新緑の棺人の心って庭のようなもので、感情とか記憶とか、そういったものが花になって咲いてるんだと思います。たまに様子を見に行かなくちゃすぐ荒れ放題になるところもそう。隣り合わせにしちゃいけない植物同士は離したり、逆に相性のいい植物同士もあったり、勿論剪定もしないといけないと思うんですよ。まあ、剪定は自動的に忘れていくことに近いのかなとも思うんですけど。でも時折思うんです。私の庭は、豪華に飾り付けるために花があるわけじゃなくて、たった一輪の花のための庭だったんだなって。
朝の5時だった。目が覚めたときにはすでにベッドに腰掛け、窓の外を見つめていた彼女に何をしているのかと聞けば、こちらを見ずにただ色々考えていて、と話しだしたのだった。
まだ暗い部屋の中、昨日とは打って変わったとつとつとした喋り方がそう思わせるのか、深海に差し込む光のように鼓膜を心地よく震わせた。うつ伏せの状態で枕に顔を沈めたまま「それはどんな花なんだ」と、寝起きのかすれた声で尋ねれば、彼女はそっと彼の頭を撫で、優しくて、背が高くて、洗濯物をため込みがちな、オレンジ色の薔薇だと最後は少し笑いながら答える。今日は洗濯するよ、と答える彼に返事はせず、黙って彼の懐に潜り込み、額を胸に押し当てる。
なんでそんなこと教えてくれたんだ、と眠りにつきそうになりつつも彼が尋ねれば、何拍かおいた後、「私にも、大切なものを大切にしたい気持ちがわかるって伝えたくて」と彼女が言う。
そこでようやくどうやら気まずい夜は明けたらしい、と彼は一人納得すると、彼女の背中に手をおいて、それから、それ以上は何もしなかった。──昨日はごめんの一言が出ない、そんな喧嘩の終わりがあったって彼は構わなかった。これからうんざりするほどの正解を二人で作っていくのだ。こんな日もあったと、いつかの養分になっていくのだろう、と掌で触れる熱を思いながら、やがて眠りについていく。
二人の寝息がら静かに部屋を満たす。
所在なさげにベッドヘッドに置かれていた、未使用のコンドームの箱は気がつけば床に落ちていた。
朝が来る。