青い監獄の初日から気になっていた理由(仮) 此処は何処だろうと潔はグルリと辺りを見渡した後、目の前の学校の名前を見た。
「白宝高校って確か凪と玲王の…。此処に来ちまったのか…」
正直、約一年前の世界と言ってもどの場所に来るかは予想付かなかった。
否、玲王からの説明の途中なのに潔がはしゃぎ碌に説明も訊かずに過去に来てしまったのが原因だろう。
御影コーポレーションは面白い機械を作っていた。それは過去に行ける機械であった。
しかし実際は精神というか一番近い感じだと幽体が過去に行く感じなのかもしれない。
それでも過去の人物はきちんと未来の人物を見れるし会話も出来るが触れる事は不可能であった。
そして実験としてちゃんと幽体が過去に行けるかを試すという事で潔はハイテンションで立候補し碌に説明も訊かずに操作をし『じゃあ、行って来まーす!』と言った。
確か玲王が焦った様子で『待て!まだ説明が…』と言い凪に至っては呆れた表情をしながらも『大丈夫、俺も居るし』と言っていた気がする。
「そういえば凪の俺も居るってどういう意味だったんだ?」
この場所は凪と玲王が通っている高校だと解っていてもぶっちゃけ土地勘も無いしどうしたらいいかも解らない。
こんな事ならちゃんと玲王の説明を訊いておけば良かったと潔は後悔し頭を抱えた。
「あーー!どうしよう!玲王ー、凪ー、助けてくれー!!いや、凪と玲王じゃなくてもいい!この際…」
「お前、何?」
「え?」
明らかに潔に向けての言葉を向けられ、その声に何か聞き覚えがあり過ぎると思い潔はその声の主と声の主が負ぶっている人物を見て目を開いた。
「玲王、凪…」
その二人は白宝高校の制服を着用した凪と玲王であり、この二人と初めて会った時も玲王が凪をおんぶしていたしこの二人にとってはこれが当然なのだろうと改めて思っていた。
「ねぇ、レオ、この人誰?」
「いや、俺も知らねぇけど俺達の名前を呼んでたな」
この凪と玲王は一年前の凪と玲王である為、潔を知らないのは当然だ。
因みに潔は何故、一年前の凪と玲王だと解っているかというと一年前の過去に設定したからだ。
それよりも全く興味無さそうな過去の凪は兎も角、過去の玲王は明らかに警戒している事に潔は苦笑した。
「ああ、いや、悪い。人違いしただけだ。じゃあな」
正直、この状況を説明したところで信じてくれるかどうかも解らないし説明するとしたら未来の話を少しはしなければいけないだろう。
無闇に未来の話はしない方がいいのかもしれないと思い誤魔化したが玲王の不信感は消えなく潔に冷たい眼差しを向けた。
「人違いとか嘘だろ?お前、俺等の事を知ってんだろ?此処で凪と玲王って俺等しか居ねぇんだよ」
「いや、違う。本当にお前等を呼んだ訳じゃないんだけど」
「誤魔化すなよ。何かのスパイか。俺等を狙ってんのか?それとも狙いは俺か?そして一緒に居る凪にも何かしようってか?」
「え?そこまで深く考えんの?」
この目の前の玲王に対して恐怖心を抱いてしまう。
知り合ったばかりの時の玲王も敵対心を向けてきたのは覚えているが、あれは潔が凪に対して怒りを向けていたからだろう。
正直、面倒臭いしどうしようと思い潔は取り敢えずこの場から逃げようと思い踵を返した。
「マジ悪い!でも信じてくれ!俺は怪しいもんじゃねぇから!じゃ!」
「はぁ?そういう事言う奴に限って怪しいだよ!あ、待て!凪!降りろ!逃げられる!」
「えー?やだ。歩きたくもないし走りたくもなーい」
(ナイス!凪!そのまま駄々捏ねといてくれ)
今程、凪の駄々をナイスと思った事はないと思い潔はそのまま逃走する事にしたが背後から玲王が凪を背負ったまま走って追い掛けてきた。
「待ちやがれー!!てめぇ!」
(嘘だろ?凪を背負ったまんま?しかも普通に速いし)
それでも凪を背負っている分、そんな簡単には追い付けないはずだと思っていると背後の玲王達より後方から声が聞こえた。
「潔ーー!何してんのー?鬼ごっこー?」
潔を呼ぶ聞き覚えがありすぎる声に潔はピタリと止まると潔を追い掛けていた玲王もピタリと止まり驚いた表情で背後を見たが、その人物は猛スピードで玲王達の横を通り過ぎ潔の目の前でピタリと止まった。
「もう俺、サッカー以外で極力走りたくないんだけどさー」
「凪?」
「ん?何?潔」
目の前の人物は潔が良く知る凪で間違いなく潔は凪を見上げ目を見開いた。
「お前、何で?」
「潔追い掛けてきたんだけど?だって潔、レオの説明、碌に訊かずに来ちゃったでしょ」
「ああ、あの時、お前が俺も居ると言ったのはお前も俺を追い掛けて過去に来るからという意味だったのか」
「そうだよ」
「そうだったんだな。正直助かったよ。あの過去の玲王に殺されるかと思った」
「てか、何でああなってたの?」
凪がふと背後の過去の玲王と凪の方を振り返り訊いてきた。
案の定、過去の玲王は潔の前に居る凪を見て驚愕した顔をしているし玲王に背負われてる過去の凪でさえ目を見開き驚いた顔をしている。
「いや、俺が訳分かんなくて独り言のように凪と玲王を呼んだんだけど、偶然、アイツ等が通りかかって俺、不審者扱いされて追い掛けられて…」
「ああ、成程ね。確かに過去の俺達は潔の事知らないしね」
「そうなんだよ!未来の事話してもいいのかも解んねぇし…」
「その事なんだけど未来の事を話しても問題はないよ。俺達が未来に戻ったら自然に過去で関わった人達は少しずつ記憶なくしていくみたいだから」
「そうなんだ…」
「てか、レオがそれ説明しようとしてたんだけど碌に説明訊かず潔が過去に行っちゃったからさ…」
「それはごめんなさい…。何か過去に行けると思ったらついはしゃいじまって…」
「ま、俺は別にいいんだけど…。何で過去でもこの場所に辿り着いたか潔は分かる?」
「えーと、一年前に設定はしたんだけど何でこの場所に辿り着いたかは解んねぇ…」
「ふーん、どうせ後で解る事だしいいや。それより潔、走って疲れたからおんぶしてー」
途端に凪は何時も如く潔の背後に回り潔を後ろから抱き締め体重を掛けてきた。
「おい!凪!重い!てか、俺等、精神体か何かなのに普通に重さ感じんのな!」
「あー、それは同じ世界の人間同士はね。だから俺と潔はお互いに普通に触れるし重さも感じるよ。ただ、未来の人間と過去の人間は生きる世界も違うし俺等は精神体だから過去の人物が俺達に触れる事は出来ないけど…」
「確かそうだったよな」
「だから潔があの過去のレオに殺される事は絶対にないから」
「だよな。何か凄ぇ怖くなって条件反射のように逃げちまった」
「レオに対して恐怖心抱くとか大丈夫?潔ってそんなに怖がりだったっけ?」
「いや!お前、マジで怖かったんだって!それこそ一番最初に玲王に敵対心持たれてた時よりも命の危機を感じたぞ!」
「あー、あれだ。玲王ってお金持ちじゃん?昔訊いた事あるんだけど金持ちの息子だからって結構狙われてたらしいよ。だからじゃない?」
「あー!それか!サンキュー!凪!何か理由解った!」
確かに金持ちは狙われやすいと訊いたし身代金の要求で金持ちの子供が誘拐される話も訊いた事がある。
玲王は実際にそれがあったから玲王や凪を知っている潔を警戒したのだろうと納得しふと過去の玲王と凪を見ると玲王は呆然とした顔で潔を抱き締める凪を見ていた。
「お前、凪なのか…?」
「そうだけど」
「未来から来たって、え?ちょっと説明してくれ」
「えー?やだ。面倒臭い。俺と潔の話訊いてたんじゃないの?じゃあ説明する必要ないよね?」
「おい!凪!お前、玲王だぞ?過去の玲王に向かってその言い草はないんじゃねぇの?」
普段の凪の面倒臭さが炸裂し過去の玲王に冷たい言い草をした為、潔は窘めると過去の玲王はふと笑みを浮かべ過去の凪を背負ったまま此方に歩み寄ってきた。
「うん、確かにお前は凪だな。未来の凪に会うって何か変な感じだな。一年後の凪だって?」
「あれ?あっさり信じるんだ」
「だってな、お前どう見ても凪だしさっきのお前等の話も全部訊いちまったし」
「あっそ。ま、そういう事だから」
「へー。んで、お前は潔って言うのか?未来の凪の友達か?あの他人に興味ない凪に未来では俺以外の友達が出来るなんてな」
意外と友好的に過去の玲王に話し掛けられ潔は目を見開くと過去の玲王は苦笑していた。
「あ、さっきは悪かったな。つい俺や凪を狙ってる怪しい奴だと思っちまったから」
「いやいや、大丈夫!それは俺が悪かったから!えーと、俺は潔世一。未来での凪と玲王の友人だ」
「あれか?未来でお前が俺と仲良くなってそれで凪とも仲良くなった感じか?」
「え?いや、違う。寧ろ逆」
だって潔は知り合ったのは同時でも先に仲良くなったのは凪の方で間違いないだろうと思い言うと過去の玲王は心底驚いた表情をしていた。
「え?嘘だろ?じゃあ未来でお前と凪が仲良くなって、それで俺ともってか?何度も言うけどあの他人に興味ねぇ凪が?寧ろ凪とどうやって仲良くなったんだ?」
「えーと、知り合ったのは凪と玲王同時だったんだけどさ俺は凪と先に二人になる機会があって…。寧ろ俺、その時、玲王には凄ぇ憎まれてたし」
「あ、マジ?何かあったのか訊いてもいいか?」
「えーと…」
まさか此処まで過去の玲王が潔に対し友好的に話し掛けられたのが意外であり少し嬉しく思いながらも青い監獄の事から話そうかと悩んでいると凪が潔の頭に頭を乗せてきた。
「ねー、潔、そんな話しなくてもいいじゃん。つまんない。構って」
嗚呼、凪の甘えが始まったと思い潔は苦笑し右手を上げフワフワした凪の頭を撫でた。
「凪、お前なー、過去の玲王が質問してんだから少し待てねぇのかよ?」
「そんなの俺はどうでもいいし。どうせレオももうすぐしたら来るしレオが質問に答えたらいいんじゃない。レオなら教えてくれるよ」
「え?玲王も来んのか?」
「マジ?未来の俺も来んの?」
「何か俺と潔だけじゃ心配だとか言ってたー。俺は潔と二人だけでいいのにー。ぶっちゃけレオも来るなんて超邪魔ー」
過去の玲王や凪をまるで居ない存在見たいに扱う上に玲王を邪魔扱いする凪に対し潔は顔を顰めた。
「お前、何言ってんの?玲王はお前の相棒で親友だろ!」
「そうだけど俺にとっては潔の方が特別だし」
「そう言って貰えるのは嬉しいけど付き合いが長い玲王を邪魔扱いすんのは違うだろ!」
「えー?何?潔、説教?めんどくさーい」
「凪!!てめ…っ」
「あー、待て待て!」
凪をキツく叱ろうと思い声を上げると過去の玲王が慌てたように止めに入り潔は言葉を飲み込んだ。
「えーと、そんだけ凪はこの潔って奴の事が大事なんだろ?凄ぇ懐いてるみたいだし。俺、凪が俺以外にそこまで懐く友達が出来た事に何か嬉しいんだよ!だからきっと未来の俺もそう思ってるし気にすんなよ!えーと、潔は未来の俺の為に怒ってくれる良い奴だっていうのも十分解ったし」
余りにも過去の玲王が良い事を言ってくれる為、潔は感動した。
「サンキュー。まさか過去の玲王が此処まで良い奴なんて思わなかった。俺、凄ぇ玲王に憎まれてたのに」
「てか、未来の俺に憎まれるなんてマジで何があったんだ?」
「潔、違うよ。お前は俺に巻き込まれただけでレオが本当に憎んでたのは俺の方だから潔は気にする必要ないよ」
「え?未来の俺が本当に憎んでたのは凪の方?んで、コイツは凪に巻き込まただけってマジ、何があったんだ?」
確かに玲王が本当に憎んでいたのは凪の方だと言われても納得はいくが凪に巻き込まれただけとも思えなく潔は苦笑すると過去の玲王の背後の方から自分達を呼ぶ声が聞こえた。
「おーい、凪ー、潔ー、何してんだ?」
その声は目の前の過去の玲王と同じ声をした人物であり潔も凪も過去の玲王も過去の凪もその声の主の方に顔を向けた。
「あ、玲王」
「レオ」
その人物は勿論、凪と潔を追ってきた玲王であり玲王は過去の自分と過去の凪を完全スルーし潔達の前にやってきた。
因みに過去の玲王と過去の凪は玲王を見て再び目を見開き今まで無言を貫いていた過去の凪が漸く口を開いた。
「俺とレオが二人居るって凄ぇシュールじゃん」
「だよな」
過去の凪の言葉に過去の玲王は同意していたが玲王も凪も過去の自分達に興味ないようであった。
「凪、お前は相変わらず潔にベッタリだな」
「悪い?」
「いや、別に悪くねぇよ。けど潔困ってんぞ」
確かに玲王の言う通り潔は少し困っているのは確かだ。
普通に後ろから抱き締めてくる分は構わないのだが凪は潔を後ろから抱き締め体重を掛けてくる癖がある。
その体重の掛け方が日に寄って違うが今日は何だか少し重い方なのは確かだと思い潔は苦笑した。
「確かにちょっと重いんだよ。離れてくれねぇか?凪」
「え?やだ」
「やだじゃねぇよ。最初に重いって言っただろ?俺は玲王みてぇに背が高くもなければ力が強い訳でもねぇんだよ。特にお前はデカイんだから」
「でもやだ。俺、潔にくっついてたい」
「おい、凪、お前、駄々捏ねてんじゃねぇよ。潔は俺等と違って小せぇんだからよ」
「おい、玲王、俺は小せぇ訳じゃねぇよ。お前等がデカイだけだ」
「潔のサイズってすっぽり収まって心地いいんだよね」
「凪、それはつまり小せぇって言いたいんだろ?」
平均身長よりも遥かに高い二人からしたら潔は小さい部類に入るだろうがこれでも175センチあるというのにと思っていると遠慮がちな声が聞こえた。
「おーい、あのさちょっといい?俺等の事無視?完全に居ない者扱いしてんだろ?特に未来の俺と凪」
その声は過去の玲王の声であり潔は謝罪しようと口を開く前に未来の玲王が過去の玲王の方に顔を向け対応した。
「ああ、悪い。この二人が心配でな。特に凪は何時も潔に迷惑掛けるし」
「何それ?心外なんだけど。心配で潔を追い掛けてきた俺が潔に迷惑掛けてるっておかしくない?」
「今日だけの事じゃねぇよ。そもそもお前は潔が心配だからより潔が行くなら自分も行くって発想だったろうが」
「うん、それは間違ってないけど。潔居ないのはつまんないし」
「あのさ、別に迷惑って程じゃねぇよ。迷惑ならとっくに無理矢理にでも振り離してるから」
「ほら、潔もこう言ってるし」
「だからってそれに甘えんな」
「いや玲王、お前がそれ言う?お前が凪を散々甘やかしてきた結果だろ?」
玲王の言う事につい突っ込むと過去の玲王が背負ってる過去の凪をチラリと一瞥し苦笑した。
過去の玲王も甘やかしている自覚があるからだろうと思っていた。
「あー、俺も完全に凪を甘やかしてるし未来の俺もそうだろうな」
「え?あー、確かに。でも今は甘やかしてるつもりはねぇよ。今の凪はこの通り潔にベッタリだしな」
「てか、あの他人に興味ねぇ凪が何をどうしたら俺以外の奴に懐くんだ。いや、俺の時も凪が俺に懐いてると言うよりは俺が構ってんだけどさ。あ、この潔って奴が凪に興味を持って構いだしたとか?」
「違う。逆だ。凪の方が潔に興味を持ったんだ。今まで一緒に居た俺をあっさりと切り捨てる程にな。あー、今でも思い出すとちょっとムカつくんだけどよ」
「え?凪の方が?」
「あー、玲王、あの時は悪かった。別に俺はお前から凪を奪ったつもりはねぇんだけど…」
「解ってるよ。今はお前に対して怒ってねぇよ。凪がお前を選んだんだし。けど、やっぱり凪には裏切られたって感情がまだ残ってんだよな」
「えー?レオ、まだそれ言う?めんどくさーい」
「凪の方が興味を持って俺をあっさりと切り捨てたってほんとに一体何があったんだよ」
「あー、教えてやる。教えてやるよ。お前は俺だからきっと解ってくれる。愚痴言いてぇ気分になったし」
「そうか」
「おう、潔、ちょっと凪連れて行っといてくれねぇか?潔が此処に居るとこの話が面倒臭ぇと思う凪が不貞腐れるだろうしな。あそこにベンチあるし」
「おう、解った。じゃあ行くぞ、凪」
「イエスボス」
玲王に言われ凪を引き摺ったまま踵を返すと本当に近くにベンチがあるのを見付け潔は凪を引き連れベンチに座り凪に膝枕をした。
「あー、潔の膝気持ちいいー」
「そうか、それは良かった」
凪のふわふわの頭を撫でながら潔はふと笑みを浮かべ過去の玲王におんぶされていた凪の表情を思い出した。
(やっぱ凪変わったよな。確かに今もそんなに表に表情出さねぇけど)
それでも昔と比べると少しだが今の凪は柔らかくて楽しそうな表情をしている。
あの過去の凪は本当に無気力で何もかもが本当につまらないという顔をしていた。あの顔は食堂で初めて凪を見た時の凪と同じだったと潔は思っていた。
今日も面倒臭がる凪を無理矢理引き連れサッカーの練習に参加させ終わった後、「疲れたからおんぶしてー」という凪をおんぶし校舎から出たのであった。
別に凪をおんぶするぐらいの力はあるので別に構わないしサッカーの練習をサボる以外の我儘なら何でも訊いてやるつもりだ。
それは玲王自身、『面倒臭いしつまんないからサッカーなんてやりたくない』と言う凪を才能があるからと無理矢理サッカーに誘った負い目があるからだ。
何だかんだサッカーに付き合ってくれる凪は良い奴だろう。
その代わり『嫌だと言ってるのに楽しくないものを無理矢理やらせてんだから何でも言う事を訊けよ』というような般若無人ぷりであり『あれしてこれしてー』や『やだー』という子供みたいな我儘も多い。
その我儘ぷりに偶に『いい加減にしろよ。ガキかよ。この野郎』と思う事はあれど結局は責任を感じ許してしまう。
玲王にとって凪は宝物だ。厳密に言えば凪のサッカーの才能に惚れ込んでいる。
凪自身も何時も無表情であるが怒る事もないし助言みたいなのもしてくれるし優しく良い友達だと思っている。
凪が居ないと玲王の夢は叶う事はないと思っている。自分一人だけの力で世界一なんて夢のまた夢だ。
だけど凪が居ればきっと叶う。
だから、その為なら我儘でも何でも訊いてやると思い校門を出ようとしたところで頭を抱えている同世代の男が目に入った。
(何だ、アイツ。この学校の生徒か?)
だけど制服は着用していない為、一旦家に帰宅したが忘れ物を取りにもう一度学校に来たのだろうかと思い首を傾げながらもその男の横を通り過ぎようとした時だった。
「あーー!どうしよう!玲王ー、凪ー、助けてくれー!!」
(は?コイツ俺と凪を知ってる?)
その男がその後、何を叫んでいたかも耳に入らず『助けてくれ』の言葉も忘れ玲王は警戒した。
玲王は御影コーポレーションの御曹司であり、それこそ昔はよく誘拐もされかけた。
だからこそ見た事もない知らない男が玲王と凪が通っている白宝高校の前に居り玲王と凪を知っているだけでも玲王にとってこの男は要注意人物だと思った。
玲王だけなら良い。だが、宝物である凪に何かある訳にはいかない。早く排除しなければと一瞬で思った。
「お前、何?」
「え?」
声を掛けると同年代ぐらいの玲王達より身長が低い男は玲王と凪を驚いた顔で凝視し「玲王、凪…」と呟いた。
その表情はまるで知り合いの顔を見た顔であるが玲王も知らないし凪も知らないようだった。
きっと演技か何かで親しいふりして近付く魂胆か何かと玲王は警戒を強めた。
しかし男は『人違い』だとか言って誤魔化した。バレバレの嘘だと解るしこの男をスパイとして送り込んだのなら馬鹿だと思っていた。
そして最終的に男は踵を返し逃走した為、玲王は凪を背負ったままでは分が悪いと思い降りるように言ったが、この我儘な宝物はこの状況でも降りる気はないらしく仕方なく玲王は凪を背負ったまま追い掛けた。
やはり凪を背負ったままだと思うようなスピードは出ないが、それでももう少しスピードを出すと少し追い付くかもしれないと思った時であった。
「潔ーー!何してんのー?鬼ごっこー?」
本当に何時も訊き慣れた声が聞こえ玲王はピタリと止まり背に居る凪を一瞥したが先程の声は訊き慣れたはずの凪の声ではないらしく玲王は後ろを振り返った。
すると物凄くスピードで高身長の男が確かに玲王の横を通り過ぎ怪しい男の前で立ち止まり玲王はその男の後ろ姿を見て目を見開いた。
(凪!?)
高身長で髪色はふわふわの白銀であり少し猫背気味の後ろ姿はよく見る後ろ姿であり玲王は咄嗟に自分が背負ってる凪を確認するように振り返った。
凪自身も自分に似ていると思ったのか驚いた顔をしていた。
それにあの怪しい男も長身の白銀の男を『凪』と呼んでいた。そして怪しい男の方は『潔』と言うらしい。
驚きのあまり固まったまま二人の話を訊く限りあの二人は一年後の未来から来たらしい。
つまりあの白銀頭の長身の男は凪で間違いないらしい。だが、一年後の凪であるが。
しかしそれだけではなかなか信じられなく玲王は二人の話を訊きながらも観察した。
そもそもあの他人に興味がない凪が未来では玲王以外であんなに親しい人物に出逢うのかと。
しかも先程も物凄いスピードで玲王の横を通り過ぎたぐらいだ。
凪は本気出したらあんなに速く走れるのかと思っていると未来の凪らしき男は潔という男の背後に回り潔という男を抱き締めズシリと体重を掛けているようだった。
「それより潔、走って疲れたからおんぶしてー」
未来の凪らしき男がそう言った事で玲王は『あ、アイツ凪だ』と確信した。
背中に居る凪も「うぇー、マジ?あれ絶対俺じゃん」と小声で言っていた。
面倒臭がりの凪が毎度『玲王、疲れたからおんぶしてー』とよく言うのだ。
相手は違っても同世代の男に『疲れたからおんぶしてー』と言うのは凪しか居ないと確信持って言えるし背中に居る凪自身もそう思っているらしい。
しかし残念ながら潔という男は凪より低くてもほぼ凪と同じ目線の身長の玲王と違い凪より頭一つ分ぐらい低い身長だ。
体つきもガタイが良い体つきでもない為、そんな男が凪をおんぶ出来るはずもないと解っているが、それでも未来の凪は潔という男から離れる気はないらしい。
(あの凪が未来では俺以外の奴にも懐くんだな)
残念ながら凪が玲王に懐くというよりは玲王の方が凪に懐いて依存しているようなものであるがと思っていると背中に居る凪が口を開いた。
「あの潔っていう人、未来での玲王の友達かな?だから未来では俺も仲良い感じなのかな?」
その凪の言葉に玲王は『そうか』と思っていた。
凪には玲王以外に友達は居ないし凪は他人に興味がなく自分から友達を作ろうともしない。
それに比べ玲王は人当たりも良く友達も多い方だ。それならばあの潔という男は未来での玲王の友達であり玲王の近くに居た凪とも仲良くなった感じだろう。
しかし今までも玲王は友達に凪を紹介しようとしたり凪に友達を紹介しようとしたが凪は『人間関係なんて面倒臭い』と言い誰とも仲良くしようとしなかった。
だから、あの潔という男が余程良い奴であるから玲王が何度も凪に紹介し凪が絆されていった感じだろうかと思い玲王は未来の凪と潔という男に歩み寄り先ずは未来の凪に本当に凪か問い掛けた。
やはり本当に凪で間違いなく色々と問い掛けると案の定、未来の凪は『面倒臭い』と言い放ち凪らしいと何処か嬉しく思った。
だから玲王は未来の凪にあれやこれやと訊くのは止め潔という男に先程の事を謝罪し声を掛けた。
そして探りを入れる感じで他人に興味ない凪とどうやって仲良くなったのか未来の玲王の方と友達だからこそ凪とも仲良くなったのか訊くと『寧ろ、逆』と言われた。
つまりこの潔という男は先に仲良くなったのは凪の方であり玲王の方は凪を通してという感じだったらしく玲王は心底驚いた。
あの他人に興味がない凪がどうやってと思い玲王は驚愕した。
しかも潔という男は寧ろ未来の自分に憎まれていたらしい。
色々尋ねようとすると凪が不貞腐れた顔で先程より潔という男に密着していた。
「ねー、潔、そんな話しなくてもいいじゃん。つまんない。構って」
その未来の凪の言葉に玲王は驚くと潔という男は宥めるように未来の凪の頭を撫でていた。
凪の『つまんない』という言葉は最早口癖のようなものだ。凪の口癖は『面倒臭い』と『つまんない』だ。
しかし、『構って』という言葉は玲王に対しても言った事は一度もないと確信持って言える。
凪は別に寂しがり屋でもないし寧ろ一人が大好きな男だ。
凪の方から玲王に話し掛けてくる事も少ないし玲王が凪に話し掛けてもゲームしながら『ふーん』や『へー』と聞き流す事が多い。
その凪が自ら、あの潔という男には『構って』と宣った。
どうやらこの未来の凪は相当、潔という男を気に入っているらしい。
それに未来の自分が来るから未来の自分が答えればいいと言っていた。
未来の御影玲王は未来の凪と潔という男が心配で来るらしい。
しかし未来の自分が来る事に未来の凪が『ぶっちゃけ玲王邪魔』と言い放った事に何故か潔という男が怒り出した。
未来の自分の為に怒っているのだと解り、やはり潔という男はかなり良い奴なのだろうと思い玲王は口を挟み少ししてから背後から自分の声が聞こえた。
「おーい、凪ー、潔ー、何してんだ?」
振り返ると本当に自分と瓜二つの男が現れ玲王は目を見開くと未来の自分らしき男は玲王達に一瞥もせず横を通り過ぎ潔という男と未来の凪の直ぐ近くで止まった。
(未来の俺と未来の凪、何で揃いも揃って俺等を無視すんだよ)
そしてまるで玲王と凪を居ない存在として扱う未来の自分と未来の凪に対し顔を引き攣らせるしかなかった。
しかし口を挟むと未来の自分には軽く謝罪された。
しかも潔という男の方が凪に興味を持ったのか訊くと凪の方が潔という男に興味を持ち未来の自分をあっさり切り捨てたらしい。
詳しく話す前に未来の自分は潔という男に未来の凪を連れて行くように言った為、潔という男は未来の凪を引き摺るようにしてベンチに向かい何と潔という男は未来の凪に膝枕をしていた。
「マジかよ。凪はおんぶを強請る事はあっても膝枕とか強請る事はねぇぞ」
そう言うと未来の自分はふと笑った。
「凪にとって潔は特別なんだよ。それこそ俺なんかよりもずっと特別な存在だ。今の凪はもう俺におんぶを強請る事もねぇし潔にべったりなんだよ。俺と二人で居る時も潔、潔、潔って煩ぇしよ」
「マジか。あの凪がそこまで気に入るなんてあの潔って何者なんだよ?」
「んー、潔世一。青い監獄のエースストライカー」
「青い監獄?エースストライカーってアイツもサッカーやってんのか?」
「アイツ程のサッカー馬鹿は居ねぇよ。なんつーか、潔のチームと試合して凪が潔を気に入っちまったんだよ」
サッカーなんてつまらないと口癖のように常に言っている凪が潔のチームと試合をして潔に興味を持ったという事は潔はそんなに凄い人物なのかと思った。
「つまり、あの潔っていう奴、そんなサッカーが上手いのか?」
「んー、確かに上手い方だな。だけど上手いと言うよりは凄いというか…。兎に角、サッカーIQが凄ぇ高いのは確かだ。なんつーかちょっと言語化すんのは難しいな」
「何だ、そりゃ」
上手いというよりは凄いというのはどういう事だろうと玲王は首を傾げると未来の自分は苦笑した。
「今から順番に教えてやるよ。俺と凪が潔と出逢ったのは青い監獄プロジェクトの会場だったんだ。15歳以上から18歳以下のサッカーが上手い奴が集められサッカーの育成をさせられ世界一のストライカーを育てるとこって言えばいいか。俺も凪もそこに呼ばれたんだ。まー、凪は案の定、面倒臭いって言って帰ろうとしてたんだけど俺が無理やり凪も連れて行ってな…」
「へー、そんな場所があるのか。何か楽しみだな」
世界一になるのならばそんな場所も必要だろうと思っていると未来の自分はハハッと笑った。
「まーな。俺は結構気に入ってる場所だし。そして第五号棟はチームVからチームZまであってな。俺と凪は勿論、最上のチームVで潔は底辺のチームZに居た」
「は?じゃあ、アイツ弱いって事だろ?」
Zという時点で底辺だろうと解っていたが、あの潔という男がチームZに居たというのなら潔という男は大した事ない人物なのだろうと思い言うと未来の自分は苦笑し掌を見せた。
「まぁ、最後まで訊け。確かに潔は最初は弱かったはすだ。青い監獄は300人集められたが確か潔は一番下から二番目と言っていたからな」
「マジかよ」
「つまり成長したという訳だ。俺も一番最初は底辺のチームZに余裕で勝てると思い侮っていた。チームZと試合するまで俺もZより上のチームと試合し余裕で勝ち進んでたからな。だからこそチームZなんて敵じゃないと思ってた。だが、そこが間違ってたんだよな。チームZも勝ち進んできたチームだったんだからよ」
まさか潔という男が居たチームZに敗北したのかと思っていると未来の自分は玲王を見て何を思っているのか察し頷いた。
「お前が思ってる通り俺等、チームVは潔が居るチームZに負けたんだ。しかもチームZの中心に居たのは潔だった。潔がリーダーみたいなチームだったんだよ。あの凪が敗北を恐れ自らドリブルし活躍したぐらいだからな。そして凪が一番潔のマークに付いてたんだ。あのチームZの中で一番危険な存在は潔だって把握してたからだ。だが、凪は潔に負けたんだ。潔からボールを奪えると思ってたのに最後に潔は凄いシュートを決め凪は俺等チームVは負けた。初めて敗北して俺はあまりにも悔しくて呆然としたよ。凪なんからしくなく足掻いたんだぜ?潔がシュートを決め点を取った後、凪は慌ててボールを持って俺に『まだ間に合う。あと二点取れば』と言ってきた。だが、そこで試合終了で終わった」
あのサッカーに特に興味もない上に試合に勝とうが負けようがどうでも良いと思っている凪が最後まで足掻いた事もそうだが凪や玲王が居るチームが敗北したと訊き驚きを隠せなかった。
「それからだよ。凪が潔に執着しだしたのは。潔のお陰でサッカーの面白さを知ったからと潔を追い掛けるようになった。二次選考で三人一組のチームを作る事になって凪は俺等のチームに入れたい奴が居ると言い出した。そいつが潔の事だったんだが、凪が潔を誘った時、潔は既に他の一人と組んでて潔は凪の誘いを断ったんだ。すると凪は、それじゃ自分が潔にチームに入ると言い出したんだ。既に組んでる俺を切り捨ててまで潔とサッカーがしたいからと潔となら強くなれそうだからと言いアイツは一人で潔が居るチームに入った」
「はぁ??」
確かにそれは玲王も訊いてて胸糞悪く思い顔を顰めた。
凪と玲王が組んでいる状態で潔という男が入ってくるのであれば何とも思わないだろう。それは未来も自分も同じはずだ。
但し自分を切り捨ててまで他の人物のチームに入るというのは絶対に裏切られたと思うだろうし、例え相手が悪くなくとも憎悪を抱いてしまうだろう。
「それは解るわ。そんな状況になったら俺も両方憎むわ。凪は俺が見付けた宝物なのにって思うだろうな」
「だろ?俺も最初はそうだった。あっさり俺を切り捨てて潔を選んだ凪を憎み凪を潔に取られたと思い潔の事も憎んだ。この状況、ほんとは潔は何にも悪くねぇんだけど逆恨みしちまってな」
「確かにな」
「でもさ改めて潔と試合して潔の凄さを間近で見て納得したんだ。凪が追い掛けたいと思っても仕方ねぇなって。何時までも凪に執着してたって俺は成長しねぇってな。一人でも強くならなきゃ駄目だってな。凪はあの通り未だに潔に執着してるけどさ。何せ凪の目標は潔に勝つ事だしな。アイツはどんどん強くなり真っ直ぐ進んで行く潔に自分を見ていて欲しいんだよな。アイツ、俺と二人で居る時も九割ぐらいは潔の話ばかりだし。いっつも潔を探してるしな」
「マジかよ。あの凪が他人にそこまで執着すんだな」
「ああ。でも凪が潔のお陰で変わったのは今となっては良い事だと思ってるし潔にも感謝してる。だが、凪に裏切られたという感情はなかなか消えなくてな」
「そりゃ仕方ねぇだろ。凪に裏切られたのは事実だしよ」
玲王だっていずれは同じ道を進むだろうし、その状況になったら凪に対して裏切られたという気持ちが出て消えはしないだろうと思っていると背中に居る凪がクアッと欠伸をした。
「ねー、レオ、まだ帰らないの?俺帰って寝たいんだけど」
「お前、この状況で言うか?未来の俺達が来てる状況で」
「だって、それ俺には関係ないし」
「相変わらずマイペースだな。今日は我慢しろ。俺はこの状況を楽しんでる」
「えー?」
相変わらずの凪のマイペースに玲王は苦笑していると未来の自分はハハッと笑った。
「そっか。凪は確かにマイペースだが此処までマイペースだったか。今の凪もマイペースには違いないんだが潔に出逢ってから何か変わったから、この凪を見てると懐かしい感じするぜ」
「それを言うなら未来のレオも何か変わった感じするけど」
此処で初めて凪が未来の自分に言葉を発した。
「それは凪が変わったから俺も変わったんだ。凪が俺の手から離れて行った事でお互いに見る世界も変わったからだよ」
「ふーん、てかレオの手から離れたって言い方、何か複雑。俺、レオの子供じゃないんだけど」
「似たようなもんだろ。俺は散々、凪の保護者扱いされてたんだしよ。今は凪の保護者は潔だと周りから言われてるけどな」
「うへー。俺からしたら全然知らない人が保護者とか言われると余計に複雑なんだけど」
「残念ながら今の凪は潔が保護者だと言われて寧ろ喜んでるぞ。アイツはどんな形でも潔との繋がりがあるだけで喜ぶタイプだからな。寧ろ潔が保護者だという言葉を逆手に取り全力で潔に甘えるからな」
「うへー、何それ。意味解んない。意味解んないのって面倒臭い」
「ほんとに意味解んねぇの?」
「は?どういう意味?」
実は玲王は未来の自分の話を訊き何となく解ってはいた。
そして今の未来の自分の問い掛けで未来の凪の感情を確信してしまった。
「あれか。あの未来の凪はあの潔という奴が好きなんだろ?恋愛感情として」
「そういう事だ」
それが解ってしまえば未来の凪の言動も納得出来る。
潔という男が玲王の問い掛けに答えようとした時の不貞腐れた顔と『構って』という発言。あからさまに独占欲を出していたと思っている背中から「はぁー?」という声が聞こえた。
「いや、流石にそれは有り得ないでしょ。恋愛なんて面倒臭い事、未来の俺がするなんて思えない」
「うん、お前はそう言うと思ったぜ」
凪の否定に未来の自分がすかさず返事すると凪が面倒臭そうに溜息を吐いた。
「未来の俺があの潔っていう人の事を好きって言った訳じゃないんでしょ」
「確かにそれは言ってねぇな」
「じゃあ勘違いだろ。憶測で未来の俺の感情を決め付けるなんて流石にそれはどっちの俺に対しても失礼じゃない?」
余程、未来の自分の感情を認めたくないからか凪は否定したが何時も凪の近くに居る玲王には解る。
これは本人だからこそ気付けない感情があっても以外と身近な人物が気付くものだろう。
だから未来の自分の言う通りであり玲王も気付いた通り未来の凪は確実に潔という男に恋愛感情を抱いていると思っていると未来の自分の背後から未来の自分を呼ぶ声が聞こえた。
「玲王ー」
三人共、その声の主の方に顔を向け未来の自分は声の主─潔に対し僅かに目を見開き首を傾げた。
「どうした?潔」
「あのさ、凪が動かなくなったんだけどどうすればいい?」
何だか困った笑みでそう言う潔に未来の自分は目を瞬き潔と未来の凪が居たベンチの方に視線を向けた。
玲王も釣られるように視線をベンチの方に向けるとベンチではなくベンチの真ん前でぐったりとしたように横になっている白銀のでかい未来の宝物の姿を視界に入れ苦笑した。
しかし未来の自分は未来の凪の今の姿を視界に入れヒクリと顔を引き攣らせ呆れたように溜息を吐いた。
「あんま訊きたくねーんだけど何でアイツはああなってるんだ?」
未来の自分が潔に尋ねると潔はハハッと渇いた笑い声を出した。
「いやー、俺、ベンチで凪に膝枕してやってたんだけど…」
「うん、それは見てたぜ」
「途中で重く感じて膝が痺れてきちゃって凪に退くように言ったんだよ」
「あー、うん、何となく予想出来た。凪が嫌だと言って駄々捏ねたか」
「うん、それでさ無理矢理退かしたんだよな。それで凪に一旦立たせようとしたら凪の奴、『面倒臭い』だの『疲れた』だの言ってズルズルと地面に倒れこんで、そのまま動かなくなっちまった」
地面に倒れ込むのは背中に居る凪でも時偶ある事だが、それでも少なくとも他人の迷惑と場所を考えられるはずだと思っていると未来の地面はもう一度『ハーッ』と盛大な溜息を吐いた。
「放っておけ」
そして放った言葉は明らかに見捨てるような発言であり、その発言に流石の潔もどうしようかと困った表情をした。
「いやでもさ、流石に放っておくって可哀想じゃね?」
「潔、甘やかすな。甘やかしたら調子に乗るだけだ」
「いやいや、今まで凪を散々甘やかしてきたお前にだけは言われたくねぇんだけど」
「うっ…、まぁそれは自覚あるけどよ」
未来の自分が否定出来ない理由はよく解る。
だって玲王自身、凪を散々甘やかしている自覚が十分にあるからだと思っていると未来の自分は肩を竦めた後、顔を上げ何か思い付いたようにニヤリと口角を上げた。
「丁度いいや。ちょっと揶揄ってやろう。潔、ちょっとこっち来い。俺の少し斜め前ぐらいに」
「は?」
未来の自分に対し潔という男は疑問に思い首を傾げたが未来の自分が潔という男の肩を抱き引き寄せた。
「おい、玲王!?」
焦ったように潔という男が未来の自分の名前を呼んだ時、未来の自分はチラリと未来の凪が倒れている場所に視線を向けた為、玲王もそちらに視線を向けると未来の凪は顔を上げた。
生憎と未来の凪の表情は解らないまま視線を逸らすと未来の自分は次は潔という男の肩に手を置き潔という男を見下ろし又、潔という男も未来の自分の肩を見上げ目を見開いた。
「へー。間近でよく見るとお前の顔ってやっぱ相当整ってて綺麗な顔立ちしてんだな。すっげぇイケメン」
「今更、俺にそんな発言する奴なんてお前ぐらいだぜ」
「何?自分は普段からイケメンでモテますアピールか?やっぱ御曹司は言う事が違うねー」
「悪ぃかよ。いや、けどお前も間近で見たら凄ぇ顔整ってんのな。童顔だが目はでかいし。何時も凪がお前の事、可愛い可愛いって言ってるのが解った気がする」
「は?アイツ、そんなに俺の事可愛いって言ってんの?凪の奴、大丈夫か?」
「いや、お前、本気で大丈夫かって顔すんなよ。流石に凪が不憫だぜ」
一見、恋人のように見えなくもないが会話も二人の表情にも一切甘さがない為、流石に凪が惚れている相手に変な事をする事は無いかと思っていると玲王は未来の自分の背後に突然現れた人物を見てゾクリと恐怖で鳥肌が立ち顔を青褪めた。
「潔に何してんの?レオ」
その人物は未来の凪であり未来の凪は地を這うような低く冷たい声と未来の敵視どころか殺意が篭った瞳で未来の自分を見ていた。
そして未来の凪は未来の自分から潔という男を引き離し潔という男を自分の腕の中にぎゅうっと抱き締めた。
「っムグ…!なぎ…?ちょい苦しい…」
「あ、ごめん、つい」
潔という男が苦しそうに少し藻掻くと未来の凪は少し腕の力を弱めたみたいだが、それでも潔という男を離す気は毛頭ないらしく未来の自分を睨み付けていた。
「いくらレオでも勝手に潔に触らないで」
「あー、へーへー。てか、やっぱりお前は潔に何かあると直ぐ来るんだな。あんま独占的剥き出しにしてると潔に嫌われるぞ」
しかし慣れているのか未来の自分は呆れながらもすかさず未来の凪に言い返した為、未来の凪はムッと不貞腐れた顔をしていた。