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    支部にあげている『弟の幸せ』シリーズの、流川視点のお話の途中経過です。4ヶ月くらい放置しちゃってるので、一旦こちらにアップさせてください。いつか必ず、書き上げたいという強い意志だけはあります!これの花道視点のお話も書いてます。

    俺とお前の幸せオレの名前は流川楓。湘北高校元バスケ部。今はアメリカの大学に通って、プロデビューを目指している。
     これはオレと、桜木花道という、オレにとって唯一無二の男の話だ。

    -----------

     オレはもともと、桜木のことは嫌いじゃなかった、と思う。「と思う」としか言えないのは、「今思えば」という注釈がつくからだ。あの頃は、文句ばっかり言ってうるせーし、天才天才と素人のくせにうるせーし、なぜかオレに突っかかってきてうるせーし。とにかくうるせー奴だと思っていた。
     でも、オレに何度も勝負を挑んでくる奴は初めてで、それが新鮮だった。中学の頃はオレはキャプテンをやっていて、部員ともとくに問題なく接していたが、練習中はちょっと壁があったりした。一緒にコートの中にいるのに、遠巻きに見られているような、そんな感覚。桜木みたいに、あからさまに張り合ってきたり、倒してやると面と向かって言われたことはなかった。
     試合中もパス出さねーし、オレがミスすれば喜んで、シュートを決めれば悔しがる。そんなに目の敵にされるような覚えもなかったが、オレもそんなあいつには感情をぶつけることができたし、それが案外いやじゃなかった。

     その夏のインターハイ、山王工業戦。もしこの先インタビューかなんかで、生涯で印象に残っている試合は?と聞かれたら、この試合のことを答えると思う。最後のオレのパスを受けた桜木の、完璧なジャンプシュート。たった2週間で習得したなんて信じられない、綺麗なフォームだった。今でも目に焼き付いている。あれは、オレにとって特別な瞬間だった。それは間違いない。
     あの試合で背中を怪我した桜木はそのまま入院した。いつもうるせーと思っていた奴がいきなりいなくなって、オレはなんだかもの足りず、落ち着かない日々を過ごした。
     これまでは、自分1人で練習をして、うまくなることだけ考えていればよかったのに、ふとした瞬間に「おいキツネ!」と言う赤い頭を探してしまう。こんなことも初めてで、オレは少し混乱していた。
     桜木が入院中、何度か顔を見に言った。石井やマネージャーたちとは別に、1人で行った。1対1で顔を見たかったからだ。
     オレが行くたびにあいつは威嚇してきたが、それがオレだけに向かっているものだと思うと興奮した。バスケをしているときとあいつの顔を見ている間は混乱は収まって、息がしやすい気がした。
     桜木が戻ってきたのは冬の入り口に差し掛かった頃。復帰したあと、しばらくは体育館の隅で基礎練をしていた。あれだけ文句を言っていたのに、人が変わったように黙々と、与えられたメニューをこなしている。その顔は悦びに満ちていた。ボールに触れてうれしい、バスケができて楽しい。それを全身で表していて、その様子は他の部員のモチベーションにもなった。
     気がつくと、桜木はオレをじっと見ていた。出会った頃のような敵意のある視線じゃない。オレのすべてを吸い取ろうかとするような、貪欲な目。いいな、その目。オレはいつの間にか、桜木に見つめられていることに優越感を感じるようになっていた。
     桜木が全体練習に参加できるようになったのは、冬の選抜が終わった頃。桜木はブランクを取り戻そうと必死で、その成長速度は凄まじかった。入院中に体のケアについてもしっかり学んだようで、体の使い方も入部した頃より断然よくなっていたし、基礎練をしていた時期に、オレを始めとする部員のプレーや試合中の動き、戦略なんかを頭に叩き込んでいたからか、素人臭さがすっかりと抜けていた。
     そのなかで一番の変化は、オレの言うことに突っかからなくなったことだ。部活中、ミドルからのシュート練をしていたとき。桜木のフォームについて宮城先輩から意見を求められたことがある。それに対してオレはひじの角度について答えた。桜木は、少し悔しそうにしていたが、オレのアドバイスの通りにシュートを打って、成功していた。これには宮城先輩も周りの部員も驚いていた。以前ではオレのアドバイスを桜木が素直に聞くなんてことは考えられなかったから。桜木は、「ナリフリかまってらんねぇ」と吠えていたが、このあともオレにアドバイスを求めたりするようになった。
     そんな変化があった頃から、オレらは毎日のように居残り練習をするようになった。桜木がオーバーワークにならないように見張っとけと宮城キャプテンに言われていたから、なんとなく、あいつと一緒に残ることが増えたと思う。お互いに黙々とシュート練をする日もあれば、ワンオンワンをするときもあった。みるみる上手くなっていくのを見ているのは楽しかった。
     冬の寒さが厳しかったある日、オレは家に親がいなくて、練習終わりにどこかで飯を買って帰る予定だった。部室を出ると刺すような風が吹いていて、このあと一人で帰って飯を食うのが少しだけ憂鬱になった。
     一緒に外に出た桜木も、さみっ!と声をあげていたから、気持ちは同じだったのかもしれない。桜木がオレに声をかけたのは、たぶん気まぐれだったと思う。
    「キツネくんちの今日の晩飯なんだよ」
    「今から決める」
    「は?」
    「今日親どっちも泊まりでいねーから、どっかで買って帰る」
    「ふーん」
     桜木は、少し考えるようなそぶりを見せて、なぁ、と声を掛けてきた。
    「鍋するか?」
    「鍋?」
    「オレもこれから買い物して帰ろうと思ってるんだけどよ、さみぃから鍋食いてぇなって。一人だと鍋はできねぇし、おめーがよければうち来いよ」
     思わぬ誘いにどう返事をすべきか迷っていると、
    「別にイヤならいいけどよ」
    と、先に歩き出そうとする。
    「行く。鍋食う」
     オレがそう答えたら桜木は、おうよ!と言って振り返った。それが、オレたちの新しい始まりだった。
     その日、スーパーに寄って買い物をする桜木は、オレが知らない奴みたいだった。慣れた手つきで食材をカゴに入れていく。親から待たされた夕飯代を渡すと、キラキラと目を輝かせて、ちょっと贅沢しようぜ!と笑った。
     桜木の家は二階建てのアパートの一室で、うちより随分古く見えた。一階の一番手前。桜木と表札が出ている。
     ドアを開けると、入れよ、と顎で促された。室内は暗い。他に誰かいる気配もない。
    「んなとこ突っ立ってんな。たでーま」
     桜木はそう言うと、靴を脱いで室内に入り、部屋の明かりをつけた。
    「お、じゃまシマス」
    「カタコトじゃねぇか。さてはおめー、ダチんちとかあんま行ったことねぇダロ」
     図星だった。オレには、家に招いてくれるような仲のいい友だちはいない。
     玄関のすぐ横は小さな台所で、二口のコンロがついている。その横には、桜木の腰の高さくらいの小さな冷蔵庫。正面の部屋はたぶんオレの部屋と同じくらいの広さで、真ん中に低くて丸いテーブル。窓際の隅に小さめのテレビ。ここがいわゆる居間なんだろう。横の部屋は寝室らしかった。壁にユニフォームがかかっていて、タンスらしき棚も見える。寝室の横を抜けた奥に洗面台が見えていて、そのさらに奥が風呂場らしかった。
     騒がしいこいつからは想像できないくらい、家の中は物が少なくて静かだった。
    「人んちをジロジロ見てんじゃねぇよ。ほれ、あっちで手、洗ってうがいしてこい。洗濯回すから、おめぇのもついでに洗ってやる。練習着、洗濯機に入れろ。あとは適当に座っとけ」
     テキパキとオレに指示を出す桜木は母さんみたいで、そのまま口に出したら膝裏を蹴られた。
     オレは言われた通り、洗面所で手洗いうがいをし、練習着を古めかしい二層式の洗濯機に入れ、居間戻ってテーブルの前に座った。続けて桜木が同じように洗面所に向かい、そのうちにゴウンゴウンと洗濯機が回る音が聞こえた。
     桜木は上下スウェットに着替えていて、ふんふんと鼻歌を歌いながら買ってきた食材を調理台に並べている。
    「おめー、辛いのダイジョーブ?」
    「たぶん」
    「じゃキムチ鍋にしよーぜ。前によーへーが置いてったキムチあんだよ。うめぇぞ」
    「なんでも。食えりゃ」
     チッと舌打ちが聞こえたが、それでも機嫌はいいようで、とんとんと小気味のよく包丁を動かしている。オレが座っている位置からは桜木の背中しか見えないが、動きから相当慣れていることがわかった。
    「おめー、料理できんの」
    「おうよ。一人暮らしだからな」
     土鍋の中に水やらキムチやらを入れ、具材をぽいぽい放り込んでいる。その様子には一切の迷いがない。
     やはりこの家には、桜木しか住んでいない。入院している最中も家族が見舞いに来ている気配がなかったから薄々は感じていたが、親がいないのかもしれない。
    「あー…母ちゃんはオレがガキの頃、親父は中学んときに死んだ」
     黙り込んだオレを見かねて、背中越しにチラッとこちらを見やりながら告げる。
    「わりぃ」
    「何がだよ。別に悪くねぇ。おら、これ運べ」
     家ではほとんど手伝いをしないが、夕飯をご馳走になる立場だし(金はオレが払ったが)、家主の言うことは聞くべきかと、ノロノロと立ち上がる。
     卓上コンロを運ぶように言われたのでテーブルの上にセットすると、桜木が土鍋を置いた。コンロの火をつけ蓋を取ると、もわーっと湯気が立ち、キムチの辛い匂いが室内に充満する。ぐつぐつと煮えた真っ赤な鍋の中には、たっぷりの白菜、何かの肉、きのこ、ネギ、豆腐など、いろいろな具が入っていて、オレの腹がぐるーーっと派手に鳴った。
     後ろに立っていた桜木が、デケー腹の虫!と笑って、
    「食おーぜ!」
    と、山盛りの白飯と箸、取り皿をオレの前に置いた。向かいに座って、いただきます!と手を合わせる。オレもそれに倣って、いただきますをした。
     鍋はうまかった。上から見ただけじゃわからなかったが、油揚げとか大根の切れ端みたいなのとか、ちくわとかも入っていた。家で鍋をするときは大体具が決まっていたから、何が入っているかわからない鍋は初めてで、楽しかった。
    「いつもは鶏肉だけなんだけどよ。おめーの夕飯代で豚肉も入れてやったぜ」
    「感謝しろ」
    「食わしてやってんだろ!礼を言われるのはこっちだ」
    「うめー」
     そう言うと、桜木は一瞬驚いたように固まって、そうだろ!と得意げに言い、おかわりをよそってくれた。
    「キムチ鍋は何入れてもだいたいうめぇからな」
    「うちの鍋は透明で、鶏肉とか白菜とか入ってて、ポン酢とかつけて食べる」
    「水炊きっつーんだ。それもうめぇよな」
    「それしか食ったことねー。キムチ鍋初めて」
    「そーかよ。鍋っていろいろ種類あんだぜ」
    「どんな?」
     桜木はもぐもぐと口を動かして、一度ごくんと飲み込んだ。それから、うーんと考えるように下唇を突き出した。なぜだかそれが、とてもいいなと思った。
    「みそ味とか、ちゃんこみてぇなやつ。あとは普通にしょうゆだろ。豆乳が安売りのときは豆乳でやってみたこともあったな。あとトマト缶にスープの素入れればトマト鍋だ」
    「そんなにあんの?」
    「要はなんでもいいんだよ。うめぇ汁にたくさん具材入れりゃ」
    「そーなんか」
     オレは桜木のことを素直にすげぇなって思った。オレができるのはバスケだけだから、こんな風に食べる物については何も知らない。親が作ったもの、買ったものを食べているだけだ。
    「他のやつも食いてー」
    「ぬっ、今日はこれだけだぞ」
    「また別の日に」
    「また来る気かよ」
    「おめーがいいなら」
    「ま、まぁいいけどよ。そんなに気に入ったのかよ、鍋」
    「ん」
     ふーん、と言って視線をそらした桜木の耳がちょっと赤くなっていた。
    「おめーんち、今日親いねぇんだよな」
    「そう」
    「じゃあ、泊まってけば。もう遅ぇし、寒ぃしよ」
     桜木は、別のほうを見ながら小さく言った。
    「そうする。世話んなる」
    「おう」
     やっとこっちを向いて笑った桜木を見て、その顔もなんかいいなって思った。
     その日は結局、鍋のシメに雑炊をして(雑炊は初めて食った)、風呂を借りた。うちの風呂の半分くらいしかない狭い風呂で、オレが入るとざばーっと水が勢いよく流れてしまった。
     パジャマを持っていなかったので、桜木の中学のときのジャージを借りた。桜木はそれを見て腹を抱えて笑っていて、ヨロヨロしながら自分の布団の隣に客用の布団を敷いてくれた。
    「ペラペラの布団で寝れねぇとか言いやがったらぶっ飛ばすからな」
     オレとは反対の方に体を向けて、おやすみの代わりに桜木はそう言った。オレはなぜだかとても安心して、ぐっすり眠った。
     それからときどき、練習終わりに桜木の家に行って一緒に夕飯を食うようになった。寒いうちはいろいろな鍋を作ってくれた。ちゃんこ、豆乳、あと水炊きも。具材も味もうちの鍋とはぜんぜん違って、全部おいしかった。
     暖かくなってきても、オレはときどき桜木の家に言って夕飯を食った。桜木は名もない料理を作ることもあれば、「今日は麻婆豆腐の気分!」とか言って、ちゃんとしたメニューを出してくれることもあった。オレは基本的に味の感想とかを言わないから、うめぇのかまずいのか、それくらいは言え、とよく怒られた。あと、桜木の家ではよく手伝え!と言われたので、できたおかずを運んだり、食器を片付けたり、そういうことをするようになった。家で食器を流しに下げたら、母さんが不思議そうにオレを見て、熱でもあるの?と言ってきたときには、かなり居心地が悪かった。

     それからオレは、なんとなく桜木のそばにいることが多くなった。別に意識していたわけではない。でも、桜木の隣にいるのが一番しっくりくるというか、1人でいるより居心地がいいと感じるようになっていた。
     桜木も、最初は「なんだよキツネ」とか突っかかってきていたが、そのうちに慣れたようだった。
     2年になって、桜木と同じクラスになった。石井も同じで、初日からぐったりとした顔をしていた。相変わらず部活終わりに2人で居残りをして、他愛もない話をしながら着替えて、学校を出て、ときどき桜木の家に行く。泊まるときもあれば、夕飯だけ食って帰ることもあった。
     母さんに桜木の家で夕飯を食べるというと、夕飯代をくれるようになった。それから、うちに一度も連れて来なさいと言うので連れて行ったのが、その頃だったと思う。母さんは桜木を見るなり気に入って、オレよりもたくさん話をしていた。
     オレと桜木は、側から見たら仲のいい、部活の友だちなんだろう。オレもそう思っていた。
     ある日、部活の連中がみんなでうちにNBAのビテオを見にきたことがあった。桜木はオレの家にもう何度も来ていて、そのことに石井たちは驚いていた。
    「もしかしてだけど、流川って桜木君に気持ち伝えてないの」
    「気持ち?」
    「だから、桜木君のこと、好きなんじゃないの?」
    「............」
     石井にそう言われたとき、オレは頭の中に雷が落ちたような衝撃を受けた。「好き」ってそういうことか。オレが桜木の隣にいたいのも、なんだか安心するのも、もっと近くにいきたいと思うのも。オレが桜木を好きって気持ちなのか。オレは初めて自分の気持ちに名前をつけることができた。
     オレがしゃべらなくなったのをどう勘違いしたのか、おそるおそる、3人が聞いてきた。
    「ま、まぁ...好きかどうかは一回おいといてさ。流川はいいの」
    「いいって、なにが?」
    「桜木君と“フツー”の友だちのまんまでいいのってこと」
    「い......くはないけど、どーしよーもねー」
    「なんで?」
    「あいつは別にオレのこと好きじゃねー」
     桜木はさっきまでのオレと同じで、オレのことをただの部活の仲間だと思っているだろう。オレと同じ気持ちじゃないのなんか、わかっている。
    「でもさ、今桜木君の一番近くにいるのは、流川だと思うよ。誰かに取られちゃってもいいの?」
     桜木が誰かに取られてしまう?そんなこと、今まで考えたことがなかった。だってあいつはオレを見てるし、オレもずっとあいつを見てる。オレがアメリカに行ったって、必ず追いかけてくるだろう。それが当たり前だと思っていた。
    「それはダメ。ムリ」
     桜木の隣に、オレじゃない誰かがいる。それを頭の隅で思い描こうとするだけで、強烈な嫌悪感が襲ってきた。背中のあたりがざわざわとして、それだけは許せないと思う。
    「桜木君もなんだかんだ流川には甘いじゃん。1年の頃からは考えられなかったけどさ」
    「な。こう、通じ合ってるっていう感じするぜ」
    「流川は思うとおりにやればいいと思うよ。うちのエースなんだし。そのほうが流川っぽい」
     3人は、オレの応援をしてくれると言った。この気持ちを伝えるべきかどうかすらあの頃のオレにはよくわかっていなかったけど、味方がいることは心強かった。

     好きと自覚してから、ますます桜木から離れられなくなった。こいつは無自覚にいろいろな人を落としていく。先輩、後輩、他校の連中。
     それが我慢ならなくて、ぴったりと横に張り付くようにそばにいるようになった。

     姉ちゃんと桜木が会ったのは、2年の夏頃だった。ちょうど帰ってきていた姉ちゃんと、なぜか一緒に夕飯を食べることになって、姉ちゃんも一瞬で桜木のことを気に入ったようだった。
     桜木は桜木で、姉ちゃんの顔をじっとみて赤くなったりしている。オレはそれが気に入らなかった。もし、桜木が姉ちゃんを好きになったらどうしよう。そんな小さな不安がオレの心の隅に生まれて、落ち着かない。オレだけ見ていてほしい。このころにははっきりと、桜木への気持ちを自覚していた。
    「桜木のことなんだけど。どー思う?」
    「どうって?」
    「ねーちゃん、気に入ったんかと思って…」
    「いい子だと思うよ。明るくて、ちょっとお調子者っぽいけど」
    「好きになる?」
    「へ?」
    「ねーちゃん、桜木のこと、好きになる?」
    「心配してんの?私が花道くんのこと好きになっちゃわないかって」
    「あいつ、女が好きだし。うちに来たときも、ねーちゃんが学校来たときも、すげー見てて、顔赤くなってた。ねーちゃんもあいつのこと好きになったら…」
     姉ちゃんは大笑いして、それはない!と言い切った。彼氏がいるらしい。それを聞いてオレはほっとした。
    「あんた、花道くんのこと好きなの?」
    「うん」
    「花道くんは知ってんの?」
    「知らねー。言ってねーし」
    「花道くんも。あんたのこと好きなんじゃないの?」
    「あいつ、バスケ始めたのもマネージャーの女に気に入られるためだし、中学の頃は女子の告りまくってたらしいし。オレが好きだっつっても、信じるわけねー」
    「そうかな」
    「それに、さっきも言ったけど、ねーちゃんのことすげー見てた。たぶん、ねーちゃんのこと好きだと思う」
    「それはたぶんないけどさ。花道くん、モテるでしょ」
     それはそう。近頃は特に。
    「顔もいいし、背も高いし、目立つしね。あんたのファンは女の子が多いけど、花道くんは男女問わずに好かれる感じする」
    「あいつのこと好きだって言ってる奴、結構いる。他校の奴も桜木に会いに来たりしてる」
    「やっぱり。どーすんのよ、取られちゃったら」
    「それは…」
     石井たちも同じことを言っていた。2回しか会ったことがない姉ちゃんですらそう思うんだから、相当なもんなんだろう。
    「あんた、アメリカ行くんでしょ。残り時間、少ないよ」
    「わかってる。けど」
    「けど?」
    「オレが何か言って、今までみてーにふつうにできなくなったら困る」
    「あんた、ほんとに好きなのね。花道くんのこと」
    「そうだって言ってる」
    「じゃあ、伝えるしかないじゃん。このままだったらずっと友だちだよ。でも好きだって言ったら、なんか変わるかもしれないじゃん」
     そうかもしれない。伝えたらきっと何か変わる。オレのことを意識して、好きになってくれるかもしれない。
    「悔いのないようにやんなさいよ。今しかないんだからね、高校時代は」
     悔いは残したくない。バスケと桜木が、今のオレのすべてだから。
    「ありがとう」
     と言うと、姉ちゃんはオレそっくりの顔で笑っていた。
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    O4Otg

    PROGRESS支部にあげている『弟の幸せ』シリーズの、流川視点のお話の途中経過です。4ヶ月くらい放置しちゃってるので、一旦こちらにアップさせてください。いつか必ず、書き上げたいという強い意志だけはあります!これの花道視点のお話も書いてます。
    俺とお前の幸せオレの名前は流川楓。湘北高校元バスケ部。今はアメリカの大学に通って、プロデビューを目指している。
     これはオレと、桜木花道という、オレにとって唯一無二の男の話だ。

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     オレはもともと、桜木のことは嫌いじゃなかった、と思う。「と思う」としか言えないのは、「今思えば」という注釈がつくからだ。あの頃は、文句ばっかり言ってうるせーし、天才天才と素人のくせにうるせーし、なぜかオレに突っかかってきてうるせーし。とにかくうるせー奴だと思っていた。
     でも、オレに何度も勝負を挑んでくる奴は初めてで、それが新鮮だった。中学の頃はオレはキャプテンをやっていて、部員ともとくに問題なく接していたが、練習中はちょっと壁があったりした。一緒にコートの中にいるのに、遠巻きに見られているような、そんな感覚。桜木みたいに、あからさまに張り合ってきたり、倒してやると面と向かって言われたことはなかった。
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