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    なさか

    たぶろいどぬまにずっぽり
    ☆正規ルート=ストーリーに準拠
    ★生存ルート=死なずに生き延びる話
    無印は正規ルート(死ぬまでの間)の話

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    なさか

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    トリガー×タブロイド
    ★生存ルート

    What a wonderful world.★生存ルートです
    ※身体的障害の描写があります。ご注意ください。











    抜けるような青空を、一機の飛行機が横切っていく。民間機だ。もう、民間機が飛べるまでに世界情勢は変化した。難民問題についてはまだ禍根を断つことが出来てはいないが、それでも少しづつではあるが、良い兆しが見えてきている。

    その青空の下を車椅子を押した青年がゆっくりと歩いている。たまに車椅子に乗せた相手の顔をのぞき込むようにして話しかけながら笑いかけ、穏やかな時が流れていた。話しかけられた方───タブロイドという名の男───はそれに応えて、共に笑う。

    「トリガー、今日の空はどうだ?」
    「すこぶるいいね。飛ぶには最適だ」

    トリガーと呼ばれた青年はゆるりと空を見上げた。無駄に空を覆うものはなく視界を邪魔するものもない。それは今となってこその話だ。

    「タブロイドにも分かるだろ?」
    「俺にはもう遠いものだからなぁ」

    タブロイドがそういうや否や、穏やかな顔をしていたトリガーは顔を顰める。以前からそういうことを言うのはやめろと散々言ってきたのにいつまでたっても理解しないタブロイドを睨みつけた。

    「タブロイド」
    「すまん、解ってる」

    どの口で、と思いながらもそれも仕方の無いことなのかとトリガーの胸は痛んだ。

    今より少し前、ここは戦場であった。空は戦闘機、UAV、ミサイル、そんなもので埋め尽くされていた。所謂戦争というものがあった。今みたいに空の穏やかさを語るものなどおらず、またそんな余裕もなかった。
    トリガーも、タブロイドも、その真っ只中にいた。トリガーは空を翔、タブロイドは地上にて難民の保護をしていた。互いに互いを気にしつつもお互いの役目の前に気にする事はないように、と事前に話し合っていた。
    トリガーは仲間たちと共に徐々に戦線を押し、タブロイドもジョルジュという新しい仲間を得、役目を全うしていた。そうそして。
    トリガー達が空でアーセナルバードを墜とそうとしていた。トリガーの活躍は他より抜きん出ていて、アーセナルバードは早々に墜ちかけていた。ただしそのための電力供給をカットしたため、アーセナルバードから放たれたUAVが落下を始めた。海の上だけならいい。しかしそれらは難民たちのいる場所にも及んだ。地上は大混乱、皆散り散りに逃げ惑った。そんな皆を444部隊の頃からの馴染みであるエイブリルや、タブロイドらが率先して誘導し、避難させていた。
    しかし、UAVは、無情にも難民の幼子の上にも墜ちかかっていた。それをタブロイドがジョルジュと共に助けようとして。



    「なんで言わなかった!」
    「言いたくなかった」
    「俺は聞きたかった」
    「俺は言いたくなかった。なんで分からない」
    「分かるわけないだろ!」

    トリガーは声を荒らげてタブロイドを責める。タブロイドはそれを気にせず淡々と答える。両者ともに言いたいことが沢山あってどちらも譲らないし、一歩も引かない。トリガーはタブロイドを睨めつけるも全く気にもしていないようだった。

    「それならいっそ死んだ方が良かったか?」

    もたらされたタブロイドの一言はトリガーの頭を真っ白にさせるくらいに衝撃的なものだった。タブロイドはというとその顔に言葉とは裏腹に皮肉めいた笑みを浮かべていた。
    トリガーは思わず手を出して───出しかけてタブロイドの眼前で止めた。

    「なんでやめる?」
    「……タブロイドにそんなことできない」
    「できるだろ?」
    「できない。タブロイドを傷つけたくない」
    「お前は馬鹿だなぁ」
    「馬鹿でもいい……でもそんなこと言うな」

    トリガーは俯いて訴えたがタブロイドは何も言わなかった。言えなかったのかもしれないがトリガーにそれを知る余地はなかった。沈黙はしばらくの間続き、そのまま時が流れていった。


    タブロイドは幼子の命を救うのと引きかえに両足、膝から下を失った。巻き込まれそうなジョルジュと幼子を突き飛ばして逃がしたが、自身は逃げきれず落下してきたUAVの下敷きになったのだ。慌てて助けようとジョルジュが引き返そうとしたがそれを止めて子供を避難させ、これで良かった、と思ったところ他の仲間を引連れてジョルジュが戻ってきた。そんなことをしなくてもいいと言ったのに皆は諦めなかった。何とかUAVの下から抜け出せたが、挟まれた足は完全に押しつぶされ、救助されるも切断せざるを得なかったのだ。

    きぃ、と音を立てて車椅子が動きを止める。相変わらず空は綺麗だ。自分たちがあの中を飛び回ったのが嘘みたいに。ここに来るまで色々あった。ありすぎるくらいだ。後悔はしていない。しかしトリガーにはただ一つ、心の重りになってしまったものがあった。タブロイドのことだ。もし一緒に来ていたなら無事だったろうか。それとも結局変わりはなかったのだろうか。それらのことを考えると胸が痛む。だからこれから先はずっと一緒に───

    「トリガー、話をしよう」
    「話?」
    「そう、大事な話だ」

    そう言ってもう一度空を見上げたタブロイドの視線は、けれど違うものを見ているように見えた。トリガーはえも言われぬ不安を覚えた。

    「……ちょうどいい頃合だ」
    「え?」
    「もう終わりにしよう」

    空を見上げていたタブロイドが次にみたのが綺麗なオッドアイ。見上げなければ見ることの出来ないその目を覗いて、はっきりとした声でいった。

    「え……どういうこと?」
    「そのまんまだ」
    「なんでそういうこというの」
    「俺にはもうお前は必要ない、お前にも俺は必要ない。だから」

    突然の話にトリガーは動揺する。どうしてそういうことを言うのか。タブロイドの気に触るようなことでもしただろうか?トリガーは考えるも何も思い浮かばない。告げたタブロイドはじっと真正面を見ている。トリガーの答えなどいらない、とでも言うかのように。

    「いやだ、そんなの!俺にはタブロイドが、」
    「必要ないよ。お前は一本芯の通ったやつだ。一人でも歩いて行ける。俺なんて無駄な支えはもういらない」

    タブロイドはまたもトリガーの目を見つめた。そこに嘘はなかった。嘘がないなら真実で、彼の言葉もまた真実である。トリガーの動揺は広がる。今まで一緒だった。足を失ったからと態度を変えることなど一度も無かった。むしろ積極的に彼の手伝いをしたかった。今のタブロイドには正直できないことが多いだろう。だからそばでそっと支えながら二人で生きていたかった。それだけなのに。必要ないなどとは酷い言葉だとトリガーは思った。

    「いる!いるよ!タブロイドがいるから俺はまともなんだ」
    「いや、お前は元々まともだよ。今更おかしくなんかならないから大丈夫だ」
    「いやだ!タブロイドこそひとりで、」
    「生きていける。足がなくたって生きていけるさ。なんなら義足をつければいい。お前に頼らなくても良くなる。いつまでも俺のそばにいる必要は無いんだ」

    トリガーはタブロイドの言葉を重く感じた。認めるのは悔しいが確かに一人でも生きていけるのだ、タブロイドは。でもトリガーは受け入れたくはなかった。受け入れたら本当にもう、二度と会えない気がしていても立っていられなくなった。どんな手練手管を使ってでもタブロイドに認めさせなければならない。もはやタブロイドの為ではなく、自分の為に。

    「俺が傍に居たい」
    「俺は居たくない」
    「なんで……」

    トリガーが語気強めに訴えてもタブロイドは頑なだった。なんで、の続きが口から出てくることもなかった。
    タブロイドはあまり自分の為に我を通す存在ではなかったがそれにしたって今回は余りに酷い。裏を返せばそれだけ自分のことを思っているのだろうとトリガーはわかってはいるが認めたくはない。とにかくどれだけ時間がかかったとしても、タブロイドに解らせてやらなければならかった。けれどそれより先にタブロイドが畳み掛ける。

    「お前には戻るところがある。必要とする人が沢山いる。やることも沢山ある。……俺一人に囚われちゃいけない。だから」
    「だからなんだよ!俺の事はもうどうでもいいって?」
    「そういうことじゃない」
    「そうだろ?俺のことはいらないって」

    思わず感情的になったトリガーが、ふと見るとタブロイドはどこか泣きそうな顔をしていて、トリガーはしまった、と思った。確かにタブロイドの言動には不平不満があったが、それだってこれからも一緒にいたい、その一心でのことだった。
    タブロイドもタブロイドなりに考えがあるのだろう。そんな顔をするほどの。でもきっとそれを押し殺しているからそんな顔をするのだろう。
    だからといってそんな顔をさせたいわけでもなかった。どうすればいいのかもはや分からなくなったトリガーにタブロイドは語りかける。

    「よく聞けトリガー。お前のことをいらないと言っているわけじゃない。でももう一緒にいる理由はないんだ。俺はお前を自由にしたい」
    「俺は今とても自由だよ。タブロイドといる時だけ、俺は自由だよ。何でも話せてなんでも聞けて。タブロイドのことを考えてばかりの俺は自由だよ。タブロイドがいてくれなきゃ俺に自由はなくなる。これだけ言ってもタブロイドは俺から離れる気でいるの?」
    「そうだよ」

    タブロイドは歪んだ笑みでキッパリと答えを返す。これでそろそろ最後だと言いたげに。けれどトリガーは気づいた。やはりそうだったのだ。タブロイドは本心に嘘をつき、ごまかし、そして全てをなかったことにさせるつもりだということに。それなら今度はこちらが畳みかけて認めさせる番だ、とトリガーは笑った。

    「……嘘ついても無駄だよ」
    「嘘なんかじゃない」
    「タブロイドは嘘をつく時、いつもより返事が早い。気づいてない?」
    「……気づかなかったな」

    トリガーがその癖を見抜いたのはいつだったか。あまり嘘をつかないタブロイドの癖。彼のことをよく見ていたからこそわかったことで、それだけタブロイドをよく見ていたことなど彼は知る由もなかったのだろう。

    「じゃあ離れる気なんてないよね?俺はタブロイドといれば自由だよ。そして幸せだ。だから全ては嘘だって言って。これからも一緒にいよう?」

    トリガーの口調は軽いが態度は必死だ。まるで捨て置かれると察知した犬猫のように。自分を置いていかないで。その一言に尽きるだろう。
    別に離れ離れになったとて置いていくという訳では無い。けれどもう会わないと言う点では同じか、とタブロイドは自嘲気味に笑った。
    トリガーはもはや泣きそうにすらなっている。何がそこまで彼を追いやるのだろう。少し遠い、昔のようになるだけだ。ほとんど顔を合わせず、会話をしようとしなかった、あの頃のように。今度はタブロイドがそうする番なのだ。そう、しなければならない。トリガーのためにも。

    「ダメだ」
    「どうして!もっと分かりやすく話して。納得出来たら、タブロイドの言う通りにする」
    「だから、俺とお前は、ここでお別れだ」
    「それが分からないって言ってんの。なんでなの?突然だし。俺の為とかじゃなくて、タブロイドはどうなの?」
    「俺は」

    確固たる意思で持って心に決めたことなのにタブロイドは言葉に詰まった。少し、ほんの少し、タブロイドも気づかなかった隙間を、トリガーの言葉がつついて広げたのだ。そしてそこからタブロイドの最奥に隠しておきたかった本心が顔をのぞかせた。認めたくないそれはじくじくと心を痛めつける。本当は、本当は。

    「……お前は本当にそれでいいのか」
    「いいにきまってる。ていうかそうじゃなきゃ嫌だ、絶対」

    睨めつけるトリガーの目はそれでいて少し優しげでもあった。あと一息。そう思っているのだろう。そしてその通りだとタブロイドは思った。あと一言三言その思いをぶつけられたりでもしたら、自分は認めなければならないのだろう。───本当は離れるのが怖いのは自分だということを。それならばいっそ今すぐにでもこの心を解放してくれないか。

    「じゃあお前が言ってくれ、俺がお前のそばにいることを許す言葉を」
    「タブロイドはずっと俺と一緒にいる。それは一生の約束だ。何があってもどんな時もずっとそばにいろ」

    トリガーにしては珍しい口調だ。上からものを言う。けれどタブロイドにとってはそれで十分だった。本当に、そこまで思われるなんて、なんて本望だろう。自分はそれを切り捨てようともがきにもがいたというのに。

    「……一生か。重い言葉だな」
    「俺が支えるから大丈夫。……これからどうするの?」
    「まぁ歩きまわれはしないわな。のんびり車椅子生活でも送るよ」

    きっと快適だ。冗談めいてタブロイドが言う。トリガーも思わず笑う。タブロイドはトリガーを受けいれたのだ。トリガー本人と彼の望むことを。トリガーにとってそれは最上の喜びであった。最初はどうなるのかと気が気でなかったがタブロイドは許してくれた。

    「そばに居てもいい?」
    「ダメだと言ったら?」
    「Negative!聞き入れられない」
    「……お前の生活に支障がなければ好きにしろ」
    「わかった!……俺はずっとタブロイドといるよ。何があっても」

    ようやくタブロイドを説き伏せたトリガーはタブロイドに満面の笑みを見せた。タブロイドも釣られて笑う。これはふたりが望んだ形。ぶつかり、反発し、そうして得た関係。これからも長く続く、終わらない関係。トリガーがとても欲していた関係。タブロイドも望んでいた関係。上手くいったな、とトリガーは心の中でチェシャ猫のようににんまりと笑った。

    「そうか」
    「そうだよ」
    「……ありがとう」

    初めてでたタブロイドの嘘偽りの無い言葉。トリガーは少し目を見開いて驚いたが、その言葉をかみ締めて絶対タブロイドを何よりも守るのだと改めて誓った。彼ほど自分を思ってくれる人間など他に居やしない。何があっても手放さない。手放す気はさらさらない。ようやっと全てが確約されたのだ。タブロイドと共に生きることを。

    「いいえー。というかそんなこと言う必要ないよ?」
    「言いたかったんだよ」
    「そっか……そろそろ戻ろっか」
    「……そうだな」

    タブロイドは上向いて空を眺め眩しそうにしている。トリガーもそんな彼を見つめて微笑む。本当は涙ぐんでるのかも、とトリガーは思ったがそうだとしても知らないふりをする。
    これからまだまだ先は長い。タブロイドはタブロイドだ。昔も今も。何かを失くしたのならそれを補うのはトリガーの役目だ。身体的にしろ、精神的にしろ。もう二度とあんな思いをしたくない、させたくない。
    トリガーはまた車椅子を押し、タブロイドと会話をしながら彼と共に病室へと戻って行った。
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