった強硬手段に、今し方までいっぱいいっぱいになっていた例の男のことすら、意識から飛んだ。

     魚塚が対処を考える暇もなく、男たちはそれぞれ銃を構えて

     
     次の瞬間、客席から立ち上がった長身の男が、仕立てのいいスーツの懐から銃を抜き、男たちを振り向きざま即座に発砲した。
     一連の動きは一切の躊躇なく、待ち構えていたかのように正確で、あまりに素早かった。首の後ろでくくられた長髪が遅れてふわりとなびくのが、魚塚の目にやけにゆっくりと映った。銃声すら、会場に反響するのが遅れた気がした。
     放たれた弾丸は、男たちのうち一人の額を撃ち抜いていた。




     そこからはもう、収拾がつかなくなった。
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