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    case669

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    裸族のレオジャミ

    ##レオジャミ

    レオナの部屋で、初めて「そういうこと」をした。
    知識として知っていた行為とは違い、レオナから与えられるものはとても優しく暖かくて、未知への緊張に強張っていた身も心もわたあめのようにふわふわにされてしまっていた。全てが終わった後、ちゃんと理性を取り戻さなければと思うのに、ふわふわに柔らかくなって思考すら宙を漂っているジャミルを、もっとふわふわのぽやぽやに膨らませるように暖かな温もりを与えて甘やかす物だから、はっきりと思考能力が戻って来たのはレオナの手でバスルームへと運ばれ、身体を清められ、再び戻ったベッドの上でレオナの腕に抱かれて後は眠りに落ちるだけという頃だった。
    このまま心地好い疲労感を抱いて寝てしまいたいのは山々ではあるが、一つだけ。
    「……このまま、寝るんですか……?」
    「寝たくねぇのか?」
    「いえ、そういうわけではないですけど」
    レオナの腕枕に抱かれ慈しむような優しい手つきで髪を撫でられ、今にも眠気に負けてしまいそうではあるのだが、ぴったりとくっついたレオナの体温が直に肌で感じられる、つまりはお互いに衣服をまとわないままの状況は今まで生きて来た中で経験のない事で、「そういうこと」の時に全裸になる覚悟は決めてきたが終わった後も何も纏わないままでいる予測はしていなかった。
    だが、よくよく考えてみれば服を着なければいけない理由が見つからない。保温、公共の場での身嗜み、服装による精神面のコントロール、思い浮かぶ理由はどれもレオナのプライベートルームで暖かなベッドの中でレオナの温もりに包まれ眠るだけの状況では不要な物ばかりで、レオナがこんなにも満足そうに寛いでいる中で確たる理由も無く異を唱える事など、ジャミルにはとうてい出来そうにない。
    「……なんとなく、落ち着かなくて」
    なんとか素直な思いを言葉に乗せれば、他人の肌と肌が擦れる感触なんて経験が無く身の置き所がわからないジャミルの足の間にレオナの膝が入れられ、緩やかに包まれていた体温にぎゅうと強く抱きしめられる。どこもかしこもぴったりとくっついて、押し付けられたレオナの胸元からは鼓動の音すら聞こえる。
    「嫌か?」
    つむじに落ちるレオナの静かな声。嫌では、無い。むしろ離れがたい気持ちはある。ただほんの少し、ジャミルの血流が良くなるだけ。
    それを伝えたくて顔を押し付けるように首を振れば、レオナがゆるりと笑うのを肌で感じた。
    「じゃあ、慣れろ」
    そうして幼子でもあやすように背を撫ぜられる。他人の隣で眠れる気がしなくて、今日は徹夜すら覚悟していた筈だったのに、レオナの鼓動と温もりに包まれながらいつしかジャミルは眠りに落ちていた。



    それからも寝る時に限らず、自分の巣の中では裸族のレオナに合わせてジャミルも自然と服を纏わないようになっていった。それでも全裸になるのは少し抵抗があったから、服を着るなら、まず上から。足はなるべく晒していた方が良いし、出来れば下着すら無い方がレオナが喜ぶ。上に着るものも、自分の服を着るよりもレオナの服を借りた方がレオナの機嫌が良い。



    そうやってレオナが裸族の解放感をジャミルに教え込んだくせに。
    「……服を着ろ」
    疲労の色濃いレオナの低音が恨み言めいてジャミルに向けられた。まあそれもそうだろう。トラブルがあったとやらで此処の所は連日仕事に追われている。ジャミルに手伝えることがあれば良かったのだが、国王とレオナ、それから数人の上層部だけでトラブル解決に奔走しているという特殊な状況ではジャミルに出来る事はあまりない。
    「着てるでしょう?」
    ほら、と見せびらかすように両手を上げる。ジャミルが今着ているのはレオナがかつて着ていた制服のシャツ。クローゼットの隅に大事に置かれていたものを懐かしくなって引っ張り出してきた。あの頃よりもいくらかジャミルの身長も伸び、体の厚みも出たから丁度良いサイズになっているのではないかと期待したが、あの頃よりはマシとは言えど布地が余っている。最近シャツをすっかり着ることもなくなったから(学生時代にきちんと着ていたとは言っていない)たまにはシャツの肌触りも良いと思い部屋着代わりに拝借していた。
    「……ちゃんと服を着てくれ」
    反論を諦めた代わりに懇願する方向に路線変更したらしい。ノートパソコンと書類が山積みになった机に肘をつき、ぐっと眉間を揉み解すレオナはジャミルを見ない。
    「何でです?懐かしくないですか?コレ」
    「懐かしさでムラムラするのに堪能するだけの時間の余裕が無いので誠に遺憾ではございますがご遠慮願えませんか」
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    case669

    MEMOだだっ子なアデレイジグナタス要塞の、宰相の部屋。
    レイヴスが数度のノックの後、返事を待たずに開けたその部屋の中に、宰相が落ちていた。
    「………」
    これが普通の人間相手ならば心配してやるべきところなのだろうが、相手はアーデンである。何を思って床の上に大の字になって転がっているのかは知らないが、ろくでもない事を考えているのだという事くらいは流石にレイヴスも身に染みて理解している。扉から机までの直線上に堂々と落ちているアーデンを踏みつけてやりたいのは山々だが、下手に突いて関わり合いにはなりたくないので投げ出された足の方から回り込んで机へとたどり着く。広げられたままの資料や書類をざっと見渡し、邪魔にはならずに目に着く場所を探して持って来た報告書をそっと置いた。本来ならば書面と共に口頭で概要をざっと説明する予定だったが、本人がこの状態なら諦めるのが吉だろう。将軍としての務めはこれで十分の筈だ。
    そうして踵を返そうとした右足が、動かなかった。思わずつんのめりそうになるのを辛うじて堪え、足元を見ればだらりと地面に寝転がったままレイヴスの右足を掴むアーデンの姿。
    「普通さあ、人が倒れてたら心配するもんじゃないのぉ?」
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