Disillusion もうすぐ9歳の誕生日を迎えるという時、私は捨てられた。名目上では孤児を保護する施設などと謳っていたが、実際は親に捨てられた子供達が集まる孤児院のような場所。
そんな自分も例にもれず、親に連れてこられた。
元々口下手で、勉強やシスターとしての修行も上手くできない自分のことを他の子供は積極的に仲間外れにしていた。それでも苦痛に思わなかったのは、生まれた時から両親に1度も愛されず、虐げられて育ってきたからだろう。そしてこれからも自分は独りなんだと、改めて自覚したのは修道院に来て2ヵ月目、私が9歳の誕生日を迎えた時の事だった。
「やっぱり冴ってすごいよね~」
「本当にね。勉強もシスターとしての修行も完璧に出来るなんてさ。どっかの誰かとは違うようねー」
木陰で読書していると、後ろの方から談笑する声が聞こえてきた。どうやら木の陰に隠れている自分のことに気付いていないみたいで堂々と私の悪口を言っているようだ。しばらく話しているようだったから気になって振り返ってみると彼女達は、同じく木の陰で本を読んでいる冴を見ていた。
冴は、自分よりも2つ年上で、修道院の皆から「天才」と呼ばれている。勉強での成績はいつでも1番だしシスターとしての修行も完璧な彼女はこの修道院が始まってから類を見ない天才だと先生達も大絶賛していた。更に冴はそれを鼻にかけることもなく、誰とも仲良くしようとしないことが拍車を掛けて「孤高の天才」なんて言う人もいる。
そんな自分も他のシスター同様に冴に憧れている人間の1人だ。
「ねぇ 何で一人でいるの?」
「え?」
顔を上げるといつの間に近づいていたのか、目の前に冴がいた。そしてその後ろで、とんでもなく不機嫌な顔をした取り巻き達がこちらを見ている。
「えっ...と」
ただでさえ口下手なのに憧れの人に声を掛けられて返答できる人などいるのだろうか。それに何で一人でいるのか?と言われても答えられるような理由はない。ただ自然とそうなっただけ。何をやっても上手くいかない自分など関わる意味などないのだから。
「あ、あのっ!」
「どうかした?」
「私に関わらないほうが良い..ですよ」
「どうして?」
何も答えなくなった自分を見て不思議に思ったのか首を傾げてくる。自然と冴の綺麗なターコイズブルーの瞳に真っすぐ見つめられるような格好になってしまって思わずふい、と顔を逸らす。冴は美人であることでも有名だった。それにこれ以上冴と話していると他のシスターに今以上に目を付けられてしまう。
気まずそうに周りを見ている自分をみて何かを察したのか「あぁ」と納得したような声がした。
「同じなんだね。私と」
「は?」
いきなり同じだと言われて今度は素っ頓狂な声が出た。同じ?私が?冴と?
今度は頭の中がハテナで埋め尽くされる。歴代のシスターの中でも群を抜いた天才様と私に共通することなんて1つもないハズだ。強いていうなら瞳の色くらいだろうか。この瞳の色だけは自分でもかなり気に入っている。冴よりも若干薄い色をしたターコイズブルーの瞳。この瞳の色だけは、冴と同じ物を持っているような気がしてとても嬉しかった。