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    case669

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    発掘した物の何を書こうとしたか思い出せないファレレオ

    ##兄レオ

    扉が開く音に微睡んでいた意識が現に引き戻される。瞼を開ければ丁度、ファレナが部屋の中へと足を踏み入れた所だった。かつてこの城が建てられた時、有事に王族が潜む部屋の一つとして造られた窓一つ無い、暗い部屋。人工的な薄明りに照らされて色濃い影を落とす巨躯が近付いて来るのをただ眺める。どうせ、することは何一つ変わらない。今まで幾度となく繰り返され、そしてこれから先も死ぬまで終わらないのだろう不毛な営み。
    この狭い部屋に閉じ込められた当初はレオナも逃れようとした。ファレナを殺してでも、もしくは自分を殺してでも自由を求めた。けれどその度に一つしかない扉にかけられる魔法の数が増え、レオナ自身にかけられる呪いが増えた。
    首輪で魔法を封じられ、手足の枷で自死や自傷すら封じられ、どう足掻いてもこの小さな部屋から逃げ出せないと理解した時、初めて此処がレオナの墓なのだと気付いた。恐らく、レオナがこの部屋の外に出る事は二度とないだろう。生命の維持に必要な物はレオナが通り抜けられない扉をいともたやすくすり抜けて過剰な程に与えられるが、それ以外に与えられるのはファレナの一方的な愛だけだ。
    ファレナに怒り、現状を嘆き、外に出たいと渇望していられるうちはまだ良かった。
    だがどう足掻こうと生涯此処から逃れられないと理解した時から、少しずつ死はレオナに絡みついていた。
    心臓は動いている、けれど心が動かない。欲しいと思う物がなくなり、嫌だと思う物も無くなった。
    あれほど複雑で巨大な感情を抱いていた筈のファレナを前にしてもレオナの心は酷く穏やかだった。何も無いと言ってもいい。
    「また、食事を取らなかったそうだな」
    ベッドに腰を下ろしたファレナが恭しくレオナの手を取り甲に口付けるのをただ見て居た。かつての面影が無い程に細く枯れた手。欲を失った身体は殆どの時間を寝て過ごすか、ただ虚空を眺めて過ごすだけで腹が空く事も無かった。
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